048 戦いを終えて
『神技リベリオンなのじゃ』
その一撃によって骨の王の頭が飛び、頭の上に乗っていた石の王冠が地面をコロコロと転がる。
骨の頭が地面に落ちる。
『神技リベリオンは力の無い者が力有る者を倒すための反逆の神技なのじゃ』
体が勝手に動き、石の王冠を拾う。
『相手との差が大きければ大きいほど威力を増す、今のソラでしか真価を発揮できぬカウンター技なのじゃ』
そのまま骨の頭まで歩き、それを踏み潰した。ぐしゃりと砕けた骨の欠片が飛び散る。
骨の頭を踏み砕いた瞬間、黒い鎧に包まれた体の方が膝を付き、音を立て、そのまま崩れる。
黒い鎧を形成していたもやが霧散し、中の骨の体が現れる。その骨から次々と透明な柱が生まれ結晶化していく。
大きな結晶を作っていく。
そして、目の前に巨大なマナ結晶が生まれた。
「これが強大なマナを持った者の最後……」
『うむ。これを手にした者が新しい王として君臨出来るはずなのじゃ』
これを手にすれば王になれる?
自分は王になりたいのだろうか?
手に持った石の王冠と転がっている石の両手剣を見る。
そして首を横に振る。
「それは、この骨の王みたいになるってことだよね」
『うむ。強大な力を糧に王国を築くことも長き刻を生きることも出来るかもしれないのじゃ』
イフリーダの言葉を聞き、もう一度、首を横に振る。
「これはイフリーダのものだよ。約束だったからね」
自分の言葉を聞いたイフリーダが、一瞬、ぽかんとした表情を作り、そしてニシシと楽しそうに笑った。
『うむ。さっそく喰らわせてもらうのじゃ』
猫姿のイフリーダが首から飛び降り、とてとてと巨大なマナ結晶へと歩いて行く。そしてマナ結晶に両手をつけ、齧り付いた。齧り付いた場所が光り輝き、イフリーダの体内へと吸い込まれていく。
巨大なマナ結晶が消えていき、イフリーダが銀の光に包まれる。
そして、その姿を変えた。
銀の光が消え、そこには初めて会った時の姿――銀の少女の姿へと戻ったイフリーダがいた。
……。
……?
いや、初めて会った時よりも背丈がかなり小さい。幼い。
今の自分の背丈はかなり小さいが、それよりもさらに小さい。猫の時よりも少し大きくなったくらいにしか見えない。
そして頭には猫耳と、腰には猫尻尾が残っている。
少女ではなく、幼女だ。
『む。足りなかったのじゃ』
銀の猫幼女は体に纏った銀色のひらひらとした布を動かしながら、自身の体を確認している。
裸ではなく、ちゃんと銀の布を纏った姿で現れてくれたのは最初の時のやりとりを憶えていてくれたからかもしれない。
『ふむ。まぁ、良いのじゃ』
銀のイフリーダが腕を組み、胸を張る。
「あれだけ大きなマナ結晶でも足りないんだね」
『うむ。所詮は四つのうちの一つに過ぎぬのじゃ』
「言われてみれば、そうだね」
『しかし、これで一つ目。残り三つなのじゃ』
イフリーダの言葉に頷く。
遠いと思っていた強大なマナの一つ目をこんなにも早く手に入れることが出来た。
しかし、と思う。
改めて周囲を見回す。
砕け散った石の床、転がっている石の両手剣、それに手に持った、この石の王冠。
『ソラよ、分かっていると思うのじゃが、今回は運が良かっただけなのじゃ』
運が良かった。
イフリーダの言葉の通りだ。
拠点としていた場所のすぐ近くに王の居城があった。
王が配下を使わず、王一人で戦いを仕掛けてきた。
王が戦いの素人だった。
王が生きていた頃の自身に囚われていた。
そして、こちらにはイフリーダがいた。
全て、運だ。
「そうだね。運が良かったよ。全てイフリーダのおかげだよ」
その言葉を聞いた銀のイフリーダがにかっと笑う。
『うむ。しかし、なのじゃ。最後に我の考えていた作戦を超えたのはソラ自身の力なのじゃ』
骨の王の攻撃を逸らした神技パリィ。
無我夢中だった。
時間が何倍にも引き延ばされた不思議な感覚。
……。
「それでもイフリーダのおかげだよ」
イフリーダがいなければ、そのチャンスすら作れなかった。
そして、骨の王にとどめを刺すことも出来なかっただろう。
『うむ。今は仕方ないのじゃ。しかし、ソラはソラ自身の力を手に入れ、間違いなく強くなるのじゃ。なんと言っても我がソラに力を貸しているのじゃから!』
「うん。頑張るよ」
『うむ。ソラよ、ソラがこの戦いで得たものは大きかったはずなのじゃ』
これからも戦うための足掛かり。
あの時の時間がゆっくりになった感覚がいつでも使えるようになりたい。
石の短剣で相手の攻撃を跳ね返した――それはタイミングが完全に合っていたからこそ出来た技だ。
今回の戦いでもイフリーダが見せてくれた動き。
そして折れた剣を光らせ力を高めた神法エンチャントウェポン。
神技も使いこなし、神法も使えるようになりたい。
練習すること、出来るようになりたいこと、頑張らないと駄目なこと。
生きるために、生き残るために、そしてイフリーダとの約束を守るために。
「頑張るよ」
強く頷き、改めて誓う。
『うむ。頑張るのじゃ』
銀のイフリーダは腰に手を当て薄い胸を張っていた。
「さてと、城の探索もしたいけど、まずは拠点に帰るべきかな」
自分の腰を見る。そこに結びつけていたはずの水筒は、先ほどの戦いで割れて無くなっていた。
水がない。
外の干上がった堀を思い出す。
この周辺で運良く水が手に入るとは思えない。
急いで拠点に戻る必要がある。
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