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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
竜の聖域

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078 湖の先

 周囲を見回す。


 そこではバラバラになった丸太がぷかぷかと浮いていた。


 そして、足元の丸太を見る。


 もう一度、大きなため息が出た。


 と、そこで急に体が重くなった。今まですいすいと動けていたのが嘘のようにずしりとした重さがのしかかってくる。抱えていた学ぶ赤も重い。本当に重い。

 助けてくれていた銀のイフリーダの力がなくなったのだろう。


 これが本来の自分の力だ。


 丸太の上でバランスが取れなくなり、学ぶ赤を投げ出して、盛大に転ける。そして、そのまま湖に落ちる。


 一瞬にして、水に囚われ、どちらを向いているか分からない状況に陥る。


 水面を――水面と思われる方向を目指して足をばたつかせ、泳ぐ。泳いでいるというよりは溺れているという状況で、慌てて手を伸ばし、そこにある何かに掴まる。


 そして、一気に体を持ち上げる。


 視界に水面と青い空が広がる。大きく咳き込み、飲んだ水を吐き出し、生き返るために息を吸い込み、そして吐き出した。


 掴んだのは丸太だった。


 横を見れば、学ぶ赤が手に持っていた小さな壺を湖に落とさないように空へと掲げながら、必死の形相で丸太に掴まっていた。

 その姿を見て大きなため息が出る。


「すいません。滑ってしまいました」

 湖に落ちてしまった。


 肩から下げている木の弓、腰に下げている矢筒の中の木の矢、これらは乾くまで使い物にならないだろう。もしかすると、乾いた後でも使えない可能性がある。


 それに背中の蛇皮で作った袋の中の食料だ。保存用に乾燥させていたが、水に浸かったことで日持ちしないかもしれない。急いで食べてしまう必要がある。


 もう一度、大きなため息が出る。


 学ぶ赤がにょきにょきと必死な様子で蠢き、丸太の上に体を持ち上げ、大きく息を吐き出していた。


「学ぶ赤さん、どうしますか?」

 丸太に掴まったまま学ぶ赤の方へと話しかけると、不思議そうな表情で首を傾げていた。


「えーっと、イカダが壊れて、このような状況です。一度、戻りませんか?」

 そこまで言ってやっと意味が伝わったのか、ああ、という感じで頷いていた。

「いいえ、戻らないのです。この状況でも私の水流の力は使えるのです」

『ふむ。我も小物蜥蜴に賛成なのじゃ』

 いつの間にか丸太の上で肘を突いて寝転がっていた銀のイフリーダが学ぶ赤を肯定する。

『イフリーダが保証するなら、学ぶ赤さんに賛成するけど、その理由は?』

 銀のイフリーダが寛いだ様子でニヤリと笑う。

『まずは戻るのも進むのも手間が変わらないということじゃ』

『確かに、学ぶ赤さんの力を借りるということでは同じだと思うけど、距離は戻る方が近いんじゃないかな』

『次に戻ってどうするのじゃ?』

『それは新しいイカダを作って……』

『その間に他の魔獣が来る可能性もあるのじゃ』


 ……。


 銀のイフリーダの言葉を考える。銀のイフリーダは最初に『まだ』と言っていた。魔獣はまだ一体だけ――増える可能性はある。


 ……。


 大きなため息が出た。

『ソラはため息ばかりなのじゃ』

『進むのは納得したよ。でも、帰りも大変そうだって気付いたんだよ』

『そこはソラの力次第なのじゃ』

 銀のイフリーダの言葉に、またため息が出る。


 ……。


 ため息ばかり吐いている訳にもいかない。


 学ぶ赤を見る。

「了解です。進みましょう」

「任せるのです」

 学ぶ赤はやる気いっぱいだ。


「えーっと、この状況でも、この丸太を動かせますよね? 僕が言う通りに動かして貰っても良いですか?」

 学ぶ赤が頷く。


 まずは学ぶ赤に頼み、丸太を動かして貰うことにした。


「水流と門の神ゲーディア、水門を開き水の流れを動かす力を授けて欲しいのです――ウォーターストリーム!」

 学ぶ赤が丸太に抱きついた状態で器用に丸太を動かしていく。意外と小回りが利く力のようだ。


 まずは湖に落ちた二つの壺の回収だ。今はぷかぷかと浮いているが、いつ沈んでしまってもおかしくない。これは最優先だ。


 次に湖面に浮かんでいた編み紐を回収した。これも次の作業に必要だ。


 そのまま浮いている他の丸太に近寄って貰い、先ほど拾った編み紐で丸太と丸太を結びつけた。ただ結びつけただけなのでほどけてしまう可能性もあるが、丸太一本で動くよりは安定感が違うはずだ。

 作業を終え、水中から上がり、丸太の上に乗る。


 狭い。


 丸太二本分のスペースしかないので本当に狭い。学ぶ赤と自分、それに壺二つでいっぱいいっぱいだ。これでは寛ぐことも休憩することも出来ない。


「では、出発するのです」

「はい」


 出発した時とは比べものにならないくらいに情けない状況で湖を進む。


 やがて日が落ちる。


 休むスペースがない今の状況では眠ることも出来ない。


 夜の闇の中も湖を進む。学ぶ赤は夜目が利くようで、月明かりしかない闇の中でも問題無くイカダを動かしていた。


 そして、朝日が昇り始めたところで、周囲を崖に囲まれた渓谷のような場所に辿り着いた。

 今まで湖だと思い込んでいたが、もしかして川だったのだろうか。いや、そもそも川と湖の違いって何だろうか、なんて考えていると学ぶ赤が大きな声を上げた。


「もうすぐなのです!」


 丸太が崖をくり抜いた洞窟の中へと入っていく。


「ここは?」

 自分は向こう岸に学ぶ赤の里があると思い込んでいた。もしかして洞窟の中に学ぶ赤の住む地があるのだろうか?


 薄暗い、日が差し込まない洞窟の中を丸太が進んでいく。


 天井から水面へと落ちたしずくの音が周囲に小さく響いていた。

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