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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
ソライフ
357/365

352 人が滅びないための戦い

 スコルにまたがった僕を先頭に、皆で駆け下りていく。


 開かれた迷宮を目指し、集団で――軍団で攻める。


 そして、爆心地の中央部が見えてくる。


 そこには大きな穴が開いている。大穴の中にある穴だ。かつて門があった場所が開かれている。

 さらに底へ。


 迷宮の深い場所へ。


 そこから進めるはずだ。


 そして、その開かれた大穴から魔獣が現れる。


 穴から飛び出るように這い出てきたのは、大きな翼を持った四つ足だ。その体は鱗に覆われている。赤竜とよく似ているが、それよりは一回り小さく、体の色も苔むしたかのような緑色だ。

 現れた魔獣を目掛けてスコルが飛ぶ。


 そして前足から黒い刃を生み出し、現れた魔獣を真っ二つにする。


 黒いマナだ。


 スコルは黒いマナを使いこなしている。


 魔王と一緒に居たのだから当然か。

『こやつ、なかなかやるのじゃ』

『ふん。今の私の方が凄いんだから!』

 銀のイフリーダは素直に称賛を、真っ赤な猫は何故か対抗心を燃やしていた。


 でも、これで魔獣は……。


 大穴を見る。


 大穴の方を見た瞬間、言葉を失う。


 そこから無数の魔獣が這い出そうとしていた。一匹や二匹ではない。何処に隠れていたのか、無数の――それこそ開かれた大穴を埋め尽くすほどの魔獣が這い出そうとしている。


 様々な姿の魔獣。


 巨大な口を持った蜥蜴、硬い殻と節を持った魔獣、角の生えた四つ足の魔獣、無数の足を持つ魔獣。どれもが大きな体格を持ち、そして強大だ。

 強いマナの力を感じる。


 まるで地獄の釜の蓋が開かれたかのようだ。


 神の眠る場所に無数の魔獣。どういうことだろうか?


 ここには何が眠っている?


 神を名乗るマナ生命体が眠っているだけじゃないのか?


