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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
竜の聖域

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071 青い花

 拠点に戻ったところで小さなオオトカゲに結びつけていたツタを手放す。

「ふぅ、疲れた」

 思っていたよりも疲れる重さだった。同じような作業を行ったことで、木を運んでくれていたスコルに、再び感謝の気持ちが生まれた。


 そのままシェルターに向かい石の短剣を取ってくる。

『まずは、この大物からマナ結晶を取ってしまおう』

『うむ。小物な大物なのじゃ』

 銀のイフリーダはこちらを見て笑っている。


『イフリーダ、あまり皮肉を言っているとマナ結晶を上げないんだからね』

 オオトカゲの腹を石の短剣で切り捌き、その中に手を突っ込む。

『ふむ、それは困ったのじゃ』

 突っ込んだ手を動かし、中からマナ結晶を引き抜く。


『はい、イフリーダ』

 全然、困った様子がないイフリーダにマナ結晶を差し出す。

『うむ。確かに、なのじゃ』

 銀のイフリーダが小粒なマナ結晶を口に含み、そのまま飲み込む。


『でも、このオオトカゲ、拠点まで持って帰ってきて良かったかもしれないね』

 オオトカゲの死体を放置して湖の方へと歩く。

『ふむ。どうしてなのじゃ?』

 銀のイフリーダはどうでも良い、という感じで聞いてくる。

『体の中に手を突っ込んだからね。血だらけだよ』

 湖に手を伸ばし水を掬って、血を洗い流す。

『この魔獣って毒を持っているんだよね。そんな毒持ちの血が付着したままなんて考えたくないよ。前回の時は、イフリーダがバラバラにしてくれたから、すぐにマナ結晶が取り出せたけど、今回は違うからね』

『なるほど、なのじゃ』

 銀のイフリーダにとってはどうでも良いことなのかもしれない。返事がおざなりだ。


 湖の水を掬い、付着した血を綺麗に洗い流した。


 後は持って帰ったオオトカゲの死体の処理だ。毒を持った死骸をこの拠点に放置したくはない。かといって湖に沈めるのも、飲み水として使っている関係上、問題だ。

『となると、森に放置かな』

 せっかく、ここまで運んできたオオトカゲの死体だが、森に返すことにする。結びつけていたツタを持ち、引っ張っていく。流れ出た血が地面に線を引いていくが、こればっかりは仕方ない。

 東の森の中へとオオトカゲの死体を引っ張り、そこで手を離す。後は森が処理をしてくれるだろう。


 急いで処理すべきことを終え、一息つく。そして、学ぶ赤の作業がどうなったか気になり、そちらを――雨よけの方を確認する。


 そこには壁が出来ていた。まだ一面だけだが、しっかりと壁が作られている。


 驚き、そして嬉しくなり、雨よけの下にある壁まで走る。


 壁だ。


 レンガの壁だ。


 軽く叩いてみる。固い。しっかりと乾燥させれば、ちょっとやそっとのことでは壊れない建物になるだろう壁だ。

 お礼を言いたくなって学ぶ赤の姿を探す。


 周囲を見回し、窯の近くで学ぶ赤の姿を見つけた。


 窯の方へと走っていくと学ぶ赤の声が聞こえた。

「これは良い感じなのです」

 焼き上がった壺を持ち上げ、楽しそうにくるくるとまわっている。踊り、まわることに夢中で、こちらに気付いていないようだ。


「えーっと、学ぶ赤さん?」

 こちらが声をかけたところで学ぶ赤の動きが止まった。そして、ゆっくりと、油を差してあげたくなるような錆びた機械じみた動きでこちらへと振り返る。

「ソラに見られたのです」

「えーっと、はい、見ていました」

 学ぶ赤が丁寧に壺を置き、両手を握り合わせ、そのまま膝から崩れ落ちた。もしかすると踊りを見られたことが恥ずかしかったのかもしれない。


 恥ずかしいなら踊らなければ良いのに。


「えーっと、壁、良い感じです。ありがとうございます。他の面もお願いします」

 学ぶ赤が顔を上げる。

「いえ、たいしたことではないのです。自分が眠りに使っている場所が良くなるのは、私も嬉しいのです。礼を言われることではないのです」

 学ぶ赤がそう言うと立ち上がり、先ほどまで持っていた壺を手に取った。そして、こちらへと突き出してくる。

「それよりも、これなのです。非常に良い仕上がりなのです。こことか……」

「あ、えーっと、晩ご飯の支度をしてきます」

 学ぶ赤の話は長くなりそうだったので、途中で無理矢理切り上げ、食事の準備をすることにした。


 学ぶ赤は壺に狂っている。


『と、そう言えば……』

 スコルの姿が見えないことに気付いた。もしかすると、自分と同じように森へ行っているのかもしれない。自分が向かった東の森では姿が見えなかったので西の森の方かもしれない。


 まぁ、食事の準備が終わる頃には戻ってきているだろう。


 今日の晩ご飯は湖に沈めていた蛇肉を焼いた物と小動物の肉のスープだ。いつも通りの、代わり映えのしないメニューである。また魚が捕れるようになればスープの味も少しは変えることが出来るのだが。

『今度、釣り竿でも作ってみるかな。でも、餌になりそうな虫を見かけないし、餌なしの釣りは難しそうな気がするなぁ』


 食事の準備の途中、肉を炙っていると、学ぶ赤とスコルがやって来た。スコルは森へと修業に行っていたのかもしれない。

「ガル」

 少し疲れた様子だ。


 晩ご飯を食べ終わった後は、いつもの研ぎと文字の練習を行う。学ぶ赤は焼き物の続き、スコルは壁を邪魔そうにしながら、雨よけの下で丸くなっていた。


 そして日が落ちたところで眠りにつく。明日からはイカダ作りだ。


 朝、日が昇る前に目が覚める。もう完全に習慣になっている。


 暗闇の中、朝食を食べ、骨の槍を握って突きの練習を繰り返す。


 日が昇った後は、当初の予定通り、イカダを作るために丸太の処理を行う。


 ……。


 と、そこで東の森の入り口に植えていた植物の異変に気付く。


 昨日までは白い花を咲かせていたはずが、一部、青い花に変わっている。花の色が、どうして変わったのかが分からない。

『青いね』

『うむ。毒々しいのじゃ』

 いつの間にか自分の横に立っていた銀のイフリーダの感想は素っ気ないものだった。


『食べられる実がなると良いんだけど』

 青く変わったことでどうなるかが分からない。


 ……。


 青い花も気になるが、まずはイカダだ。


 頑張って完成させよう。

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