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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
ソライフ
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355 現れた神の力とその脅威

 真っ赤な猫が咥えたマナの剣の、その刃が学ぶ赤の背中から現れる。


 血が、真っ黒な血が噴き出す。


 学ぶ赤の背中から、口から、キラキラと金粉をちりばめたかのような輝く黒い血が吹き出る。

『ソラ、来るのじゃ!』

 銀のイフリーダが叫ぶ。


 来る?


 何が来る?


 いや、分かってる。


 学ぶ赤の体から吹き出した黒い血が何かの形を作る。


 手だ。

 腕だ。


 輝く黒い血が腕の形を作り、マナの剣を握る。


『ローラ、離れて!』

『え? もうっ!』

 ローラが口を開け、マナの剣を離す。そして、そのまま大きく飛び退いた。


 生まれた輝く黒い腕を見る。学ぶ赤の体から――その体の中から、マナが黒い腕の方へと流れている。まるで学ぶ赤の中にあるマナを吸い取っているかのようだ。


 次の国の時と同じことが起きようとしている。


『イフリーダ』

『うむ』

 させない。


 そんなことはさせない!


 喋る足に突き刺した禍々しい槍を引き抜こうとする。

「させないのです!」

 しかし、その喋る足が槍の刺さった腕を動かす。肉を引きちぎり、腕を自由にする。そして、そのまま槍を掴む。


 槍が動かない。


 押しても引いてもビクともしない。硬く握られている。貫いた肉と手によって完全に動きを封じられている。


 何処からこれほどの力が……。


 喋る足の顔を見る。

 喋る足はこちらを見ている。


 ……。


 当然か。


 生命を賭したものの底力だ。


 でも……。


 でも、だ。


 槍を手放す。


「な、驚きなのです」

 槍を掴んでいた喋る足が驚きの声を上げる。喋る足に付き合ってあげたいが、今はそれどころじゃない。


 急ぐ必要がある。


 槍は――必要ない!


 そのまま翼を広げ、驚きこちらを見ていた喋る足の上を飛び越える。


『イフリーダ!』

『任せるのじゃ』

 銀のイフリーダが姿を変える。僕のマナを大きく喰らい、銀の手から剣のような姿へとその形を変える。


 学ぶ赤から吹き出した輝く黒い血から人の頭が現れる。その頭が青い髪の女性へと変わっていく。

『二度目となると消費が大きいのです』

 青い髪の女がマナの言葉で喋る。


 青い髪の女が学ぶ赤を入り口として這い出ようとしている。


 させない!


 斬り落とす。


 銀の剣を振るう。


 だが、その銀の剣が新しく生まれた黒い血の手によって掴まれる。

『なんじゃと! 我の力が!』

『何を驚いているのです。同格程度の力なら防ぐのも容易いのです』

 無の女神では突破出来たものが銀のイフリーダでは届かない。


 銀のイフリーダと無の女神の力の差、か。


 でも、だ。


 こいつは忘れている。


 ここにいるのは銀のイフリーダだけじゃない。


 僕が居る!


 左手を握る。


『何をしようというのです。お前のような雑魚が何をしても無駄なのです。私の顕現をゆっくりと見ていれば良いのです』


 拳を作る。


 喰らえ。


 殴る――殴りかかる。


『そのようなものが――』

 青髪の女が空いている方の手で僕の拳を受け止めようとする。


 速い。


 この青髪の女は見てから動いているのに!

 こちらの拳を待ち構えるほどの速度だ。


 だけど!


