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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
禁忌の森
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007 場所

 疲れた体を起こし作業を開始する。


 まずは兜の中に水を汲み、その水を使って折れた剣を研ぐ。

『ほうほう』

 折れた剣を研いでいると猫姿のイフリーダが近寄ってきた。

『ずいぶんとこまめに手入れをするのじゃな!』

「他に刃物がないからね。この一本が生命線だよ」

 ある程度の研ぎが終わったところで、これからの作業の準備を始める。


 持ってきた細長い木の上部分についている枝を折れた剣で叩き折り取り除く。さらに5本の細長い木のうち4本を半分に叩き折る。これで2メートルクラスの木が1本と1メートルクラスが8本だ。さらに1メートルクラスの木のうち4本を半分に叩き折る。


 出来たのが2メートルの木の棒が1本。

 1メートルクラスの木の棒が4本。

 50センチクラスの木の棒が8本。


「うーん、やっぱりもう少し本数が欲しいなぁ」

『ふむぅ』

 銀の猫は考えるように首を傾けている。

「いや、ごめんね。イフリーダのおかげで5本でも持って帰ってくることが出来たのはありがたいんだ。でも、これだけだと考えていることには数が足りないから、またさっきの場所に行く必要がありそうだなって思っただけだよ」

『我は先ほどの場所をしっかりと覚えているのじゃ! 向かうなら、いつでも大丈夫なのじゃ』

「うん、自分も場所は覚えているよ」


 イフリーダと会話をしながら作業を続ける。


 50センチクラスの木の棒を取り、その皮を剥ぐ。無理矢理叩き折った部分から引っ張るように繊維の皮を丁寧に剥ぎ取っていく。

「この作業も、この折れた剣で行うのはもったいないよなぁ。何か代わりになるものを探すか作るべきかな」

 そして、そんな皮を剥ぐ作業を続けていると空が紅く染まり始めた。

「うわ、もうこんな時間!?」

 作業に夢中になりすぎたのか、いつの間にか夜はもうそこまで迫っていた。


 作った木の棒と剥ぎ取った繊維が風で飛んでいかないように、一つにまとめ置く。


 その後、急ぎ森の中から落ち葉を集める。今朝の焚き火の場所に、その集めた落ち葉をかぶせる。そして火打ち石代わりの金属片と石を何度も叩き合わせ火を点ける。

『ふむ。今朝よりもスムーズなのじゃ』

「うん。自分でも驚いているよ。なれたのかな?」


 そして日が落ちた。


 作った焚き火に落ちていた木の枝を継ぎ足す。兜に水を入れ温め、沸騰した後、冷まし、それで喉を潤す。

「ふぅ」

『ソラよ。疲れたのであれば、我に任せてゆっくりと休むのじゃ』

「うん。申し訳ないけど、今日も見張りを頼んでいいかな?」

『任せるのじゃ』

「それと出来れば火も見てもらえると嬉しいな」

『ふむ。そうしたいのじゃが、我はソラから余り遠くへと離れることが出来ないのじゃ』

「そうなんだ」

 月と焚き火の明かりだけが存在する闇の中、疲れた体に力を入れて立ち上がり、森の方へと歩く。そして何本かの枯れ枝と落ち葉を拾う。そのまま焚き火の近くに戻り座る。

「火が弱くなったら、これを投げ入れて貰ってもいいかな?」

『了解なのじゃ』

「それでも消えてしまったら、それはしょうがないってことで。頼んでばかりで、まだ何も返せていないけどお願いするよ」

 そのまま膝を抱え目を閉じる。ゆっくりと眠りに落ちていく。

『ふふ。ソラには後でたっぷりと返して貰うのじゃ』

 目を閉じた自分には銀の猫の姿は見えないが、彼女はきっと笑っていると思った。


 闇――


 そして朝日のまぶしさに目が覚める。


「朝……?」

 肌寒さに体がぶるりと震える。

『ソラ、目覚めたのじゃな!』

「うん、おはよう。あ、ちゃんと火が残っている」

 目の前の焚き火は弱々しくも、しっかりと燃えていた。

『もちろんなのじゃ。我とソラの約束なのじゃ』

「ありがとう」

 近づき手をかざし暖まる。火は弱く余り暖かくない。それでも、そのぬくもりで固くなっていた指が動く。体がほぐれ動くようになったのを確認するとすぐに森の中へと入り、落ち葉と枯れ枝を拾う。弱々しい焚き火に、それらの燃料を足し、空気を送り込んで火を強くしていく。


