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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
竜の聖域

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067 壺は結構です

 切り倒し加工処理を行っていた木の根元の部分が、何かに食いちぎられたように、削れて消えている。その光景に驚き、そして周辺の景色に違和感を憶える。


 辺りを見回す。


 無い、無い、無い。


 切り株自体が見つからない。


 今、ここに切り倒した木があるのに、その大本の切り株が何処にも存在していない。まるで最初から、そんなものが存在していなかったような景色が広がるばかりだ。

『イフリーダ、切り株が消えている。どういうことだろう? 木を切ったこと自体が夢だった? いや、でも、それなら、ここに処理した木が残っているのはおかしいよね』

 頭がおかしくなりそうだ。


『ふむ』

 銀のイフリーダが腕を組み、考え込む。そして、その姿が、一瞬、まるで何かノイズが走ったかのように少しだけぶれた。


 そして銀のイフリーダの言葉が頭に響く。

『ソラよ、この森は生きているのじゃ。森の自浄作用が働き、環境を保つために起きたことなのじゃ』

『森が生きているって……自浄作用は分かるよ、でも、こんな短期間で?』

 銀のイフリーダの言葉に驚き、そして、気付く。


『もしかして、本当に……言葉通りの意味で生きているの?』

『生きているのじゃ』

 銀のイフリーダの言葉を聞いて、急に怖くなり、周囲をキョロキョロと見回す。

『喰われる……?』

 そこで銀のイフリーダは声を上げて笑った。声を上げて、といっても、自分の頭の中に声が響いているだけだが。


『ソラが死ねばそうなるのじゃ。生きている間は問題ないのじゃ』

『死ねばって、死にたくないよ。って、あれ? もしかして、魔獣が襲いかかってくるのも、それが原因?』

 魔獣も森の自浄作用の一つと考える。不思議としっくり来た。


 でも、それだと拠点は……?


 もしかして、あそこは森とは管轄が違う?


 そう言えば、誰かの骨も金属の全身鎧も、折れた剣も、そのまま残っていた。拠点で魔獣に襲われたことは一度も無い。


 ……いや、一度、スコルに襲われている。


 でも、スコルを見た学ぶ赤が言っていた。


 あれは吹雪の支配域の魔獣だ、と――つまり、管轄が違うから、拠点でも襲いかかってきたってことなんじゃないだろうか。


 そこで首を横に振る。今は考え事をしている場合じゃない。それに、どれだけ考えたところで、想像することは出来ても、答えが分かる訳じゃない。


「スコル、これを運んで貰っても良いかな?」

 処理した木にツタを引っかけ輪を作る。幸いにも削れてしまっている下部分はわずかだ。イカダへと加工するには充分な大きさで残っている。

「ガル」

 スコルがツタを咥え引っ張る。


「さあ、帰ろう」


 拠点へと帰る。その帰り道の途中では小動物と出会わなかった。もしかするとスコルが出くわさないように周囲を威圧していたのかもしれない。


 何事もなく拠点に到着する。その場でスコルに頼み、木を湖の近くに置いて貰う。

「ガル」

 仕事が終わったスコルはツタから口を離し、そのまま湖へと歩いて行く。喉の渇きを潤しに向かったのだろう。


 と、そうだ。自分も水を飲もう。背負い籠を降ろし、シェルターへと戻り、水瓶の水を飲む。

『そう言えば、せっかく学ぶ赤さんに作って貰った水筒があったんだから、性能確認も兼ねて持って行けば良かったね』

『ふむ。気に病むことはないのじゃ。確認する機会はいくらでもあるのじゃ』

『そうだね。と、まずは持って帰った小動物を捌こうかな。木の方の処理は明日だね』


 小休憩を終え、降ろした背負い籠を持って作業場へと向かう。


 そう作業場だ。


 ここは、まな板代わりの石を使って肉の加工を行ったり、石の短剣や折れた剣を研いでいる内に、そういった作業を行う専用の場所になってしまった。

 といっても、特に何かある訳でもなく、作業がしやすいように、処理した肉を入れる器や加工した木の串、平らな石が並べてあるだけだ。


 そこで持って帰った小動物の処理を行うための準備をしていると、学ぶ赤がやって来た。

「ソラに見て欲しいのです」

 学ぶ赤は窯の方を指さしている。また何か作ったのだろうか。木の矢の改良版とかだろうか?


 学ぶ赤とともに窯の方へと向かう。

「これを見て欲しいのです」


 学ぶ赤が、それを持ち上げる。


 それは壺だった。


「えーっと、学ぶ赤さん、それは?」

「なかなか、素晴らしい出来映えだと思うのです。里では……」

 学ぶ赤さんが、凄く饒舌に何かを喋っている。


 見て欲しいものは、この壺で間違いないようだ。


 確かに、その壺は、丁寧な装飾が施され、こんな場所で作ったとは思えない出来映えだ。


 でも壺だ。


 すこし目眩がした。


「学ぶ赤さんが壺作りに夢中なのは分かりました」

「そうなのです。このようなことは私の住んでいる地では……」

 話が長くなりそうだったので、途中で遮る。

「いや、それは分かりました。でも、それを持って帰ることは出来ませんからね」


「え?」

 学ぶ赤が驚いた顔でこちらを見る。

「今、自分が作っているイカダに乗せる余裕がありません。水に食料、それと武器を乗せたらいっぱいいっぱいですよ」

 学ぶ赤が手元の壺と、こちらの顔を何度も見比べる。


 無理なものは無理です。


「わ、わ、分かったのです……」

 学ぶ赤がうつむき、はっきりと分かるくらいに落ち込んでいる。

「え、えーっと……」

 と、そこで学ぶ赤が勢いよく顔を上げた。


「彼の地に戻った後、里の船を使って取りに戻るのです!」

 それは決意を秘めた顔だった。

「いや、あの、向こうで作ったら良いんじゃないですか?」

 学ぶ赤は顔を横に振る。

「道具の作成は職人にのみ与えられた仕事なのです。私も知識としてはあっても、作ったのは初めてなのです。それがこんなにも楽しいものだとは思わなかったのです」


 その言葉は意外だった。


 学ぶ赤は手先が器用なので、こういった作業に慣れているのかと思っていた。そして気になったのが職人にのみ与えられた仕事という言葉だ。もしかすると、学ぶ赤が住んでいる場所は、自分が考えているよりも、もっと封建的なのかもしれない。

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