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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
竜の聖域

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074 出発進行

 夢。


 これは夢だ。


 何処かここではない場所。


 見知らぬ見覚えのある場所。


 何処かの渓谷。


 そして、深い洞窟。


「とどめを刺さないのですか?」

 見知らぬ見知った司祭の声に肩を竦める。


「とどめは刺すさ」

 目の前に存在しているのは――命が尽きようとしている竜。


 片翼が折れ傷ついた竜は、それでも、その翼を大きく広げ、こちらを威嚇する。


 それは何かを守るような――その姿には、命が尽きたとしてもここは通さないという、そんな意地が見えた。


 相手が死にかけだからと油断することは出来ない。


 手に持った剣を強く握り直す。


 そして、


 そして、


 そこで目が覚めた。


「今のは、夢……?」

 夢を見ていた。


 怪我をした竜と戦う夢。


 以前に見た、石の都とは、また別の場所、別の夢だ。


 この夢に意味はあるのだろうか?


 もしかすると、これから竜の王が住むという地に向かう状況が、竜と戦うという印象を強くしたのだろうか。その想像が夢に出てきただけかもしれない。


 頭を振る。


 考えても分からないことを考え続けても意味がない。今はやるべき事をやるだけだ。


 気持ちを入れ替え、シェルターから顔を出し、外を覗く。


 朝日がまぶしい。


 いつもよりは少しだけ遅い時間に起きたようだ。


『嬉しくなるような快晴だね』

『うむ。そうなのじゃ』

 いつものように、いつの間にか近くに立っていた銀のイフリーダに話しかける。


 外は晴れている。


 今日は良い天気だ。


 シェルターの外に出て大きく伸びをして体をほぐす。今日は湖を渡る日だ。


 イカダと、その上に乗せた荷物の確認を行う。


『問題なし、と』

『ふむ。何度も確認する必要はないと思うのじゃ』

 ここに居るのは自分とスコル、それに学ぶ赤だけだ。荷物が盗まれる心配はない――つまり、一度用意した荷物が変わることはない。確かに、何度も確認する必要はないだろう。


 でも……。


『忘れ物があっても簡単には取りに戻ることが出来ないからね』

『ふむ。ソラは心配性なのじゃ』

 かもしれない。


 荷物の確認を終え、朝食の準備を始める。


 湖から大量の蛇肉を引き上げ焚き火で炙る。湖の上では食事が出来ないかもしれない。出来る限り、今のうちに食べてお腹いっぱいになっておこう。


 その匂いに釣られたかのようにスコルと学ぶ赤がやって来た。普段は、自分が朝食を食べていても昼頃までは起きてこないのに、珍しい。もしかすると二人も今日が出発の日ということで緊張して眠りが浅かったのかもしれない。


「食べますか?」

「ありがたくいただくのです」

「ガル」


 二人が焚き火の前に座る。お肉を待ち構えている二人の様子を微笑ましいなと思いながら、蛇肉を追加する。


「スコル、自分たちは今日、出発するから、この拠点をお願いするね」

「ガル」

 スコルが任せろ、という感じで頷く。


 朝食を終え、昨日準備したものを身につけていく。


 腰紐には二本の水筒と木の矢が入った矢筒に石の短剣。手には折れた剣。肩から木の弓を下げ、背中には食料と石の王冠が入った蛇皮の背負い袋――これで自分の準備は完了だ。


「学ぶ赤さんの準備はどうですか?」

「むむむ。持って行く壺を二つまで絞ったのです。ソラにもどちらが良いか考えて欲しいのです」

 学ぶ赤は石窯の近くで腕を組んで悩んでいた。


「まだ悩んでいたんですか。どちらも持って行きません。壺は木の矢を入れた物とマナ結晶を入れた物の二つで充分です」

「な、なんと、なのです」

 学ぶ赤は未だ諦めていなかったようだ。

「今回は学ぶ赤さんを連れて行くのが目的なので諦めてください」

「ふふ、分かっていたのです。これらの作品は船で戻ってきた時に回収するのです」

 学ぶ赤は本当に分かっていたのか疑わしい表情で、そんなことを言っていた。もしかすると、あわよくば、なんて感じで考えていたのだろうか。


「ところで準備は?」

「終わっているのです。私が持っていく物は殆どないのです。この水筒くらいなのです」

 学ぶ赤が法衣の袖口から二つの水筒を取り出す。

「分かりました」

「全てソラに頼り切っているのです」

 学ぶ赤はこちらを見て笑っている。


「いつ、出発しますか?」

「すぐにでも、なのです」

 学ぶ赤の顔から笑顔が消える。そして決意を秘めた表情で頷いていた。


「分かりました。では、イカダを湖に浮かべましょう」


 二人で力を合わせて湖の側に作ったイカダを押していく。

「上の荷物が落ちないように気をつけてください」

 本当はイカダを湖の上に浮かべてから荷物を降ろしたかったのだが、その手間を惜しんだ。それに、荷物を降ろしている最中に、あの触手に襲われないか心配だったからだ。


 ゆっくりとイカダが湖に近づいていく。


「ガル」

 スコルがイカダを押している自分と学ぶ赤の間に入り、頭で押していく。

「手伝ってくれるんだ、助かるよ」


 スコルの助けも借りてイカダを湖の縁まで運ぶ。


 そして、湖の縁から滑らせるように、静かにイカダを降ろす。小さな水しぶきを起こしながらイカダが湖に浮かぶ。


 イカダは問題無く湖に浮かんだ。


「さあ、急いで乗りましょう」


 湖の上に浮かんだイカダに乗り込む。


 それをスコルが静かな瞳で見ていた。

「スコル、行ってくるよ」

「ガル」

 スコルが、ここは任せろ、という感じで頷く。


 さあ、出発だ。

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