『ソラよ、今日の予定はどうするのじゃ? 昨日の場所に切った木を取りに行くのならば任せるのじゃ』

 彼女の言葉に首を横に振る。

「今日はここで作業をするよ。まずはいつものように魚を捕るね」

 黒焦げた原始的な木の槍を取る。手に持った木の槍を見る。いつ折れてもおかしくない状態だ。早めに何とかするべきだ。

「やること、やるべきことが多いなぁ」

 そのまま湖まで歩き、木の槍を構える。


 そして今日も三匹ほどの魚を捕まえた。

『ほう、ソラは物覚えが早いのじゃ』

「何度も同じ事を繰り返したしね。それと、ここの魚の警戒心が弱いのにも助けられているかな」

『となると、いつまでも上手くはいかぬという訳じゃな!』

「そうだね。魚が捕れなくなる前に、早めに何か他の食料を見つけるべきだね」


 そのまま昨日と同じように魚の下ごしらえをする。今日も魚の頭と内臓は森の中に捨てた。

「今日は青い石、マナ結晶なかったね」

『うむ、それは仕方ないのじゃ。魔獣と呼ばれるような強力なものでなければ体内に持っているものは少ないのじゃ』

「昨日の大蛇みたいな?」

『うむ。あのような魔獣であれば確実に、その体内にマナ結晶を持っておるのじゃ』

「となると、アレに勝てるようにならないと駄目って事だよね」

『うむ。ソラにはそうなってもらうつもりなのじゃ』

「う、うん。頑張るよ」

 腹ごしらえをし、煮沸した水で喉を潤し、一息つく。


 今日も折れた剣を研ぎながらイフリーダとともに言葉の学習をする。

「今は単語ばかりを中心に覚えているけど、それだけだと会話にならないんじゃないかな?」

『うむ。分かっておるのじゃ。しかし、それでも単語を覚えなければ、文法を教えるのも難しいのじゃ』

「そういうものなんだ」

『そういうものなのじゃ』


 休憩がてらの研ぎと学習が一段落したところで今日の作業を開始する。


 昨日作った木の棒を組み合わせる。

 十字になるように1メートルクラスの木の棒と50センチの木の棒を組み合わせ、昨日剥いだ繊維を紐代わりに結び合わせる。井の形になるように、横向きに1メートルクラスの木の棒を2本、縦向きに50センチクラスの木の棒を4本結び合わせる。

『ふむ。ソラよ、柵を作っておるのじゃな!』

「うーん、ちょっと違うかな」

 先ほど作ったものと同じものをもう一個作成する。これで持って帰ってきた木の棒は未加工の1本を除き、全て使ったことになる。

「何処がいいかな」


 湖の周辺を見回し、草が余り生えていない石が少なそうな場所を選ぶ。

「とりあえずここにしよう」

 そこに先ほど作った柵にしか見えない木の棒を差し込む。

『やはり柵なのじゃ!』

 もう一つの木の棒を先ほど刺し込んだものと組み合わせるようにくの字型になるように地面へと刺し込む。その上から石で叩き、簡単には抜けないように深く地面へと刺し込む。そのまま上端を倒し山形になるように組み合わせていく。そして、その状態を維持するように、この二つの柵もどきを剥ぎ取った繊維の皮で組み合わせ結びつける。

『む。何かを追い込む罠のように見えるのじゃ』


 森から落ちていた枯れ枝と大きめの葉っぱを拾ってくる。そして、それらを先ほど組み合わせた木の柵のようなものの、格子状の隙間を埋めるように貼り付けていく。

『むむ。それだと中が見えなくなるのじゃ』

「それでいいんだよ」

『ふむ。しかし、ただ貼り付けたような状態では、そのうち取れて落ちそうなのじゃ』

「そうだね」


 森の入り口、金属鎧と骨が散らばった場所を探し、金属鎧のすね当て部分を見つける。

「うーん、もうちょっと良い形が欲しかったけど贅沢は言えないか」

 その見つけた片方だけのすね当てを取り、兜に水を汲む。

『ソラが何をしようとしているのかよく分からないのじゃ』

 先ほど作った木の囲い、その内側の土を先ほど拾った金属のすね当てで掘る。中をくり抜いていく。掘り出した土を触り感触を確かめる。

「うん、これなら上手く使えそうだ」

『中をへこませる……やはり罠なのじゃ!』

 掘り出した土と兜に貯めた水を混ぜ粘土状にする。そして、その粘土を木の柵のようなものに塗りたくっていく。中が見えないように補強した木の枝と葉っぱの上から粘土を塗る。

 水を汲みに行き、何度も同じ作業を繰り返し、組み合わせた木の棒の全てを覆い隠す。


 そして、小さな、かまくらのようなものが出来上がる。


『もしや、ソラよ、これは家なのじゃな!』

「うん、とりあえず雨と風を防ぐ場所を作ろうと思って」

 木の棒と粘土を組み合わせて作った家は余り大きくない。中の地面を少しくり抜いていると言っても、それでも自分がしゃがみ込んで眠ることが出来るくらいの広さしかない。


 小さなシェルター。


 でも……、


「これは、まずは、だから。そのうち大きな木も切り倒して、しっかりとした家を作る予定だから!」

 これが生活環境を整える第一歩だ。

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