 僕の拳が青髪の女に刺さる。その頬を強く殴りつける。

『な、何故なのです!』

 殴られた青髪の女が叫ぶ。


 そして、その次の瞬間には銀の剣が動いていた。掴んでいた手ごと青髪の女を斬る――斬り抜ける。

 学ぶ赤の体から生えていた青髪の女が吹き飛ぶ。


『ふん。油断なのじゃ! 隙を突ければ造作も無いのじゃ』

 銀のイフリーダは得意気だ。


 青髪の女を殴った左腕がドロドロに溶け始めている。創造の黒いマナ。殴るという結果を創った。その創造された結果の前には、防ぐことも回避することも出来ない。


 それが殴ることが出来ないような生物であったとしても、だ。


 結果を創るという恐ろしい力。


 だが、負担も大きい。しばらく同じことは出来そうにない。何処かでマナを補給しないと……。


 周囲を見回す。


 至る所に魔獣の死骸が転がっている。そうだった。今ならマナの補給は容易いだろう。


 だけど、だ。


 だけど、それよりも先にやるべき事がある。


 学ぶ赤は体をマナの剣で貫かれ、血を流している。でも、生きている。それでも生きている。

 リュウシュは頑丈だ。戦うことは苦手だが、その分、強い生命力を持っている。


 学ぶ赤は生きている。


 スコルに喉を噛みつかれた語る黒も同じだろう。その程度では――リュウシュは死なない。


 振り替える。


 ……予想通りだ。


 そこでは大量の血を流した喋る足の体から何かが生まれようとしていた。


 何か?


 わかりきっている。


 先ほど倒したのは分体でしかない。仮初めの体だ。マナさえあればいくらでも現れる。そして、今、ここにはマナが溢れている。


 どうする?


 どうすれば……?


 神が生まれようとしている衝撃からか喋る足は気を失っている。虚ろな目のまま、何者かに乗っ取られたかのように体をガクガクと揺らしている。血を溢れさせている。


 創造の黒いマナ。次は……無理だ。今すぐに使うのは無理だ。


『任せるのじゃ』

 銀のイフリーダの言葉。


 得意気に腰に手をやり胸を張った銀のイフリーダの姿が見える。

『任せるって、どうやって?』


 ……。


 そうか、あの槍を使って!


『これなのじゃ!』

 そう言って銀のイフリーダが手を伸ばす。その開かれた手の上には、銀色に輝く指輪があった。

『え? 指輪?』

 槍じゃない?

『この指輪をあれにはめるのじゃ』

 マナの意思だけではなく、実際の僕の目の前に指輪が生まれる。小さな指輪が生まれ、落ちてくる。慌ててその指輪を拾おう――として、手がないことに気付く。左手はドロドロに、右側は銀の剣になっている。


