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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
竜の聖域

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076 触手

 イカダの前方の湖面では何かの存在を示すように波紋が広がっている。

『ソラ、次はこちらなのじゃ』

 しかし、それとは別にイカダの後方や側面から触手が現れる。


 新しく現れた触手に骨の槍を投げ放ち、吹き飛ばす。

『うむ。しっかりと神技ジャベリンを使いこなしているのじゃ』

『習得に苦労したからね』

 次の骨の槍を学ぶ赤から受け取り構える。


『あの程度で苦労したと言うとは……他の使い手たちが浮かばれぬと思うのじゃ』

『そう……かな?』

 確かに数日で習得した。しかし、ちょっぴり苦労したことには変わりないのにな、と思うのだった。


 前方の水紋からは何も現れない。

『次はこっちなのじゃ』

 銀のイフリーダの指示に従い、骨の槍を投げ放ち、新しく現れた触手を吹き飛ばす。

『イフリーダ、あの前方の何かと、周囲から現れている触手、別の個体だと思う?』

『いや、魔獣は、まだ一体だけなのじゃ』

『まだ、か』

 こんな厄介な魔獣が次々と現れてはたまったものじゃない。


『ソラ、次なのじゃ』

 追加で現れた触手に骨の槍を投げ放つ。

『今のところ、何とか対処できているけど、相手が水中というのが厄介だね』

 まだ触手しか現れていない。あの前方の水紋の下が本体だとは思うが、水中に潜んでいる相手に神技ジャベリンが、どの程度通用するのか、そもそも命中するのかが分からない。せめて姿を現してくれたら、と思うのだが……。

『うむ。さすがの我も水中は管轄外なのじゃ』

 銀のイフリーダのお墨付きも貰ってしまった。やはり相手を水中から引きずり出さないことには何とか出来ないようだ。


『ソラ、真下なのじゃ!』

 銀のイフリーダの言葉。


 真下……?


 足元を見る。


 イカダだ。


 そうイカダだ。


 そして、イカダが持ち上がった。真下から現れた触手によってイカダが浮かぶ。


 真下?


 どうする、どうすれば良い?


「ひゃうぅ」

 学ぶ赤がよく分からない声を上げて、転げ、イカダの上を滑る。壺も転がっていく。


 手に持った骨の槍。


 考えたのは一瞬。


 足元の、イカダの先にいるであろう触手へと狙いを定める。そして、投げ放つ。


 足元のイカダに穴が開き、突き抜け、イカダを持ち上げていた触手を破裂させる。


 浮き上がっていたイカダが大きな音と水しぶきを上げて水面へと落ちる。


 沈まないよな? 沈まないよな?


 体が勝手に動き、揺れているイカダの上を走る。転がっていた壺を抱え、イカダから滑り落ちそうになっていた学ぶ赤を引っ張り上げる。

『助かったよ、イフリーダ』

 自分の肩先から、ニヤリという、してやったりという表情の笑顔を覗かせていた銀のイフリーダにお礼を言う。


「ソラ、助かったのです」

 引っ張り上げられた学ぶ赤が胸をなでおろし、大きく息を吐いていた。

「まだ戦いは終わっていません」

 こちらの言葉に学ぶ赤が頷く。


 骨の槍を真下に飛ばしたことで、イカダに穴が開いてしまった。ここからイカダがバラバラにならないかを考えると、とても不安だ。


 この後の移動、大丈夫だよね?


 学ぶ赤に戦いは終わっていないと言った自分が先のことを考えている――先のことを考えている場合じゃなかった。


 何も持っていない手元を見る。まずは武器だ。


 残りの骨の槍の数は……?


 イカダの上には、丸太と丸太の間にある溝に引っかかった三本しか見えない。先ほどの攻撃で何本か水中に落ちてしまったようだ。

『これは不味いね』

 溝の間にある骨の槍を拾い、構える。


 そして、学ぶ赤が走った。


 イカダの前方へと走り、湖面に両手を広げる。

「水流と門の神ゲーディア、水門を開き水の流れを動かす力を授けて欲しいのです――ウォーターストリーム!」

 学ぶ赤の魔法の力。しかし、イカダは動かない。


「水流の力の流れを完全に相手に掌握されてしまっているのです」

 学ぶ赤が、不安気な、恐怖に怯えたかのような表情を見せる。


 ここからは逃げ出せない。


「学ぶ赤さ……」

 学ぶ赤が頭を振り、一瞬にして恐怖を振り払い、表情を引き締める。


「しかし、これでも里一の使い手なのです。負けないのです!」

 学ぶ赤が叫び、その広げられた両手から大きな力が生まれる。青く輝く力だ。

「自分にも見えるよ」

『うむ。あれが水の神の属性を持った神法なのじゃ』

 水の神の力を借りている魔法。


 神法。


 学ぶ赤の手の先、水面に大きな波紋が、いくつもの波紋が広がっていく。


 そして、イカダが動いた。


 何かを引きちぎるように、その場から逃げるように、ゆっくりとイカダが後退していく。

「くっ、速度が出ないのです」

 イカダはゆっくりと動く。


 このままでは逃げられると思ったのか、前方の水紋の下から何かが持ち上がってきた。周囲にもこちらを取り囲むように無数の触手が生まれる。


 現れたのは、半透明の大きな人の形をした生物だった。いや、人の輪郭をかたどっただけの異形だ。半透明な体の中を何かの球体が蠢いている。

 その下半身からは無数の触手が伸びていた。半透明の表面からも、ブツブツと粒が生じ、そこから触手が生まれている。


 新しい触手が生まれ、水面へと潜り込む。


 触手は再生可能だったわけだ。


「こんな……囲まれているのです」

 学ぶ赤が絶望の声を上げる。

「いえ、良くやってくれました。ありがとうございます」

『うむ。小物蜥蜴にしては良くやったのじゃ』


 敵は、湖面にその姿を現した。


『イフリーダ、頼めるよね』

『うむ。任せるのじゃ』


 これで、僕たちの勝ちだ。

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