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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
竜の聖域

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053 恩には恩を

「分かりました」

 目を閉じ、考える。


 癒やしの力というものがどの程度か分からないけれど、とりあえず手伝って貰うことはなさそうだ。


 うーん。


 ……。


 寝よう。


「自分は、今日はもう眠ります。なので、とりあえず好きなようにどうぞ」

 シェルターの中に入り、膝を抱え座り込む。

「え、あの、その」

 外から、こちらの行動に戸惑っている学ぶ赤の声が聞こえるが、そのまま目を閉じる。


 まだ日が落ちるような時間ではない。


 でも、と考える。


 眠い。


 今日は色々なことがあって、考えることもあって、疲れた。拠点に帰ったことで安心したのか旅の疲れも出ているようだ。


 そのまま眠りに落ちていく。


 ……。


 本当に今日は疲れた。


 そして目が覚める。


 シェルターから顔を覗かせ、外を見ると、まだ朝日は昇っていないようだった。薄暗く、少しだけ肌寒い。

 外に出て軽く伸びをする。

「ふぁぁ、昨日は大変だったなぁ」

『うむ。ソラの体は水が足りず、危険な状況だったのじゃ』

 いつの間にか自分の横に来ていた銀のイフリーダが、呟いた独り言に返事をくれる。


「凄く、ゆっくりと、長時間眠った気分だったけど、まだ早朝なんだね」

 今日は夢を見なかった。それだけ深い眠りだったのだろう。


「さて、と。そう言えば、昨日の学ぶ赤さんはどうなったんだろうか」

『ふむ。あやつなら、ほれ、そこで眠っているのじゃ』

 銀のイフリーダが指さした方を見る。月明かりもないこの早朝の時間は、まだ暗闇に包まれており、薄暗く、自分の目ではよく見えなかった。

 目を凝らして見てもよく見えないので、イフリーダが指さした方へと歩いて行くと、やっとその姿が見えた。


 学ぶ赤は、雨よけの下に置いていたベッドの上に、うつ伏せになって目を閉じていた。ベッドは骨組みだけの、木の棒が剥き出しになった状態だ。そんな状態の上でうつ伏せになっていて痛くないのだろうか? 鱗が生えているような皮膚なので大丈夫なのだろうか。


 とりあえず学ぶ赤はそのままにして焚き火を作ることにした。

「そういえば、イフリーダ」

 枯れ枝に火を点け、イフリーダに呼びかけながら土鍋を取る。

『ふむ。どうしたのじゃ?』

「イフリーダは僕の言葉が分かる訳ではなく、言いたいことを予想? 理解して反応してくれているんだよね?」

 土鍋を持って湖へと歩く。何度も往復した道だ。薄暗くても迷うことはない。焚き火の明かりだけで充分だ。

『うむ。その通りなのじゃ』


『もしかして、口に出さなくても伝わるのかな?』

『ふむ。伝わるが、突然、どうしたのじゃ?』

 土鍋に水を汲む。


『今までは自分とイフリーダだけだったけど……あー、スコルがいたね。でも、新しい人が来たからね。自分とイフリーダが相談していることを聞かれない方がいいかな、と思ったんだよ』

『ふむ。賢明なのじゃ』

 銀のイフリーダは腕を組み頷いている。


 湖の水を汲んだ土鍋に骨の棒を通し、焚き火の上にのせる。作り置きの水は、昨日、全て飲んでしまった。まずは煮沸した飲み水を作らないと。


『それに新しい槍が必要になるよね』

 せっかく一日かけて作った骨の槍は骨の王との戦いで折れてしまった。またあの加工にかかった時間と作業が必要だと思うとため息が出る。


 当分は折れた剣が主力武器だ。


 飲み水を作り、その横で、折れた剣を使った神技の練習を繰り返す。


 作った飲み水は水瓶に入れ、また新しい飲み水を作る。


 やがて、朝日が昇り始める。


 何かがもぞもぞと動く反応に、そちらへと振り向く。うつ伏せになっていた学ぶ赤の目がゆっくりと開かれていく。どうやら学ぶ赤が目覚めたようだ。


 折れた剣を降ろす。

「朝食にしようか」

 湖から蛇肉を引き上げる。


 一部はそのまま木の串を通して炙り、一部は土鍋に入れて乾燥させた赤い実と一緒に煮込む。

「煮込むにしても他の具材が欲しいよね」

 思えば、魚と蛇肉しか食べていない。まぁ、その途中には小動物の肉や大変なことになった木の実なんかも食べているけれど。

「緑の物が――野菜が欲しいよ」

 東の森の奥から食べられそうな草を探すのも有りかもしれない。


 肉が良く焼けたところで学ぶ赤とスコルの二人を呼ぶ。

「学ぶ赤さん、スコル、朝食が出来たよ!」


 こちらの声に反応して、寝ぼけ(まなこ)の二人がやって来る。

「ガル」

 スコルはまだ眠そうだ。

「朝は弱いのです」

 学ぶ赤さんも眠そうだ。


「はい。朝ご飯にしましょう」

 まずは食事だ。


 学ぶ赤とスコルの二人は炙った肉を美味しそうにガツガツと食べている。こちらは土鍋で煮た蛇肉だ。学ぶ赤さんは辛いのが駄目らしいからね。

「ところで、学ぶ赤さん。今は食事を作ってあげていますが……」

 学ぶ赤がこちらの言葉を手で制し、食べていた肉を飲み込む。

「ヒトシュのソラ、分かっているのです。恩には恩を、なのです。里に帰った暁には、この恩を返すのです」

 学ぶ赤の言葉に驚く。


 正直、働いて返して貰おうと思っていたのだ。まぁ、それも嫌がるなら、それはそれで仕方ないかな、と思っていた。

 しかし、これを恩だと思って返してくれるというのだ。


 学ぶ赤が住んでいる場所は、日常生活をしている人たちが居る場所のはずだ。その恩返しにも期待してしまう。


 鉄などの金属製品や道具とか、食材とか、本当の本当に期待してしまう。

「その言葉、忘れないでくださいね」

「私は、あの地で、そこそこの地位にあるのです。任せるのです」

 そう言って学ぶ赤は胸を叩き、強く叩きすぎたのかむせていた。そこそこの地位の人が一人で動いていていいのだろうか。


 いや、それだけ重大な使命だということなのかな。


 食事を終え、東の森の奥へ採取に向かう準備をする。


 石の短剣、石の斧、折れた剣。それに背負い籠だ。今回は水筒と乾燥肉も持って行く。少し広めに探索するつもりだ。


「ヒトシュのソラ、何処かに向かうのですか?」

「はい。森の奥へ採取に向かいます」

 その言葉を聞いた学ぶ赤は腕を組み、何やら考え込んでいる。そして、真剣な表情でこちらを見る。


「ヒトシュのソラ、私も一緒に行くのです」

 もしかすると、こちらの心配をしてくれているのかもしれない。

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