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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
竜の聖域

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051 学ぶ赤

 自分が目覚めた場所。森に囲まれた湖の畔。せっかく作った拠点。そこに二本足で立つ蜥蜴のような人がいた。

 人が、人のような存在が、なんでここに……。


 でも、今は、それよりも、だ。


 拠点に作ったシェルターを目指して歩いて行く。


 やっと自分の存在に気付いたのか蜥蜴人が驚いた様子でこちらを見る。何やら、こちらを指さしてわなわなと震えている。

 うん、自分もあなたの存在が気になるんだけどね。


 シェルターの中に入り、その中に置いていた水瓶を確認する。中の水は腐っていないようだ。そのまま中の水を飲む。


 最初はゆっくり、そしてがぶがぶと、中の水を全部飲み干す。


 ふぅ、とため息を吐く。

「あー、生き返った」

 本当に、喉が渇いて、乾いて、乾いて、乾いて仕方なかったからね。


 これで、やっと蜥蜴人に向き合うことが出来るよ。


 喉の渇きを潤し、シェルターの外へ出ると、そこに蜥蜴人が待っていた。蜥蜴人は腕を組み、袖の長いローブから覗かせた手をぶらぶらと動かしていた。

 蜥蜴人がこちらを見る。その視線からは、まるで、こちらを値踏みしているような圧力を感じる。


 蜥蜴人が口を開く。何かこちらへと話しかけようとしているのかもしれない。


 それよりも早く自分から話しかけた。

「あなたは何者です?」

 イフリーダに習った言葉で話しかける。


 何か言葉を発しようとしていた蜥蜴人が口を開けたまま、目を大きく見開き驚きに固まる。


 蜥蜴人はしばらくそのまま固まっていたが、目をしばたたかせ、ゆっくりと再起動した。そして口を開く。


「驚いたのです。ヒトシュが、これほど綺麗な言葉を使うとは思わなかったのです」

 蜥蜴人がしゅっしゅっと空気が漏れるような音を発しながら喋る。それはイフリーダに習った言葉だった。


 蜥蜴人は言葉を続ける。

「私たちはリュウシュなのです。あなたたちヒトシュの言葉で言う竜種(ドラゴンシーズ)なのです」

 蜥蜴人は組んでいた腕をほどき、胸を張る。その表情は何処か誇らしげだった。


「もう一度聞くね。僕はソラ。『あなたたち』ではなく『あなた』は何者ですか?」

 蜥蜴人は、もう一度、驚いたように目を大きく見開く。そして、小さく咳払いをし、口を開いた。


「再び、驚いたのです。私は――私の名前はあなたたちヒトシュには発音出来ないと思うので、学ぶ赤と呼んで欲しいのです」

 そう蜥蜴人――学ぶ赤は名乗った。

「それで学ぶ赤さんは、何をするためにここに来たの?」

 こちらが質問をすると、学ぶ赤は少し慌てたようにこちらを見た。

「こちらも質問したいのです。ヒトシュが、何故、この禁域の森にいるのです? それに、あなたはヒトシュの幼体に見えるのです」

「学ぶ赤さん、僕はヒトシュではなく、ソラという名前です」

 こちらの言葉を聞き、学ぶ赤は眉間にしわを寄せた。


「ここはヒトシュには危険な森。このような奥にまで入り込んで死ぬつもりなのですか? 自殺願望があるとしか思えないのです」

 学ぶ赤は眉間に指をあて、考え込むように頭を振っていた。


「ガル」

 と、そこで森の中で待機していたスコルが現れた。森の中で待っていることに飽きたのかもしれない。

 スコルはゆったりとした足取りでこちらへと近寄ってくる。


「ひっ!」

 学ぶ赤が情けない悲鳴を上げた。

「あれは吹雪の支配域の魔獣。何故、ここにいるのです。ど、何処か、逃げる場所は……」

 学ぶ赤はキョロキョロと周囲を見回す。そして、逃げ場がないと思ったのか、こちらを庇うように前に出た。

 見れば足は震え、顔はこわばっている。

「ヒトシュのソラ。私の後ろに隠れるのです。この――が力を見せてくれるのです」

 学ぶ赤は腕を交差させ、スコルを威嚇するように、よく分からない構えを取っている。それは、とてもではないが、戦うための構えには見えなかった。


 ……。


 この学ぶ赤は悪い人? 竜種? ではないようだ。出会ったばかりの、しかも自分たちとは違う人種を庇うために前に出るんだから。


「大丈夫です。あの子はスコル。僕の友人です」

 スコルに手を振る。


 スコルは仕方ないなぁ、という感じで小さく頭を下げ、そのまま湖の方へと歩いて行った。そのまま湖のほとりで体を下げ、乗り出して、頭を突っ込み水を飲んでいる。スコル、そのままずり落ちないようにね。


 学ぶ赤は胸をなで下ろし、大きく息を吐いていた。

「ソラは、どうやって吹雪の支配域の魔獣を手懐けたのです? あの魔獣たちは群れをなし、その群れの女王に従うだけのはずなのです」

「手懐けた訳ではありません。一度、戦って、その後に和解して友人になったんです」

 スコルと自分の関係は友人というのが一番しっくり来るのだろう。家族というには遠く、知り合いというには近い、そんな関係だ。


「もしや、ここは?」

 学ぶ赤が難しい顔で周囲を――作られたものたちを見て、その後に改めてこちらを見る。

「はい。ここは自分が築き上げた、自分の拠点です」

 それを聞いた学ぶ赤が腕を組み、下を向いてむむむと唸っている。


「うーむ、なのです。それでは、ヒトシュのソラに聞くのです」

 学ぶ赤が顔を上げる。

「強大なマナの一つが消えたと思うのです。ソラは何か気付いたことは――知っていることがあれば教えて欲しいのです」

 強大なマナ――あの自分が倒した骨の王のことだろうか。


 自分の横で、口の端を上げ、静かに僕と学ぶ赤のやりとりを見守っていたイフリーダの方を見る。

『ふむ。ソラよ、我らが倒したことは黙っている方が賢明なのじゃ。相手に警戒されるかもしれないのじゃ』

 そこで初めてイフリーダが言葉を発した。自分は頷く。


「学ぶ赤さんは、それを調べるためにここに来たんですね」

 湖にとまっている小舟を見る。スコルは水を飲み終えたのか、すでに雨よけの下へと移動し、丸くなって欠伸をしている。相変わらずマイペースだ。

「そうなのです。強大なマナの一つが消えたということは、この地の均衡が崩れたということなのです。眠りについていた私たちの王も目覚め――これは危険なことなのです」

 学ぶ赤が住んでいる場所にも強大なマナが――王がいるのかもしれない。

「均衡が崩れれば、押さえ込まれていた魔獣も活性化するのです」


「分かりました。知っていることを伝えたいのですが、学ぶ赤さんの住んでいる場所に案内して貰うことは出来ますか?」

 ダメ元で聞いてみた。


 学ぶ赤は難しい顔をしている。

「うーむ」

 学ぶ赤は難しい顔で小舟とこちらを見比べている。

「しかし、うーん、でも、いや、うーん、なのです」


 と、そこで異変が起こった。


 湖から吸盤のついた大きな触手が伸び、学ぶ赤が乗ってきたであろう小舟をたたき壊した。

 それを見た学ぶ赤は大きく目を見開き、ぽかーんと口を開けた。


 小舟は壊れた。


 湖の藻屑だ。


「な、な、な、な、なっ!」

「あのう、学ぶ赤さん。あれは?」


「な、なんでーっ!?」

 湖に学ぶ赤の絶叫が響き渡った。

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