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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
竜の聖域

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056 戦士

「私は言わなければならないことがあるのです」

 驚きから立ち直ったのか学ぶ赤がこちらへと近寄ってくる。


「私は誤解していたのです。先ほどのソラの力は、強大なマナを持つ者に近いものを感じたのです」

 学ぶ赤が頭を下げる。


「ソラは守るべき幼体ではなく、戦士だったのです」

 学ぶ赤が頭を上げ、真剣な表情でこちらを見る。

「えーっと、どういたしまして?」

 学ぶ赤の言葉にどう反応して良いのか分からず、適当な言葉で誤魔化す。


「ガル」

 そんなやりとりをしている間にスコルの戦いも終わったようだ。スコルがオオトカゲの体を噛みちぎり、ペッと吐き出す。そして、その体内から器用にマナ結晶を取り出し、喰らう。


 って、あれ? スコルが肉を食べずに吐き出した?


 自分が倒したオオトカゲはバラバラの肉塊になっている。どうやって持ち帰ろうかと考えていたが、もしかすると、これを食べるのは危険なのかもしれない。

『イフリーダ、この魔獣の死骸、ここに放置したら不味いと思う?』

『ふむ。そのうち自然に還るだけだと思うのじゃ』

 銀のイフリーダの言葉を聞き、放置しても問題はなさそうだと判断する。


『ふむ。ただ、放置するにしてもマナ結晶は取り出しておくのじゃ』

 銀のイフリーダの言葉に頷きバラバラになった肉塊の中からマナ結晶を探す。そして、その途中で、自分が背負っている籠と腰に結びつけた水筒の惨状に気付く。


 転がった拍子に背負い籠は潰れ、中身が散らばっている。水筒は割れて腰に結びつけた上部分だけが残っていた。

「はぁ……」

 思わず大きなため息が漏れる。水筒の中の水を飲んだ後で良かったと思うべきなのだろうか。何にせよ、戻ったら、もう一度水筒を作り直す必要がある。


 潰れた背負い籠は中に手を入れ、叩いて元に戻す。こちらは散らばった小動物の肉や小さな赤い実を拾う方が大変そうだ。

「はぁ……」

 もう一度、大きなため息が漏れる。


 とにかく、まずはマナ結晶だ。


 ぐちゃりとした肉塊の中からマナ結晶を引き抜く。

『イフリーダ、どうぞ』

『うむ』

 銀のイフリーダがマナ結晶を受け取り、喰らう。ああ、その姿でも食べちゃうんだ。


「ソラは結晶を砕くのですか」

 と、そんな自分と銀のイフリーダのやりとりを見ていた学ぶ赤が呟いた。

「砕く? どういうことです?」

「ヒトシュは硬貨を使うと聞いているので、その、ソラの行動も分かってはいるのです。しかし、少しもったいないと思ったのです」

 頭に疑問符が浮かぶ。話を聞いても学ぶ赤の言っている意味が分からない。

「ああ、申し訳ない、補足して説明するのです」

 首を傾げているこちらを見て、学ぶ赤は少し笑った。

「私たちの地では結晶を使って、取り引きを行っているのです。つまり、その結晶がヒトシュで言うところのお金と一緒なのです」

 ああ、なるほど。マナ結晶が通貨の代わりだからもったいないと、そういうことなのか。


 ……。


 学ぶ赤の住む地に行く時までには、何個かマナ結晶を手に入れておくべきなのかもしれない。これはイフリーダに少し我慢して貰う必要がありそうだ。


 にしても、だ。自分が銀のイフリーダにマナ結晶を上げている姿が、学ぶ赤からはマナ結晶を砕く行為に見えていたようだ。これはどういうことなのだろうか?


「ソラ、先ほどの戦いで散らばった獲物を拾うのでしたら私も手伝うのです」

 学ぶ赤が散らばっていた小動物の肉を集めてくれる。

「え、ええ。ありがとうございます」

 学ぶ赤にだけやって貰う訳にもいかない。自分も慌てて散らばった小動物の肉を拾う。


 学ぶ赤の協力もあって、散らばった小動物の肉はすぐに集まった。全部見つけきることは出来ていないかもしれないが、それは仕方ない。それよりも、だ。

「この木を切り倒します。危ないので離れてください」

 作業の途中だった、この木を切り倒してしまおう。


 木に食い込んだままになっている石の斧を、木に足をかけて無理矢理引き抜く。そして作業を再開する。

 石の斧を何度も叩きつけ、木に半分ほどの切り込みが出来たところで、思いっきり蹴って木を倒す。

 木がベキベキと大きな音を立てて倒れていく。


 倒れた木の幹に、周辺で拾った出来るだけ丈夫なツタを巻き付け、輪っかを作る。

「スコル、この輪っかを使って、引っ張って貰ってもいいかな?」

「ガル」

 小動物の肉とマナ結晶を喰らって満足そうな顔のスコルが頷く。


 スコルが輪っかに噛みつき、後ろ歩きで引っ張っていく。スコルの力によって重い木がずるずると動いていく。

「学ぶ赤さん、帰りましょう」

「え、ええ」

 学ぶ赤はスコルの力に少し驚いているようだった。


「しかし、ソラも癒やしの力が使えたのですね」

 帰り道の途中で学ぶ赤が話しかけてきた。


『使えるというか、イフリーダの力なんだけどね』

 自分の横で、手を後ろに組み、口笛でも吹きそうな様子で歩いている猫耳のイフリーダを見る。さっきの力は、まだ、イフリーダから借りている力だ。


「詠唱なしで使っていたようなのですが、マナの残量は大丈夫なのですか?」

 詠唱なし?

『ふむ。こやつが言っているのは、通常では神にお伺いを立てて、その力を借りるという過程のことなのじゃ』

『ああ、そう言えば学ぶ赤さんが癒やしの力を使う時は、水流と門の神なんちゃら、みたいに喋っていたね』

『こやつらは神に力を借りるためにお願いが必要なのじゃ』

 銀のイフリーダが学ぶ赤の言葉を補足してくれる。


「む? ソラ、どうしたのです?」

 銀のイフリーダとの会話を優先したせいか、学ぶ赤は無視されたと思ったのかもしれない。

「えーっと、すいません、ちなみにマナの残量とは?」

「ソラの力は独学なのですか? 詠唱もなし……もしかして天性の力なのですか」

 よく分からない。力自体は銀のイフリーダに習ったものだが、何処かおかしいのだろうか。


「力を使って疲れたり、動けなくなったりしたことがあると思うのです」

 学ぶ赤の言葉に思い当たることがあり、頷く。銀のイフリーダも語っていた。自分の体内にたまっているマナを使って神法を使う。それが減ると虚脱感が体を襲う、と。

「人の体内にはマナの器があるのです。毎日の生活の中で、その器にはマナが貯まっていくのです。そして、力は、それを消費して行われるのです」

 学ぶ赤の言葉は銀のイフリーダと同じことを言っているように感じる。しかし、何処か、銀のイフリーダとは視点がずれているような印象を受けた。


「あれほどの力が使えるのです。ソラのマナの器はかなり大きいのかもしれないのです」

 学ぶ赤の言葉には、曖昧な笑顔で返答しておく。正直、自分のマナの器とやらが大きいのか小さいのかよく分からなかったからだ。

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