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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
竜の聖域

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063 木を切った

 スコル、イフリーダとともに東の森へと踏み入る。


 周囲を警戒しながら歩くが、何かが襲ってくるような気配はなかった。あちらこちらから、何かが蠢いている気配はある。しかし、その姿が見えない。隠れ、怯えているようだ。


『気配はあるのに、襲ってこないね』

『うむ。そこを歩いている、そやつが周囲を威圧しているのじゃ』

 銀のイフリーダの言葉に首を傾げ、スコルの方を見る。


「ガル」

 スコルは、敵などいないかのように、無警戒な様子で森の中を歩いている。それは何処か王者の歩みを思わせる優雅なものだった。


『へー、凄いね』

『うむ。便利なものじゃ。しかし、当然じゃが、こやつと同じか、こやつより強い魔獣には効果が無いのじゃ。無いとは思うが、不意を突かれぬよう最低限の警戒だけは行うのじゃ』

 銀のイフリーダの言葉に頷き、緩みそうになった気持ちを引き締めなおす。


 東の森の奥へと入り、そこで手頃なサイズの木を探す。やはり、ここでも魔獣が襲ってきそうな気配はなかった。スコルの威圧の効果なのだろう。


『本当に便利だね』

『ふむ。我としては、ソラに戦う経験、マナ結晶の入手を忘れて欲しくないのじゃ』

 銀のイフリーダの何処かわざとらしい拗ねた言葉に苦笑する。

『分かってるよ。スコルに頼るのは、他のことが手に着かないくらい気持ちが焦ってしまっている今くらい、かな』


 若木よりも大きく手頃なサイズの木を見つける。

『これがいいかな』

 見つけた木に石の斧を当てる。


 さあ、木を倒そう。


 半円を描くように動きながら石の斧を叩きつけていく。ある程度、木に深い傷が出来たところで思いっきり蹴る。

 自分の背丈の三倍はある、両手で抱えることが出来ないほどの太さを持った木が大きな音を立てて倒れていく。

 そして、倒れている途中で他の木に引っかかり、斜めになった状態で動きが止まった。見れば、最後まで倒れなかったので、下部分の一部がくっついたままになっている。


『あー、これは失敗したね』

 倒す方向は考えていたつもりだったが、周囲に木は多い、こういうこともあるだろう。

『さて、どうしたものか』

 半端に倒れた木の前で腕を組み考える。


「ガル」

 すると、スコルが、仕方ないな、という感じでのっそりと歩み出た。そして、そのまま半端に倒れている木に体当たりを行う。

 半端に倒れていた木が、バキバキと大きな音を立て、折れて転がる。


 木を倒し終えたスコルは、どうだ? という何処か少し得意気な表情でこちらを見ている。

「ありがとう、スコル」

「ガル」

 スコルは得意気だ。


『凄い力だね』

『うむ。こやつは腐っても魔獣、これくらいの力は持っていても当然なのじゃ』

 銀のイフリーダの中では、スコルの評価は、あまり高くないようだ。しかし、学ぶ赤が、最初にかなり怯えていた様子だったことを考えると、スコルはなかなか強い、上位の魔獣なのではないだろうか。


「ガル」

 スコルは、早くしろ、という感じで、何処か抜けた表情で欠伸をしていた。


 ここだけを見ると、少し人に馴れた野生動物でしかないんだけどね。


「スコル、今回もお願いだよ」

「ガル」

 スコルが頷く。


 周囲を探し、手頃で丈夫そうなツタを見つけ、石の短剣で切り取る。それを倒した木の枝に結びつける。

「ガル」

 スコルが、そのツタを噛み、引っ張っていく。


 木々の隙間をぬって、引っかからないように気をつけながら切り倒した木を運ぶ。

『これ、木を切り倒した時点で、ある程度、枝を取った方が良かったかもしれないね。前回は、襲撃されるかも、という心配があった中での作業だったけど、今回みたいにある程度、安全なら、その方が楽だよね』

『ふむ。どちらにしても運ぶのはこやつなのじゃ。こやつは、あまり変わらないと考えてそうな間抜けな面をしているのじゃ』

 銀のイフリーダは、何処かぶすっとした表情のスコルを見てニシシと笑っている。


 拠点に戻った頃には日が暮れていた。今回も帰り道に時間がかかってしまった。やはり、最初に枝を取ってしまうべきだろう。


『とりあえず、お腹が空いて、喉が渇いたよ』

「ガル」

 スコルが引っ張っていた木から口を離し、そのまま湖の方へと歩いて行く。スコルも喉が渇いたのだろう。


「おー、ソラ、お帰りなのです」

 窯の前に立っていた学ぶ赤が、帰ってきた自分たちの姿に気付き手を振っていた。

「はい。今、戻りました」

「今回も良い木を手に入れているようなのです」

「そうですね。なかなか良い形の木が手に入りました。ただ、完成予定のイカダの大きさを考えると、後、二本は必要になると思います」

「お願いするのです」

 水瓶に用意していた水を飲み、喉を潤す。


「学ぶ赤さんの方はどうですか?」

「これを見るのです」

 学ぶ赤が焼き上げた筒を持ってくる。


「殆ど割れてしまったのですが、一応、これが成功品なのです」

 それは頼んでいた水筒だった。学ぶ赤は失敗したことを気にしているようだが、水筒を土器で作ること自体に無理がある。何個か失敗しても仕方ないだろう。

「助かります」

 学ぶ赤から完成品の水筒を受け取る。


「今は上手く行く方法がないかの試行錯誤中なのです」

 学ぶ赤は何処か楽しそうだ。もしかすると、住んでいた地に帰ることが出来ない今の現状からの現実逃避なのかもしれない。

「はい、お願いします」

「それと頼まれていた骨の槍の処理は半分ほど終わったのです。それと四角い塊は割れずに、しっかりと焼けたので、あそこに保管しているのです」

 学ぶ赤が雨よけの方を指さす。そこにはレンガが山積みになっていた。


「上手く焼けて良かったです。出来れば、もっともっと沢山、作って貰っても良いですか?」

 レンガはまだまだ必要になる。明日からはこちらを中心にお願いしたい。

「任せるのです」

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