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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
竜の聖域

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052 使命

「あの、大丈夫ですか?」

 学ぶ赤は大きく口を開けたまま、わなわなと震えている。


「どうしよう、困ったのです……」

 そして、涙目でこちらを見た。


 こちらを見られても困ります。とりあえず、気持ちを切り替えて貰うつもりで話しを振ってみた。

「ちなみに学ぶ赤さんは、その、強大なマナの情報を手に入れてどうするのですか?」

 学ぶ赤は泣きそうな顔を引っ込め、腕を組み、その手を顎下に回す。もしかすると切り替えが凄く早い人物なのかもしれない。人ではなく蜥蜴姿だけど。


「強大なマナの一つが失われたことで均衡が崩れたことは話したと思うのです。もし、誰かが強大なマナの一角を崩したのならば、その人物の人柄を見て、助力を得ようと思ったのです」

「助力を得る?」

 首を傾げる。

「そうなのです」

 学ぶ赤は頷く。

「私たちの地には神にも迫る力を得た竜の王が――竜神がおられるのです」

 これはイフリーダが語った四つの王の一つ、邪なる竜の王で間違いないだろう。


『ふむ。竜が神を名乗るとは不遜なのじゃ』

 銀のイフリーダは眉尻を上げ、面白くなさそうな表情を作っている。イフリーダにとって神という言葉は――神という存在には、何か思い入れがあるのかもしれない。


「それで?」

 学ぶ赤に言葉の続きを促す。しかし、学ぶ赤は少しだけ何かに躊躇していた。

「ヒトシュのソラに話しても……むむむ」

「話して貰わないと、こちらも判断できないよ。もしかしたら、何か力になれるかもしれないよ」


 学ぶ赤は大きく息を吐き、肩を竦めた。

「竜神が目覚めた時に、再び、眠りへといざなって欲しいのです」

 学ぶ赤の言葉に疑問を持つ。

「その竜は、あなたたちの王じゃないのか?」

「王の力を持っているから困っているのです」

 そこで学ぶ赤は腕を組み悩み始めた。


『ふむ。こやつから必要な情報は全て得たと思うのじゃ。取るに足らぬ小物なのじゃ』

 銀のイフリーダの学ぶ赤に対する評価はかなり低いようだ。神についての言葉が不味かったのかもしれない。

「さて、どうしようかな?」

 元々、自分が使っていた言葉で銀のイフリーダへと話しかける。


「どうしたのです?」

 それを学ぶ赤は不思議そうに眺めていた。学ぶ赤にはイフリーダの存在が見えていない?


「それで学ぶ赤さんはどうするつもりですか?」

 学ぶ赤に対する興味を失ったイフリーダから学ぶ赤の方へと向き直る。


「ヒトシュのソラから情報を聞きたいのです。そして、強大なマナを崩した存在を探しだし、見極めたいのです」

 そこで学ぶ赤の言葉に少しだけ疑問を持つ。

「なぜ、学ぶ赤は強大なマナの一つを誰かが倒したと思っているのですか?」

 そう、まるで誰かが倒したのが当たり前と言わんばかりだ。自然に、それこそ事故や寿命で崩れたとは思わないのだろうか。


 学ぶ赤は組んでいた腕から手を伸ばし顎に添える。

「当然なのです。ソラは強大なマナを持つ存在を見たことがないから、そう思うのです。あれが倒される以外でどうにかなるとは思えないのです」

「うーん。いや、でも、それほどの力だというなら、それこそ、誰かが倒す方が難しいと思うんですけど」

 学ぶ赤は首を横に振る。


「全てに目を背け安穏と暮らすヒトシュには分からないことだとは思うのですが、強い力は、より強い力によってのみ倒されるのです」

 これは重要な情報だ。強い力は、より強い力によってのみ、か。それに人の情報! 自分以外にも人は生きているんだね。もしかすると自分以外の人はいないのかと思ったけど――イフリーダの言葉を信じていなかった訳じゃないけれど、それでも他の人からも聞けると嬉しいよ。


「それで、その人物を見つけてどうするの?」

 これはすでに確認したことだ。でも、それでもあえて聞く。


 こちらの言葉に学ぶ赤が目を輝かせる。

「善良な人物なら私たちの地に来て貰うのです」

 そうだね。さっきもそう言っていたよね。

「どうやって?」

「それはもちろん、この船で」

 学ぶ赤は手を伸ばし、くるりと回って湖を向く。


 そこには何も無かった。ただ、湖があるだけだ。


 学ぶ赤は、そこで一瞬、固まり、すぐに頭を抱えて座り込んだ。


 学ぶ赤さんは何処か抜けているようだ。こちらが同じことを聞いていたことにも気付いていなかったみたいだしね。それとも現実逃避をしていたのだろうか。


「わ、わ、わ、私はどうしたら良いのです!?」

 座り込んだまま蜥蜴顔を上げ、嘆いている。

「学ぶ赤さんはどうしたいの?」

「そ、それは先ほども伝えたように、私たちの地へ、強大なマナを崩した方に助力を……」

「でも、船がなくなったんだよね?」

「そ、そうなのです。この湖にあのような魔獣がいるとは思わなかったのです」


「他に仲間はいないんですか?」

「こ、この役目は私だけが選ばれたのです」


「例えば連絡が取れなくなったら、誰かが助けに来るとか、そういうことはありますか?」

「私が戻らなければ、それは使命の途中で倒れたと認識されると思うのです」

「つまり、助けはないってことですね」

「当然なのです。これは隠された偉大な使命なのです」

 偉大な使命、か。


「食べ物とかを持っているようには見えませんが、どうするつもりだったんですか?」

「それは船に……」

 と、そこで学ぶ赤は再度頭を抱えていた。


「食べられない物とかありますか?」

「毒とか……」

 毒は誰も食べられないと思います。これは見て貰った方が早いかもしれない。


「分かりました。とりあえず食事にしましょう」

 東の森に入り、枯れ枝と落ち葉を集める。もう雨の影響は残っていないようだ。しっかりと乾燥している物が多い。


 拠点に戻り焚き火を作る。


「あの、それは……」

 学ぶ赤はどうしたら良いのか分からないのかキョロキョロと周囲を見回している。


 湖に沈めた蛇肉を取り出し石の短剣で切り分け、赤い実の粉をかけた物とかけていない物を作る。木の串を刺して焚き火で炙る。


「これは蛇肉ですが、食べられますか?」

「だ、大丈夫なのです」

 蜥蜴ぽい姿をしているけど、蛇肉は大丈夫なんだね。

「辛いのも大丈夫ですか?」

「それは少し苦手なのです」

「とりあえず焼けた物から食べてください。どうぞ」

 とりあえず食事を振る舞う。


「肉なのです」

 学ぶ赤はもしゃもしゃと嬉しそうな顔で蛇肉を頬張る。


 さて、と。

「それで学ぶ赤さんは何が出来ますか?」

 出来ることによっては、こちらに協力して貰うし、こちらから協力するよ。


 学ぶ赤はほっぺを膨らませたまま、きょとんとした顔でこちらを見た。


 とりあえず食べ終えてから喋ってください。


 学ぶ赤がゴクリと肉の塊を飲み込む。

「出来ることですか?」

 頷く。

「戦うことは出来ないのです、が、癒やしの力が使えるのです」

 学ぶ赤は胸を張っていた。

きずぐすりさん。

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