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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
竜の聖域

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066 喰われる

「朝食にしますね」

 弓の練習を切り上げて朝食の準備を始める。


 食事はいつものように小動物の肉を炙っただけのものだ。

「ところで、学ぶ赤さん、食後にちょっと良いですか?」

「何でも任せるのです」

 学ぶ赤は、そう言って胸を叩き、勢いが強すぎたのかむせていた。


「朝からお肉が食べられるなんて幸せなのです」

 早起きして良かったという表情をしている学ぶ赤を無視して、そのまま黙々と食事を行い、食べ終えたところで雨よけの下へと向かう。

「はい。では、これを」

 雨よけの下では焼き上がったレンガが積み上がっており、その横に、学ぶ赤が、これから壺を作ろうと思っていたのか、器に入った粘土状の土が置かれていた。


 積み上がった山からレンガを取り、等間隔で並べていく。並べたレンガとレンガの間に粘土を練り込みくっつける。一段が完成したところで、さらにその上に粘土を塗り、下の段とは少しずらしてレンガを並べる。もちろん、そのレンガとレンガの間にも粘土を練り込む。黙々と同じことを続ける。


 これで二段目が完成した。後は同じような作業を繰り返し、どんどん高くしていくだけだ。


「学ぶ赤さん、この雨よけの周りを囲むようにレンガの壁を作りたいので、これからは、先ほど、自分が行ったように焼き上げたレンガを使って壁を作って貰って良いですか?」

「なるほどなのです。この焼いた四角い塊は壁にするためのものとは思わなかったのです」

「はい、家を作りたかった……その苦肉の策です」

「分かったのです。こちらも出来る限り、作り、行うことにするのです」

 なんだか学ぶ赤はやる気になってくれたようだ。これからは、よく分からない壺作りから、レンガの作成に移ってもらえると非常に助かる。


「では、早速、窯で焼くのです」

 学ぶ赤は、このために早起きしたと言わんばかりに張り切っている。張り切って、よく分からない壺を窯の中に入れていた。レンガも作ってくれるのだろうが、それでも優先順位はよく分からない壺の方が先のようだ。


『はぁ、仕方ないか。とりあえずスコルが起きてくるまで弓の練習でもするよ』

『うむ。頑張るのじゃ』


 弓に木の矢を番え、放つ。


 勢いよく放たれた木の矢は風の抵抗に負け、折れた。


 折れた。


 そう、折れたのだ。


『矢羽根が木だから、いつかこうなると思ったけど、今、なんだね。なんだか幸先が悪いなぁ』

『ふむ。しっかりと神技が発動すれば途中で折れることはないのじゃ』

 銀のイフリーダが腕を組み、こちらを見ている。練習を見守ってくれているのだろう。


『途中で、ってことは、発動したら最終的に折れるってことだよね』

『うむ。神技は矢を使い捨てるものなのじゃ』

『そ、そうなんだ。まぁ、矢の再利用にも限界があるし、気にならないくらい矢を作ればいいのか、な』


 太陽が真上に近づいたところで弓の練習を中断し、お昼ご飯の準備を行う。といっても、いつものように小動物の肉を炙るだけだ。さすがに飽きてきたので、自分の分だけは鍋に入れ、赤い実と一緒に茹でたものにする。茹でることで美味しくなる訳ではないが、飽きてきた気分の転換くらいにはなる。


 肉を焼いていると、その匂いにつられたのかスコルがやって来た。そして、いつものように生焼けの肉をガツガツと食べる。自分としては、しっかりと焼いた方が美味しいと思うのだが、熱いのが苦手なスコルには合わなかったのかもしれない。


 お昼の食事を終え、東の森の奥へ向かう準備を行う。今日の装備は石の斧と骨の槍、それに背負い籠だ。枝を折るなどの処理は昨日のうちに現場で行っているので、今日は持って帰るだけだ。時間にも余裕が出来そうなので、合わせて採取も行うことにした。それを考えての今日の装備である。


「それじゃあ、行ってきます」

「ガル」

 スコル、イフリーダとともに東の森に向かう。


 と、そこで入り口近くの耕した地面から小さな芽が出ていることに気付いた。

『これは、あの小さな赤い実の植物?』

『のようじゃ』

 銀のイフリーダが頷く。

『もう芽が出るんだ。成長が早い植物なのかな』

『ふむ。この地がそうしてるのかもしれないのじゃ』

『栄養が多いってこと?』

『この地のマナが植物に影響を与えているのじゃ』

『マナ……か。動物の体内に結晶が出来たり、不思議な力を使う源になったり、謎が多い物質だよね』

『そう……じゃな』

 銀のイフリーダは、何故か少しだけ苦い顔をしていた。


 東の森に入ると、早速、何処かから小さな棘が飛んできた。すぐさま骨の槍で打ち落とし、周囲を見回す。

 そして、小動物の影を確認し、そちらへ動こうとし――た、その瞬間にはスコルが動いていた。

 スコルが小動物を前足で叩き潰し、そのまま喰らう。さっき食事を行ったばかりとは思えない貪欲さだ。


 最初の一匹を皮切りに、次々と周囲から蠢く気配が生まれる。

『スコルに負けてられないね』

 自分も骨の槍を持って駆け出す。


 小動物を狩り、背負い籠に入れていく。


 ある程度、狩ったところでスコルが大きく吼えた。そして、その咆哮に怯えるように小動物の気配が消えていく。

「本当に数だけは多いよね。凄い繁殖力だよ」

『それが魔獣なのじゃ。こやつらの武器は、その数なのじゃ。武器を強化するのは魔獣の必然なのじゃ』

 銀のイフリーダが自分の独り言に答えてくれる。

『そうなんだね』


 小動物との戦いを終え、東の森の奥へと踏み入る。


 昨日、処理を行った木を探し、そして、それはすぐに見つかった。

「へ?」

 しかし、その姿に――思わず驚きの声が出た。


 木の根元部分が、何者かに食いちぎられたかのように消えていた。

『これが喰われるっていうこと?』

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