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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
禁忌の森

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038 骨

 骨の槍を構え、相手の動きに合わせて対応出来るように警戒しながら建物の残骸の裏側へと回る。

 そこに居たのは――あったのは何かの動物の骨だった。

「犬の骨かな?」

 ほっ、と安堵のため息を吐き、構えていた骨の槍を降ろす。風か何かで、この犬の骨が動いただけのようだ。

「それにしても状態がいいね」

 綺麗に生きていた時の形そのままに骨が残っている。

「ん?」

 犬の骨の脇腹の辺り、隠れるように赤い塊が見える。まるで宝石のように綺麗な赤だ。

「何だろう、コレ……」

 赤い塊を確認しようと手を伸ばす。

「ガル」

 スコルのうなり声。


 と、そこでスコルが警戒を解いていないことに気付き、手を止める。


 そして、犬の骨が動いた。


 慌てて後ろへと飛び退き、骨の槍を構える。

「イフリーダ、何コレ? 骨が、骨が動いた」

 二本足で立っている猫姿のイフリーダが頷く。

『うむ。アンデッド――生き返った骨なのじゃ』


 骨の犬が飛びかかってくる。とっさに骨の槍を水平に構え、骨の犬を抑える。

「これ、これ、これ、これ!」

 自分でも何を言っているのか、何を言いたいのか分からない。骨の犬が顎を震わせ、カチカチと音を鳴らしている。

「な、なんで、骨が動いて!」

 押さえつけた骨の槍の下で骨の犬がこちらに噛みつこうと暴れている。


「ガル」

 スコルが仕方ないという感じで、ゆっくり、こちらへと歩き、前足を振り上げ、そのまま骨の犬へと振り下ろした。その一撃で骨の犬はバラバラになり、動かなくなった。


 バラバラになった骨の犬が動く気配はない。

「イフリーダ、これは何だろう」

『アンデッドなのじゃ。生前に恨みを持ったものや何者かによって死の眠りを妨げられたものが蘇った姿なのじゃ』

「死から蘇るなんて……」

『これはスケルトンドッグ――犬の知恵などたかがしれている、後者だと思うのじゃ』

 思わずスコルの方を見る。スコルは何? という感じで首を傾げている。

「いや、犬って言ってもスコルのことじゃないよ。うん、スコル、ありがとう。助かったよ」

「ガル」

 スコルはこの程度は自分で対処して貰わないと困る、という感じで眉をひそめていた。


 ……いや、スコルの眉毛は見えないのだが。


 改めてバラバラになった骨の犬を見る。そこには、先ほどまで見えていた赤い塊がなくなっていた。

「赤い塊が消えている」

『ふむ。ソラには見えたのじゃな。もしかすると、それは蘇った死体に宿っていた命の灯火かもしれないのじゃ』

「命の灯火?」

『マナが魂だとしたら、体を動かすのが命なのじゃ』

「うーん、よく分からないよ」

『ふむ。簡単に言えば、アンデッドの弱点だと思うのじゃ』

「な、なるほど」


 骨の犬という危機が去ったので探索を再開する。


 残っている石の壁にも苔が生え、緑に覆われている。

「この石の壁がこうなるまで、どれくらいの年月が経っているんだろうね」

 植物の侵食によって石が隠れたり、壊れたりなんて、どれくらいの年月がかかるのか想像が出来ない。一年や二年ではないのだろう。


 植物の侵食によって隠された石畳を見失わないように気をつけながら歩いて行く。

「建物の跡があったのなら、ここで生活をしていた人が居たってことだよね。もしかすると、何か便利なものが見つかるかもしれない。それに屋根がある建物が見つかれば、そこに拠点を移しても良いしね」

 ただ、と考える。こちらに拠点を移すとなると水の問題が出てくる。結局、毎日、湖まで水を確保しに戻ることになってしまうのだから、あまり良い考えではないかもしれない。


 石畳を探し、進み続けると、目に見える形で石壁の残骸が増えてきた。

「石を加工する技術を持った村? 集落だったのかな。でも、その殆どが壊れているのは、どうしてなんだろう。てっきり植物の侵食で壊れたのかと思ったけど、それにしては、どれも綺麗に壊れすぎている気がするよ」

 腕を組み考える。と、いつの間にか足元にイフリーダの姿があった。

『ソラよ、考えている時間はないようじゃ』

 イフリーダの言葉を聞き、すぐに骨の槍を構える。


 石の壁の向こうから、今度は三体のスケルトンドッグが現れた。

「また!?」

「ガル」

 スコルが飛び出す。スコルの元へ二体のスケルトンドッグが飛びかかる。そして、残りの一体がこちらに襲いかかってきた。


 構えた骨の槍を突き出す。


 骨の犬が、その姿から信じられないくらい機敏な動きで横にステップし、こちらの突きを躱す。そして、そのままこちらへと飛びかかってきた。

「な!」

 体が勝手に動く。目の前を骨の犬が通り過ぎる。自分の体が飛びかかってきた骨の犬を最小限の動きでひらりと躱していた。

 いつの間にか自分の首の後ろには、抱きつくような姿のイフリーダが居た。

「イフリーダ!」

『ソラよ、しっかりと動きを見て、一撃で決めるのじゃ』

「分かったよ」

 小さく頷き、改めて骨の槍を構える。


 スケルトンドッグの動きを見る。スケルトンドッグは、こちらを警戒するように、ゆっくりとした動作で、じりじりと距離を詰めている。


 ――飛びかかってくる間合いがあるはずだ。そこを見極める。


 スケルトンドッグが頭を下げる。


 その動きを予測し、骨の槍を突き出す。


 ……。


 骨の槍は、飛びかかってきていたスケルトンドッグの顎を抜け、その奥にある赤い塊を貫いていた。

 赤い塊が燃え尽きたように、ばしゅんと消え、骨の犬はバラバラになった。元の動かぬ骨に戻ったのだろう。


「ふぅ」

 大きく息を吐き、額の汗を拭う。


 そして、スコルの方を見る。そちらはすでに終わっていた。スコルの足元にはバラバラになった骨が残っているだけだった。


「こんなにも犬の骨があるなんて、ここの人たちは犬とともに生活をしていたのかな」

『ふむ。そうかもしれないのじゃ』

 いつの間にか首の後ろから足元に移動していたイフリーダは、あまり興味が無さそうな感じで、そんなことを言っていた。


「ガル」

 スコルも興味は無さそうだった。


「はぁ。うん、今日はもう少しだけ探索したら帰ろうかな」

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