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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
竜の聖域

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061 弓

「ソラに疑問があるのです」

 落ちている枯れ枝を拾いながら、学ぶ赤が話しかけてくる。

「どうしたんですか?」

「ソラの巣で弓を見かけたのですが、使われている様子がなかったのです」

 学ぶ赤は、自分が作っている拠点を巣と呼んだ。いや、もしかすると拠点自体ではなく、自分が睡眠を取るために使っているシェルターのことを言っているのかもしれない。

「見たんですか」

「見えたのです」

 枯れ枝を集める。


 苦い経験に、一つ、小さなため息を吐く。

「矢が作れなかったので、そのままにしているんです。ここには矢に必要な羽根が――鳥がいないんです」

 薄暗い森の中、上を、空を見る。そこに鳥の姿は無かった。


「なるほど、そういう理由があったのですか」

「そういう理由があったんです」

 枯れ枝を集める。


 もう枯れ枝は充分だろう。これで窯に火を入れることが出来る。


「それで、どれから焼きますか?」

 拠点に戻った後、焼きたいものを学ぶ赤に選んで貰う。

「これも、いや、これも、これは……迷うのです」

 学ぶ赤は、自身が作った沢山の壺に囲まれて迷っている。


 学ぶ赤が選んだ壺の中から出来るだけ乾燥しているものを選び、それと一緒に水筒の形をした土器を窯の中に入れる。

「一応、水筒作りがメインですからね」

「あ、はい。そうだったのです」

 学ぶ赤は少しだけ申し訳なさそうな顔をしていた。壺作りに夢中になって、本来の頼まれごとを忘れていたことに気付いたのかもしれない。


 このまま四角いブロックを中心に作ってくれると助かるのだが……。


 窯に火を入れる。


「後は焼き終わるまで待ちましょう。自由時間ですね」

「分かったのです」

 焼き終わるまでは他の作業を行う。時間は有限だ。出来ることは、やるべき事はいくらでもある。


 さて、何から行おうか。


 森は……?


 森の探索を考え、スコルの方を見る。スコルは、まだ雨よけの下で丸くなっている。お昼頃まで眠るつもりかもしれない。


 森の探索や採取は後回しだ。現状、スコルが居ない状態で森の探索を行うのは少し危険かもしれない。銀のイフリーダの力を借りれば、何とでもなるのだろうが、そのためにはせっかく貯めたマナを無駄遣いすることになる。それに出来ればイフリーダの力は借りずに自分の力で頑張りたい。


「となると、これかな」

 湖の近く――三つの丸太を置いている場所へと向かう。


 三つの丸太の近くで、剥いだ木の皮を編み、紐を作る。まずは丈夫な編み紐作りだ。


 この作業を行っている間、学ぶ赤の方を見る。学ぶ赤は学ぶ赤で木の枝を持って何やら工作を行っている。

 学ぶ赤は装飾の施された短剣を使い、器用に木の枝を削っている。昨日、小動物の肉を捌いた後に、自分の見よう見まねのようだが、しっかりと手入れをしていたようなので、短剣の切れ味が戻っているようだ。ざくざくと木の枝を削っている。


 研ぎは重要だよね。


 と、それにしても何を作っているのだろうか?


 最初は小動物の肉を差す串でも作っているのかと思ったが、それにしては削っている木の枝のサイズが大きい。なるべくまっすぐで長いものを選んでいるようだ。


 と、そこで首を横に振る。学ぶ赤の行動が気になり、こちらの作業が疎かになっていた。まずは自分の作業に集中しよう。


 三つの丸太の皮を剥いだ部分を上にして並べる。先ほど作った編み紐を使い、三本の丸太を縛り結んでいく。

 前回の採取の時に持って帰っておいた若木の処理を行い、これを細長い木の棒へと加工する。


 縛った三本の丸太を、上下で挟むように、先ほど加工した木の棒を丈夫なツタでしっかりとほどけないように結びつける。

『何を作っているのじゃ?』

 興味を引かれたのか、銀のイフリーダが聞いてくる。

『結びつけた三本の丸太がバラバラにならないように補強しているんだよ』


 結びつけた三本の丸太の補強が終わったところで一息つく。そろそろお昼ご飯の準備をした方が良いだろう。

「窯の方もそろそろ大丈夫かな」

 窯の火を消し、焚き火を作る。


 さあ、食事の準備だ。


「もうお昼の時間なのです」

 用意していた小動物の肉を炙っていると学ぶ赤がやって来た。学ぶ赤は時間を忘れて夢中になるタイプではないようだ。

「お肉が楽しみなのです」

 いや、ただ単に食い意地が張っているだけなのかもしれない。


「ガル」

 スコルも欠伸をかみ殺しながらやって来る。

「ガルル」

 スコルは、そのまま、ほぼ生に近い小動物の肉をガツガツと喰らい始めた。焼いた肉よりも生に近い方が好みのようだ。


 食事を行いながら学ぶ赤と会話する。

「学ぶ赤さんも何か作っていたようでしたけど、何を作っていたんです?」

「おお、そうなのです」

 小動物の肉を飲み込み終えた学ぶ赤が立ち上がり、作っていたものを持ってくる。

「これなのです」


 それは木で作られた矢だった。


「矢……ですか?」

「矢、なのです」

 まさしく木の矢だった。

「これは木で作った羽根ですか」

 三角に削った木の板を綺麗にはめ込んで羽根の代わりにしている。


「そうなのです。ソラは生物の羽を使うことにこだわっていたのですが、飛ばすだけなら風に乗る形状をしていれば良いのです」

「木の板を使って羽根を作る……盲点でした」

 学ぶ赤がしてやったりという顔で笑っている。


「何本か試作品を作っているので、後で試して欲しいのです」

「分かりました」

 これで弓も使える。離れたところから攻撃できるのは大きな強みだ。これは素直に学ぶ赤に感謝するべきだろう。

「助かります」

 学ぶ赤は嬉しそうに笑っている。


「ところで、ソラは何を作っていたのです?」

「僕ですか、僕はイカダを作っていました」


 そうだ。


 自分が作っているのは湖を渡るためのイカダだ。

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