 拾えない。


『任せてくれ』

 レームが僕の代わりに拾ってくれる。

『この指輪は?』

『それは後なのじゃ。早くするのじゃ!』

 レームが頷き、喋る足の指に指輪を差し込む。


 その瞬間、生まれようとしている神の気配が消えた。


『次なのじゃ』

 次の指輪が生まれる。


 先ほどと同じような銀色に輝く指輪だ。

『ああ。任せてくれ』

 レームが銀の指輪を受け取り、学ぶ赤の指に差し込む。


 また同じように銀色の指輪が生まれる。次は語る黒だ。


 ……。


 指輪が生まれる度に銀のイフリーダが小さくなっている。よく見れば銀の剣の大きさも小さくなっている。剣ではなく短剣だ。


 次の指輪が生まれる。

『指がないものにはどうすれば!』

 レームがマナの言葉で叫ぶ。


 そういえば働く口の腕はレームが斬り落としていた。これでは指輪を付けることが出来ない。


『足の指でも、尻尾でも好きにするのじゃ』


 ……。


 あ、指じゃなくても良いのか。


『イフリーダ、この指輪は?』

『マナの中継を妨害するのじゃ。これであやつらが降臨することはないのじゃ』

 良く分からないが、これで何とかなりそうだ。


 後は……。


 マナを送り、学ぶ赤たちを補助していた院のリュウシュたちを見る。


 院のリュウシュたちは――それだけで逃げ出した。悲鳴のような叫び声を上げて逃げている。

『どうするの? 追いかける?』

 真っ赤な猫が逃げ出したリュウシュたちを見ている。獲物を狙う目だ。

『いや、今はそれどころじゃないよ。無視すればいい』

『でも! 後で襲ってきたら厄介じゃない?』

『その時には僕が神を倒しているはずだから、もう脅威じゃなくなってるよ』

『ああ。そうだな』

『うむ。そうなのじゃ』

『ガルルルゥ』

『もう! 分かった。そういうことにしとくから!』


 ……。


 これで学ぶ赤さんたちを大人しくすることが出来た。皆、ボロボロで半分死にかけているような状態だが、それでも、しっかりと生きている。

 生きている。


 だから、大丈夫だ。


『それでソラ、どうする?』

 レームは周囲の魔獣を見ている。


 魔獣はまだまだ溢れている。数え切れないほどの魔獣が蠢いている。


 助けに来てくれた爛れ人も、公国の騎士も、獣王も、その配下の騎士も――戦い続けている。

 数が減ったようには見えない。


 でも、拮抗している。何とかなっている。


 ……。


『このまま突っ込みます。迷宮の奥へと進み、神を倒します』

 神を倒す。


 そして、すぐに戻り、皆を助ける。


 今しかない。

『分かった』

 レームが頷く。


『その前に少しだけマナを補充します』

 学ぶ赤たちとの戦いで多く消耗しすぎた。でも、今は周囲にマナが溢れている。いくらでも取り戻すことが出来る。


 ……形にこだわっている場合じゃない。


 体を大きく広げ、魔獣の死骸ごとマナの結晶を喰らう。周囲に転がっている魔獣の死骸を喰らっていく。


 時間は貴重だ。


『ソラ、では、自分はその間、ここで時間を稼ぐよ』

 レームが剣を構える。


 レームはここに残り、ここで戦っている彼らを助けるようだ。


『ふーん。じゃあ、私はソラと一緒に行くから』

 真っ赤な猫が僕を見て片目を閉じる。


『当然、我も行くのじゃ』

『ガルルル』

 スコルが吼え、僕の前で伏せる。背に乗れということだろう。


 ある程度の食事を終えたところでスコルの背に跨がる。


 行こう。


 迷宮の奥へ。


「ちょっと待つんだぜ」

 と、そこに待ったがかかる。


 そちらを見れば、そこには何故かフードのサザが立っていた。

「奥に行くんだろ? 私も行くぜ。武器の手入れとかさ、出来た方が良いだろ?」

 フードのサザが笑う。そして、そのままスコルの背に飛び乗った。


 そう、スコルの背に、僕の後ろに乗ったのだ。


 ……。


 えーっと、なんで乗ってるの?


 僕は、スコルの信頼を勝ち得て、やっと背に乗れたのに、なんで乗ってるの?


 スコルも困ったような顔でこちらへと振り返っている。僕が乗っているから振り落とすことも出来ないようだ。


『ちょっと待ってくれ。やはり、自分も行こう』

 レームがそんなことを言い出した。


 えーっと、レームさん?


『サザ殿が行くのに、自分だけ、ここに取り残されるのは、な』


 えーっと、レームさん?


『えーっと、レームさん?』

『だ、大丈夫だ。自分の力が無くても彼らならしっかりと戦ってくれるはずだ』

 レームは横を向き、そんなことを言っている。


『うむ。こやつも本当は一緒に行きたかったのじゃ』

『かっこつけて、素直じゃないから、そうなるんだから!』

 真っ赤な猫が呆れたようにため息を吐き出している。


「むむ! お前たち! ここから何処かに行くというのか!」

 そこに獣王がやって来る。

「うわ、武器頼みのヤツじゃん。うざっ」

 フードのサザは獣王を見るなり、毒を吐いている。獣王を嫌っているようだったから、これは仕方ないのかもしれない。


 ……。


 ああ、でも、丁度良いか。


「ええ。これから、この迷宮の奥で待っている神を倒しに行きます。そこで倒れている学ぶ――リュウシュたちを見ていて貰えませんか?」

「こやつらをか! こやつらは敵じゃないのか!」

 ああ、そうなるか。


 えーっと。


「このリュウシュたちを殺してしまうと神の分体が現れてしまいます。それはそれは恐ろしい力を持った敵です。なので! 傷つけないように! 死んでしまわないように治療をお願いします」

「何と! そのような! 分かったぞ! しっかりと面倒を見よう!」

「ええ、お願いします」

「それで、お前たちが戻ってきた暁には……」

 あー、確か、戦いたい? そのようなことを言っていたような……。


 うん、僕たちと戦いたい、だったかな。

「分かりました。その時は再戦ですね」

「うむ。それでこそ! 私の好敵手だ!」

 獣王が笑う。


 獣王は暑苦しいが悪い奴じゃないのかもしれない。


 ただ、ちょっと頭の中にまで筋肉が詰まっているだけだったのだ。


 うん。もちろん良い奴じゃない。悪い奴じゃないだけだ。


 ……。


『行きましょう』

『ああ』

『魔獣を飛び越えて、迷宮の奥へ!』


 行こう。


 神を倒す!

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