065 歪みない
学ぶ赤に木の矢の追加生産を頼み、午後からはスコルとともに東の森の奥へと向かう。
「ガル」
今日もスコルの威圧のおかげなのか、小動物と出会わない。こちらの様子をうかがうような気配があるだけだ。
「スコル、今日もありがとう。明日からは普通で良いよ」
急いでいる時に戦わなくても済むというのは非常に便利だ。しかし、今後のことを考えると食料となる小動物の肉と通貨代わりのマナ結晶は確保しておきたい。
東の森の奥へと踏み入り、目当ての木を探す。
「これかな」
良い感じの木を発見し、切り倒し、枝を折って処理を行う。
『ふむ。ここでやってしまうのじゃな』
作業を行っていると銀のイフリーダが話しかけてきた。
『うん、その方が持ち帰る時の時間が短縮できるからね』
『ソラなら勿体ないとか言うと思ったのじゃ』
銀のイフリーダが言っているのは、ここで処理を行うことで枝などを捨ててしまうことについてだろう。
『確かにね。使い道はあるから、勿体ないと言えば勿体ないかも。例えば、折った枝を燃料として再利用するとかね。でも、乾燥させるのも一手間だし、それに燃料になりそうな枝なら森に入ったところでも沢山落ちているからね。今は無理して使うこともないよ』
『ふむ。そういうものなのじゃな』
『そういうものなの』
運ぶのに邪魔にならない程度の処理を終え、次の木を探しに向かう。
『そういえば……』
『どうしたのじゃ?』
木を探して周囲を見回す。
『オオトカゲの死骸が消えているね』
倒したオオトカゲの死骸が綺麗に消えていた。それなりの広さのある森だが、戦った場所を間違えるはずがない。確かに死骸が消えている。
『ふむ。森に喰われたのかもしれないのじゃ』
『森に喰われる?』
銀のイフリーダの、その不穏な言葉に思わず聞き返してしまう。
『うむ。魔獣に喰われたのやもしれぬ、それとも大地に喰われたのか、そんなところなのじゃ』
『大地に喰われるって、土に還るってこと? こんな短期間で? それが普通なの?』
『うむ。そういうものなのじゃ』
『そういうものなんだ……』
手頃な木を発見し、切り倒す。そして、この木も枝を折って処理を行っていく。
『うーん。でも、そうなると、失敗したかな』
『どうしたのじゃ』
『いや、うん。今、二本目の木の処理を行っているよね。これ、明日、持って帰る用なんだ。下手をすると、その……大地に喰われちゃうのかなって』
銀のイフリーダは腕を組み、少し考え込む。
『それくらいなら大丈夫だと思うのじゃ』
『そっかー。それなら良かったよ』
と、そこで、少し違和感を憶えた。その違和感が何かが気になり手を止めて考え込む。
「あっ」
そして、気付いた。
『イフリーダ、そう言えば、折れた枝や枯れ枝は見かけるけど、倒れた木を見ないよね。もしかして、これが大地に喰われるということなのかな?』
『ふむ』
銀のイフリーダは答えない。腕を組み、何処か不敵な表情で微笑んでいる。
作業を再開する。
木の処理を終え、スコルに引っ張って貰うためのツタを結びつける。
「スコル、今日もお願いするね」
「ガル」
スコルとともに拠点へと戻る。
『これで、明日、雨が降ったら最悪だよね。雨で向かうことが出来ない、その間に大地に喰われるとかあり得るからね』
『ソラよ、言葉には呪いがあるのじゃ』
銀のイフリーダはこちらの言葉を聞いて苦笑していた。
『あー、考えない方が良かったよ』
これで本当に雨が降ったら最悪だ。
翌朝、弓の練習を行っていると学ぶ赤が起きてきた。まだ日が昇り始めたばかりの時間だ。
「珍しい時間ですね」
「窯の方が気になって目が覚めてしまったのです」
学ぶ赤は壺作りにすっかりはまってしまったようだ。陶芸家にでもなるつもりなのだろうか。
「私が作った矢の方は問題なさそうで良かったのです」
「はい、良い感じです。木の羽根なので耐久度的には問題がありそうですけど。と、そうだ。学ぶ赤さん、ちょっと聞いても良いですか?」
学ぶ赤が何だろうという感じで首を傾げている。
「学ぶ赤さんの住む地では、弓と矢は、どのような感じなんでしょうか?」
「どのようなとはどういうことなのです?」
学ぶ赤が不思議そうな表情を浮かべ、こちらを見る。
「どれくらい使われているか、でしょうか」
「弓は一般的な武器なのです」
学ぶ赤の住む地では弓が普通に使われているようだ。
「では、この程度の距離でも当てるのが普通ですか?」
今、自分が練習しているのは昨日と同じ六十メートルほどの距離だ。
「それは多くの戦士が出来ると思うのです」
「では、あの的にしている木を貫通させるのは?」
学ぶ赤が腕を組む。
「優れた弓と矢を使えば、戦士の中の上位ならば、可能だと思うのです」
この学ぶ赤の言葉で、住んでいる地の戦士たちとやらの力量が分かった気がする。
「この自分が今使っている弓と矢なら、どうでしょうか?」
「ザハ……、いや、でも、難しいと思うのです」
最初に言おうとしていたのは誰かの名前だろうか。個人の名前が出てしまう――それくらい難しいことなのだろう。
銀のイフリーダの想定しているものの大きさが、遠さが、改めて再確認出来た。
『だから、こやつらは火吹き蜥蜴ごときに頭を悩ませるのじゃ』
いつの間にか横に立っていた銀のイフリーダが、そんなことを言っている。
『イフリーダが考えているレベルの人たちって、どれくらい居るの?』
『ソラよ、下を見ていては駄目なのじゃ』
銀のイフリーダの言葉に歪みはない。常に目指すべき一点を指し示している。
「そうだね」
自分の言葉に学ぶ赤が疑問符を浮かべる。次の言葉は口に出さない。
『うん、イフリーダの言うとおりだよ』
明日はmetalmax xeno の発売日ですね。この意味がわか……。




