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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
竜の聖域

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075 湖を渡る

「水流と門の神ゲーディア、水門を開き水の流れを動かす力を授けて欲しいのです――ウォーターストリーム!」

 学ぶ赤がイカダの前面に立ち、その両手を湖へと広げる。


 そして、その力によってイカダが動いた。


 最初はゆっくりと、後部に小さな水紋を残すように。


 そして、一気に加速する。


 水を掻き分けるのではなく、水の上を滑るようにイカダが進む。周囲の景色が一瞬にして流れていく。

 急加速によって吹き飛びそうになっていたマナ結晶や木の矢を入れた壺を慌てて押さえ、抱え込む。まとめていた骨の槍がイカダの上を転がり散らばる。こちらは補強用の若木に引っかかって落ちずに済んでいるようだ。

「早いっ! 想像していたよりもずっと早いです」

「ふふふ、私の力は飛竜よりも早いと評判なのです」

 学ぶ赤が前を見たまま答えてくれる。

「飛竜とは空を飛ぶ竜ですか? いや、それよりも、これなら、あの触手の魔獣に襲われることなく進めそうです」


 水を掻き分けて進んでいないため、水しぶきは殆どない。ただ早すぎて空気の壁が、風が痛いだけだ。イカダの上だと掴まる場所がなく、その場に踏ん張ることも難しい。ツボを押さえて吹き飛ばされないようにするだけでも、結構な力が必要だ。こんなことなら何処かに掴まる場所を作っておけば良かった。

 仕方なく、イカダの木と木を補強していた若木に足を差し入れ、風圧に耐える。


「こ、これは船が前提の力みたいです、ね。ゆ、油断すると壺が吹き飛びそうです」

「な、なんですとー!?」

 学ぶ赤が驚き、こちらへと振り返る。学ぶ赤も船の時と同じ感覚でイカダを動かしていたのだろう、こちらがどうなっているか把握していなかったようだ。

「学ぶ赤さん、前、前、前」

 学ぶ赤がこちらに振り向いたからかイカダが蛇行を始めた。周囲の景色が恐ろしい勢いで流れていくような速度だ。水の上を滑っているので座礁するような心配はないが、一瞬にして陸地にぶつかって吹き飛びそうな怖さがある。

「お、お、お、お、気をつけるのです」

 学ぶ赤が前を向き、水流の操作に戻る。イカダがまっすぐに進み始め、ほっとため息が出る。


「学ぶ赤さんの操作の邪魔にならないように話しかけません。壺はしっかりと持っているので、安心して操作してください」

「お願いするのです」

 学ぶ赤の声には切実な想いがあった。


 ……どれだけ壺が大事なのだろうか。


 イカダは湖の上を進む。


 向こう岸が見えないくらいだ、大きい、大きいと思っていたが、この湖は自分が考えていたよりも、もっともっと大きいようだ。

 学ぶ赤が一日かけてこちらに来たという話から想像していた広さを修正する。これを泳いで渡るのは無理そうだ。普通にイカダを漕いで渡っていたら、何日かかるか分からないだろう。

 学ぶ赤が使っているような水流を操る力が自分でも使えれば別だが、その力が使えない以上、自分が進むなら陸路しかない。


『はぁ……』

 心の中でため息が出る。

『ふむ。どうしたのじゃ』

 いつの間にかイカダの上で寝転がっていた銀のイフリーダが反応する。


『これは、帰りも、学ぶ赤さんか、同じような力を使える人に頼むしかないな、と思って、ため息が出そうになったんだよ』

 最悪、船が手に入れば何とかなると思っていたが、これは無理そうだ。場合によっては向こう岸で監禁に近い状態になる可能性も出てきた。


 湖の上をイカダが進む。


 しばらくは快適とは言えないが、恐ろしい速度で湖を進み続けた。


 そして太陽が真上に――そろそろお昼ご飯の時間かな、というところでイカダの速度が急に落ちた。


 周囲は水だらけで、どちらを向いても向こう岸が見えない。

「学ぶ赤さん、どうしたんですか? もしかして疲れて休憩? 食事に、って……?」


 イカダの速度がどんどん落ちていく。慌てた様子で学ぶ赤がこちらへと振り返る。その表情は凍り付いていた。

「水流の流れが、何か別の物に操作されているのです」


 そして、イカダの動きが完全に止まる。

「学ぶ赤さん、以前は、こんなこと、ありましたか?」

「ないのです! こんなことは初めてなのです」

 学ぶ赤の言葉に余裕がない。


『イフリーダ、これは……』

『うむ。敵なのじゃ』

 イカダの上に散らばっていた骨の槍の一本を手に取り、構える。


 いつでも攻撃できるように、周囲を、水面の動きを見る。


 そして、イカダの前方の水面に大きな波紋が生まれた。


 何かが、いる!


『ソラ、こちらなのじゃ!』

 銀のイフリーダの声が指し示す方向へと向き直る。それは大きな波紋が起きた場所とは反対方向、イカダの後方だった。


 そこでは、イカダを沈めようとしているのか、水中から巨大な触手が現れ、叩き潰すように振りかぶっていた。

 とっさに骨の槍を投げ放つ。


 骨の槍が風を切り裂いて飛び、触手を貫き、破裂させていた。青い汁をまき散らしながら千切れた触手が宙を舞う。

 すぐに次の骨の槍を探し、手に持って構える。

「学ぶ赤さん、イカダの上に散らばってしまった骨の槍を集めてください!」

 状況について行けなかったのか、オロオロとしていた学ぶ赤に指示を出す。


「わ、分かったのです」

 オロオロとしていた学ぶ赤は、指示が出されたことで状況に気付いたのか、表情を引き締め、散らばっている骨の槍を集め始めた。


『ソラ、次はこちらなのじゃ!』

 そして、次の触手が生まれる。


 骨の槍を投げ放つ。


 投げ放たれた骨の槍が触手を吹き飛ばす。


 威力は申し分ない。こちらの攻撃は相手に通じている。


 ただ、相手が水中に潜んでいることだけが問題だ。


『骨の槍がなくなるのが早いかどうか……これは、触手の数がどれだけあるかが勝負だよね』

『うむ』

 銀のイフリーダはイカダの上で腕を組み、胸を張っていた。

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