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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
ソライフ
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353 戦う理由の意味を知った

『スコル、行こう』

『ガルルルゥ』

 スコルがマナの言葉で返事をする。何故、マナで? 意味があるのだろうか? そこは普通にしてても大丈夫だと思う。


 ……スコルらしいと言えば、スコルらしい、か。


 スコルとともに、学ぶ赤さんのところへ――待ち構えている院の集団へ向かう。


「あなた方とは戦いたくない。引いてください!」

 叫ぶ。まだ距離は開いている。間に居る魔獣が邪魔だ。


 だから声を届かせるために叫び、伝える。


 これは心からの言葉だ。


 叫ぶ。


 学ぶ赤さんが首を横に振る。

「ここで魔王を討つのです!」

 だが、届かない。学ぶ赤さんは他の仲間たちの方へと振り返り、呼びかけていた。


 戦うしかないのか?


 いや、まだだ。


 僕は魔王じゃない。

 僕は僕だ。

 それが分かって貰えれば戦闘を回避出来るかもしれない。


「僕は……」

「話は無駄なのです」

 学ぶ赤さんが僕の言葉を遮り、再び首を横に振る。


 その顔は決意に満ちている。


 話を聞いてくれない。相手に聞く気がなければ、どれだけ話そうとしても無駄だ。


 戦うしかない。

 もう、戦うしかない。


「分かりました。話を聞いて貰えるように大人しくなって貰います」

「望むところなのです」

 学ぶ赤さんがこちらを見る――見ている。


 そして呪文を唱え始める。神法を使うつもりだ。


 させない!


 こちらの進路を塞いでいる魔獣を槍で貫き、薙ぎ払い、駆ける。


『くるのじゃ!』

 銀のイフリーダの言葉を聞くまでもない。


 目の前に水流の渦が飛んでくる。水が渦を巻いて飛んでくる!


 水の神法。


 だけど、無駄だ。


 銀の右手を伸ばす。


 飛んできた水の渦を銀の右手で受け止める。そして、そのまま、その水流を形作っていたマナを喰らう。

 神法もマナで作られている。それは同じだ。


 創る力によって結果を固定化された黒のマナでなければ、喰らうことは出来る。


 僕に神法は効かない。


 ただの糧でしかない!


 学ぶ赤は次の呪文を唱えている。どれだけ神法が飛んでこようと無駄だ。


 そして、次の神法が飛んでくる。


 先ほどと同じような渦巻く水流だ。


 無駄だ。


 銀の右手を伸ばす。

『待つのじゃ!』

 銀のイフリーダがマナの言葉で叫ぶ。

『スコル!』

 僕が呼びかけるよりも早くスコルが動く。


 こちらの邪魔をしていた魔獣を飛び越え、渦巻く水流から避けるように動く。


 飛んできた渦巻く水流を見る。よく見る。目ではなく、感覚で見る。


 渦巻く水流の中に神々しいほどの輝きがちりばめられているのが分かる。

『イフリーダ、今のは?』

『我ら神の力の一端なのじゃ。おぬしにも分かるように言うのならば、あの黒いものとよく似た性質なのじゃ』

 神の力の一端? 黒いマナとよく似ている?


『神が、同胞が目覚めたことで道が出来たのじゃ。これからは神の原初の力を使ったものが増えるのじゃ!』

 目覚めた?


 道が出来た?


 ここは迷宮。


 迷宮があった場所だ。そこに近いから?


 いや、どちらにしてもこの力は危険なようだ。

『スコル、そうらしい。いける?』

「ガルルル!」

 スコルが全て躱して見せるとでも言うかのように叫ぶ。


 そして、駆ける。


 マナの尾を引き、残像が残るほどの速度で駆ける。


 こちらの進路を塞ぐ魔獣をなぎ倒し、駆ける。


 一瞬にして間合いを詰める。


 そして、飛ぶ。


 学ぶ赤を目指し、飛ぶ。


 スコルの前足に黒い刃が生まれる。


 学ぶ赤は呪文を唱えているが間に合わない。呪文を唱え終えるよりもスコルの方が――速いっ!


 スコルの黒い刃が学ぶ赤を襲う。


 ……。


 しかし、


 しかし、だ。


 その黒い刃は学ぶ赤の前にある槍によって防がれた。スコルの黒い刃が槍によって防がれている。そして、その槍を持っているのは――喋る足だ。

「自分がいることを忘れて貰ったら困るのです。これでも神の力を受け、あなたに届くほどになったのです」

 そう、あの戦士の二人の片方、喋る足だ。


 拠点で僕を見逃してくれた、あの喋る足だ。


 その喋る足が槍を持って僕の前に居る。


 スコルの一撃を防いでいる。


 でもっ!


