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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
禁忌の森

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043 抜けて

 東の森に入る。


 足元には湿った落ち葉や枯れ枝が散らばっている。地面はぬかるんでいない。一日経ったからか、雨の影響は殆ど無いようだ。

 周囲への警戒はほどほどに駆け足で進み、そのまま東の森の奥へと入る。


「ガル」

 隣のスコルは、のんきに欠伸をしながら歩いている。朝が早かったのでまだ眠いのかもしれない。ここも、あまり警戒はしなくて良さそうだ。


 隠された石畳を見つけ、その先に進む。


 前回通った道なので、石畳が隠されていても、探し出すのに思ったほどの時間がかからなかった。これなら自分が考えていたよりも、さらに遠くまで探索が進めるかもしれない。


 森と石壁の残骸の中、周囲を警戒しながら歩く。


 骨の犬の気配はない。倒してもバラバラになっただけだったので、少しだけ、復活するかも、と考えていたが、その心配は無かったようだ。

「でも、骨が残っていない?」

 バラバラになって散らばったはずの骨が何処にも残っていない。雨で流されてしまったのだろうか?


 石壁と石畳を進む。森の侵食を受け、見えている石の状況は良くない。ひび割れ、砕けている。


 そして、森に侵食され、隠された石畳は何処までも続いている。終わりが見えない。

「先は長そうだね」


 歩く。


 歩く。


 薄暗い森の中を歩く。


 草をかき分け、這っている木の根を乗り越え、苔むした石壁と草に隠された石畳を目印に歩く。


 骨の犬のような襲撃がないか周囲を警戒しながら歩く。


 そして、薄暗い森の中でも、空が紅く染まり、日が落ち始めたのが見えた。今日の探索はここまでだろう。


 野営の準備を行う。


 風よけ代わりの石壁を背に、落ち葉と枯れ枝を燃やし焚き火を作る。雨の残りか、それらは少しだけ濡れていたが、問題無く火が点いた。

 蛇肉の燻製を切り、骨の槍の先端に刺し、そのまま焼く。そして、もってきていた燻製肉の塊の一つを、焚き火の横で丸くなっていたスコルの前にそのまま置く。

「ガル?」

 スコルは、何これ、という不思議なものをみたような表情でこちらを向いた。

「スコルの分のご飯だよ」

 それでもスコルは不思議そうな表情をしている。

「スコルは、今日一日、危険が無いか警戒してくれたよね。自分と一緒に居てくれたから狩りにもいけなかっただろうし、うん、その労働の対価だよ」

「ガル」

 スコルは労働の対価という言葉でやっと納得したのか、燻製肉の塊を囓る。

「もっている食料は必要最小限だから、量は少ないけど、それは許してね」

 スコルは何も言わず燻製肉を囓っている。

『うむ。こやつなら、この量でも問題無いと思うのじゃ。何日か餌なしでも生きることは出来ると思うのじゃ』

「そうなの? 野生動物だから食い溜めが出来るのかな」


 食事を終え、石壁に寄り添って膝を抱える。

「眠るね。イフリーダ、ごめん、寝ている間の見張りを頼むね」

『うむ。任せるのじゃ』


 目を閉じる。


 眠る。


 ……。


 ……。


 そして、夢を見る。


 石で作られた石の都。


 いつもの夢だ。


 目の前には青年と少女。


 青年が剣をこちらに向け叫ぶ、少女が嘆く。


 そして、そこで目が覚めた。


「また、あの夢、だ」

 今回も同じ夢を見ていた。しかし、今までと違い、夢の中の青年と少女を覆っていた光のもやが薄くなっていたように思う。もう少しで、どんな服装で、どんな容姿なのか分かりそうだ。

「何でなんだろう?」


 消えたかけていた焚き火に落ち葉を足しながら、考える。

「日数が経ったから?」

 首を横に振る。

「もしかして、この探索が原因?」

 石畳の奥へと進んでいるから、それが自分の心に影響を及ぼした?


 分からない。


 頭を振って、夢の内容を追い出し、朝食の準備を行う。


 座り込み、炙った燻製肉を食べ、水筒の水を口に含む程度の量だけ飲む。


「イフリーダ、見張り、ありがとう。何も無かったよね?」

『うむ。任せるのじゃ。ちらほらと小物が隠れていた程度なのじゃ』

 イフリーダの言葉に頷く。

「さあ、今日も歩こう」


 立ち上がり歩き出す。


 薄暗い森を歩く。


 歩く。


 そして、太陽が真上に来た辺りで、森を抜けた。


 突如、森が終わり、膝までの高さの雑草が生い茂った場所に出る。

「森の外?」


 そこにも石壁の残骸が至る所に散らばっており、何かの文明が存在したことと、その文明が終わったことを示していた。

 その滅びの都の中では、人の骨が蠢いていた。意思を持たず、ただ、ふらふらと人型の骨が動いている。その体の中には宝石のような赤い塊が燃えていた。


 犬だけではなく、人も骨になっていた。


 ある程度予想していて、それでも衝撃的な光景のはずだった。普通なら驚き、慌てていただろう。しかし、驚きは少ない。


 それよりも、自分の目を離さない物があったからだ。


「石の城……」

 ここから、まだ距離はあるが、巨大な石の城が、その圧倒的な存在感で、こちらに訴えかけていた。

「形の残っている建物」

 石の城も廃墟と呼ぶのが正しいほど崩れている。しかし、それでも一目で城だと分かるくらいには形を残していた。


 あそこまで歩く頃には日も落ちているだろう。予定の日数を超えてしまう。


 頭の中ではここで引き返すべきだと、それが正しい選択だと分かっている。

「あの城まで進もう」

 それでも口に出したのは城を探索するという選択だった。

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