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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
禁忌の森

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050 古き礎に縛られた王

「この城から出よう」


 まずはイフリーダ、スコルとともに石の城から出ることにした。


 夜の闇に包まれた城は少し先の足元すら見えず、普通に歩くことも困難だ。それでも、この城から、この玉座の間から出ることにした。

 何故か、この玉座の間からはゾクゾクとするような不快感を憶え、一瞬たりともこの場に残りたくなかったからだ。


「でも……」

 この玉座の間からすぐさま離れたい気持ちでいっぱいだったのだが、気になる物があった。


 それは手に持った石の王冠、転がっている石の両手剣――骨の王が残した戦利品だ。


 しかし、石の両手剣は重すぎて今の自分の力では持ち運ぶことが出来ない。

「スコル、この石の剣を運んで貰ってもいいかな?」

 暗闇の中で、その瞳を輝かせていたスコルが動いたのが分かった。


「ガル」

 もしかするとため息を吐いているのかもしれない。


 それでもガリッと歯で噛みしめる音が聞こえた。運んでくれるようだ。


 砕けた石の床に転けそうになりながらも薄暗い城の中を歩く。この城に来た時に、あんなにも沢山並んでいた――動いていたはずの鎧の姿が見えない。

 骨の王を倒したことで消えてしまったのだろうか。


 記憶を頼りに、手探りで暗闇を歩く。


 そして、なんとか城の外に出る。


 そこに、この城の門を守っていたはずの黒い鎧の姿はなかった。スコルを見ると首を横に振っている。スコルが倒した訳では無さそうだ。


 城の中も外も鎧が消えている。


 ――ここなら安心して休むことが出来そうだ。


「ここで朝まで眠るよ」

 先ほどまで気絶していたからか、眠くない。戦いの高揚感もまだ体の中に残っている。眠るのは難しいだろう。それでも欄干に背を預け座り込み目を閉じる。


『うむ。ゆっくり休むのじゃ』

 イフリーダの言葉に安堵感を憶え、落ち着いた気持ちの中、膝を抱えてうずくまる。


 不思議とお腹は空いていない。


 このまま日が昇るまで目を閉じ、体力を温存するべきだ。


 ……。


 静かな闇。


 聞こえるのは風の音とスコルの静かな呼吸音だけだ。


 ……。


『ソラ、ソラよ』

 と、そこでイフリーダの声に目が覚める。


 朝日がまぶしい。いつの間にか眠ってしまっていたようだ。眠るのは難しいと思っていたのに熟睡するなんて――もしかすると戦いの疲れが残っていたのかもしれない。


「出発しよう」

 起きてすぐ行動する。


 滅びた石の都を歩く。


 スコルは器用に石の両手剣を咥え運んでくれている。常に何かをかみ続けているような状態だが、別段、苦にもならないようだ。こうやって物を運ぶのになれているのかもしれない。


 石で作られた建物の残骸群――その途中で蠢いていたはずの人の形をした骨は、すべて消えていた。王が倒れたことで動いていた骨たちも、その活動を止めてしまったのだろうか。

 まるで骨が動いていたのは幻だったかのように、その骨の欠片すら残っていない。


 歩く。


 歩き続ける。


 水がなく、喉の渇きを覚える。何か適当に酸っぱい物を思い浮かべ、溢れた唾液を飲み込み喉の渇きを誤魔化し、歩き続ける。


 歩く。


 何とか森の入り口まで歩き、そこで野営の準備をする。


「イフリーダ、この草は毒があるかな?」

『ふむ。大丈夫なのじゃ』

 イフリーダに毒の有無を確認し、茎の太い草を切って、それを口に含み、喉の渇きを誤魔化す。


 火を起こし最後の蛇肉の燻製を焼く。それをスコルと分け合い食べる。


 森まで戻ってきた。拠点まではあと少しだ。拠点まで戻れば、水も、食料も、安心して眠れる場所もある。


 あと少しだ。


「イフリーダ、今日も見張りをお願いするね」

『うむ。任せるのじゃ』

 銀のイフリーダは何処か楽しそうに微笑んでいた。


 焚き火の明かりを残したまま横になり眠る。


 そして翌日も歩く。


 歩き続ける。


 森の中、拠点を目指し歩いて行く。


 疲労と空腹、喉の渇きに倒れそうになりながらも、ただ、ただ歩く。


 そして長く永遠に続くかと思われた森を進み続け、やっと見覚えのある場所に出た。湖のある拠点は、すぐ、そこだ。


 気力が戻り、思わず駆け出す。


 そして森を抜ける。


 湖だ。


 水が――ある。


 と、そこで駆け出した足が止まる。


 拠点に――自分が頑張って作った拠点に異質なものを見つけたからだ。


 それは人だった。


 いや、本当に人なのか分からない異質な存在だ。


 足元まであるひらひらとした法衣を身に纏った人物。頭には毛がなく硬質化している。耳は三角に尖っており、その目は白目がなく、まるで猫の目のようだ。

 そしてもっとも異質なのは、その法衣の袖口から見えている手の先に鱗が見えたことだった。

 まるで蜥蜴が二本足で立ち人の真似事をしているかのようだ。


 駆け出した足が止まり、すぐに森へと引き返す。そして木の後ろに隠れて蜥蜴人の様子をうかがう。

 蜥蜴人はシェルターや雨よけなどの自分が作ったものを不思議そうに眺めていた。


 何処からやって来たのだろうか?


 その疑問はすぐに解けた。


 湖に小さな小舟がとまっている。あの船で湖を渡ってきたのだろう。


 つまり、仲間はいない。


 ここにいるのは、この蜥蜴人だけだ。


 さあ、どうしよう。

『ふむ。ソラよ、どうするのじゃ』

 銀のイフリーダはこちらに任せるとばかりに口の端を上げ笑っている。スコルは興味が無いのか石の両手剣を咥えたまま森の中で座り込み丸くなっている。


 そのスコルの様子を見て行動を決める。

「敵意は無さそうだから、ちょっと挨拶をしてみるよ。いざって時はイフリーダお願い」

『ふむ。それもまた良かろうなのじゃ』


 森の湖で蜥蜴人と出会った。

第一章が終わりです。

三日の更新は人物紹介、本編は四日からの予定になります。

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