「神なんて、借り物の力で!」

 スコルの一撃を防いだ喋る足の槍を薙ぎ払うために、僕は手に持った禍々しい槍を振るう。振り上げる。そう、戦っているのはスコルだけじゃない。僕もいる。スコルの一撃を防いでも、僕がいる!


「……届くのです」

 しかし、その禍々しい槍がもう一つの槍によって防がれる。その槍を持っているのは――働く口だ。


 もう一人の戦士。


 そう、この二人はいつも一緒だった。居て当然だ。


 だけどっ!


 もう片方の手、左手に持ったマナの剣を振るう。


 と、そこに神法が飛んでくる。水流の塊。だが、それは、こちらではなく、働く口に当たる。味方を攻撃した? 飛ばしたのは……?

「私も居るのです」

 語る黒だ。


 こちらに味方した? 違う。


 働く口の体が大きくなる。力が増している。相手を強化する神法?


 振るったマナの剣が働く口に受け止められた。それは槍ではない。その体で――そう、鱗のある腕で受け止められた。刃が通らない!


 これが強化した力かっ!


『くっ、スコル、距離を!』

『ガルル』

 スコルが喋る足が持っていた槍を蹴り飛ばし、その勢いで後方へと逃れる。と同時に、スコルは口から黒い棘を吐き出し、飛ばす。喋る足がとっさに鱗のある腕で黒い棘を防ぐ。しかし、完全に防ぎきれなかったのか黒い棘は鱗を貫通し、腕に刺さる。


 喋る足は強化されていないから、だから攻撃が通ったのか?

 それとも黒いマナなら攻撃が通るのか?


 その黒い棘が刺さった喋る足に神法が飛ぶ。その瞬間、黒い棘は消え、腕の傷も消えていた。神法を飛ばしたのは先ほどと同じく語る黒だ。


 黒いマナすら消し、傷を癒す神法。

 これが神の力、か。


「守るのです」

「自分たち二人がいる限り、ここを突破することは出来ないのです」

 二つの槍で守っている。


 学ぶ赤が神法で攻撃を。

 喋る足と働く口、戦士の二人が守りを。

 語る黒が傷を癒やし、強化を。


 強敵だ。


 そして、その四人の後ろに居る院のリュウシュたち。


 常に呪文を唱え続けている。それは神に捧げる祈りだ。


 マナの流れを見る。


 呪文を唱えている院のリュウシュたちから、マナが、力が、学ぶ赤と語る黒へと流れ込んでいる。力を増幅させている。


 神が手を貸し、それでも足りないマナを、数を使い増幅している。


 ……。


 そして、僕の、僕たちの敵は学ぶ赤たちだけではない。


 周囲に溢れている魔獣も敵だ。魔獣を相手にしながら、学ぶ赤たちとも戦う必要がある。


 ……。


「こんな、こんな! 魔獣が溢れている状況です! 僕たちが戦っている場合じゃない! 魔獣を倒さないと人は滅びます!」

 学ぶ赤は首を横に振る。

「神に抗うものが居なくなれば、これも終わるのです。神の力があれば、魔獣を殲滅するのは容易いのです」

「それを行っているのが神でもですか! 神が居る限り、僕たちは搾取されるだけだ!」


 学ぶ赤が大きくため息を吐き出す。

「違うのです。神が居なければ私たちは魔獣と戦うことも出来ないのです」

 そして、手を広げる。

「ソラ、見るのです。戦っているものたちを見るのです」

 学ぶ赤と同じリュウシュが、メロウが、ヨクシュが、皆が戦っている。


 魔獣の侵攻を防ぐために戦っている。


 だが、圧されている。

 ただ、魔獣の力に耐えているに過ぎない。


 魔獣の方が強い。こちらは数で耐えているに過ぎない。


「彼らは神の力を持っていないのです。力が無ければ魔獣と戦えないのです。私たちには神の力が必要なのです」

 彼らは自分たちの力で戦っている。


 神技も神法も使っていない。いや、使えないのだ。


 でも……。


 でも、だ。

「それでも戦っているじゃないですか!」

 学ぶ赤は首を横に振る。

「話は終わりなのです」


 学ぶ赤。僕が拠点で初めて出会った人。壺が大好きで、変な壺を作って喜んでいた。ともに戦い、邪なる竜の王を倒した。


 語る黒を見る。


 拠点で僕の力になってくれた。スコルを追いかけていた時、吹雪の中、その身を挺して僕を守ってくれた。


 喋る足と働く口の二人。戦士の二人。僕から槍の技術を学び、ともに戦った。そして、僕が姿を変えた後も、分かってくれた。信じてくれた。


 なのにっ!


 みんな、仲間だと思っていたのに!


 何で、だ。


『ソラ、戦うのじゃ』

『ガルル』

 銀のイフリーダとスコル、二人の言葉。


 そうだ。


 止める。


 止めるために戦う。


 戦って、神に勝ち、解放する。


 そうだ。


 忘れてはいけない。


 僕は解放するために戦っている!

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