「ここは我らにお任せを!」

 追いついたヨクシュたちが現れた魔獣の群を目掛けて飛ぶ。


 空を舞い魔獣たちを翻弄する。


 だが、魔獣の数が多すぎる。魔獣の中には空を飛ぶものも居る。空を飛べるという、ヨクシュたちの利点を生かし切れない。


「続くのだ」

 そこへメロウたちが参戦する。


 糸を飛ばし、魔獣の動きを封じ、硬く強い蜘蛛の足で魔獣を潰し、手に持った細い剣で斬る。


「援護するのです」

 そして、無数の矢の雨が降る。


 リュウシュたちが弓を引き、矢を放つ。


 皆が戦う。


 メロウは一対一でも何とか、ヨクシュたちは二人がかりで一体を、リュウシュたちは集団で相手をするか弓と矢での援護に回っている。


 何とか戦えているが――数が多すぎる。


 倒しても倒しても大穴から魔獣が現れる。


 魔獣の集団に飲み込まれそうだ。


 数の暴力だ。


 そこには戦略も戦術も無い。


 ただただ数で襲いかかってくる。


「力の強いメロウたちを前に、空を飛べるヨクシュたちはその補助を。リュウシュたちは出来るだけ空を飛ぶ魔獣を狙い、撃ち落としてください」

 皆に指示を出す。


 バラバラに戦っていては駄目だ。


 数に飲み込まれる。


『ローラは空の魔獣を。リュウシュたちだけでは捌ききれません』

『もちろん! 任せて!』

 真っ赤な猫が空を飛び、その爪で魔獣を斬り裂いていく。


『赤竜も空の魔獣を!』

 赤竜が真っ赤な猫に張り合うように空の魔獣を倒していく。


『では地を這う魔獣は任せてくれ』

 レームが二本の剣を持ち、斬り進んでいく。道を作る。


 新しい剣を生み出し、技をたたき込む。レームの仲間の剣なのだろう。


「武器が傷んだら任せろ!」

 後方ではフードのサザを中心として鍛冶士たちが武器を修理している。鍛冶道具を広げ、戦場で武器を打ち、研ぎ、修理し、そして折れれば、新しい武器を作る。


 皆が協力し、戦闘が続く。


 魔獣の波が続く。


 終わりは見えない。

 終わりが見えない。


 見えそうにない。


 だが、マナにだって限りはある。

 魔獣を生み出すマナは無限じゃない。


 無限に続くはずがない。

 永遠に続くはずがない。


 終わりは来るはずだ。


 青空が消え、暗闇に包まれた後も戦いは続く。


 赤竜が赤い炎を飛ばし、魔獣たちを燃やし、明りを付ける。


 疲労の多いものを後方に下がらせ、休憩させる。その抜けた穴に僕が入り、戦線を維持する。

 銀のイフリーダ、スコルとともに戦う。


 戦い続ける。


 これだけの数の魔獣……。


 ここを突破された時、地上にどれだけの被害が出るか分からない。ヒトシュは簡単に滅びるだろう。リュウシュも厳しいかもしれない。メロウやヨクシュは戦えているが、種族の数が少なすぎる。数に飲まれ、滅ぼされてしまうかもしれない。


 数が多すぎる。


 魔王たちとの戦いで鍛えられた僕たちが居るから、何とか戦線を維持出来ている。だが、それも危うい。

 ここにカノンさんやセツさんが居てくれたらどれだけ心強かったか、と思ってしまう。


 二人のことを考えるなんて、どれだけ弱気になっているのか。心が折れれば終わる。


 全てが終わってしまう。


 まだ迷宮の底にすら辿り着いていないのに、ここで終わる訳にはいかない。


 戦う。


 疲れを知らない、この体だ。


 戦い続ける。


 そして、朝日が昇る。


 それでも戦いは終わらない。


 大穴からは、まだまだ魔獣があふれ出ている。魔獣が這い出てくる。数が減ったようには思えない。


 無の女神は、この魔獣の集団を無視して迷宮の奥へと進んだのだろうか。


 ……僕にはそれが出来ない。


 この魔獣の集団を無視することは出来ない。


 戦わなければ、ここで食い止めなければ――人は終わる。神に勝っても、魔獣の集団によって人が滅ぼされていたら意味が無い。


 そう、意味が無い。


 神を倒すことだけを考えている無の女神とは違う。


 人の神からの解放を考えるなら、人が生き延びていなければ意味が無い。


「なんとしても食い止めます!」

 戦う。


 大穴という出現する場所が限定されているから、まだ抑え込められる。ここから溢れ、広がったら、もう対処が出来ない。

 だから、戦い続ける。


 戦い、抗う。


 魔王はこのことを知っていたのだろうか?


 ……。


 いや、だから、か。


 だから、配下を作っていたのか。個人ではなく、国を、軍団を作っていた理由が、これか。


 戦い続ける。


 陽は空高く、頭の上へと昇っている。


 魔獣の数が減った気はしない。まだまだ溢れてくる。


 戦いは続く。


 ここで僕たちが逃げたらどうなる? いったん、立て直すために、ここを離れたら?

 魔獣は溢れ、収拾がつかなくなる。これが弱い魔獣なら良い。だけど、一匹、一匹が危険な魔獣だ。僕たちだから戦えている。


 ここで防がなければ人は負けるかもしれない。それだけの勢いと数だ。


 心が折れそうな戦いが続く。


 戦いが続く。


 そして、その戦いに変化が現れた。


 何処からか魔獣の集団へと水の渦が放たれ、その魔獣たちが吹き飛ぶ。


 ……水の神法?


 何処だ?


 何処から飛んできた?


 その放たれた先を見る。それは開かれた大穴の近く。魔獣の集団側だ。


 そこに立っていたのは……。


 見覚えのある顔。


 顔たち。


 そう、それは……、


 学ぶ赤さんを先頭とした語る黒さんたち、神法を扱う院の集団だ。


 見知ったリュウシュの人たちだ!


 その時、僕は心強い味方が現れたと思った。これで魔獣の殲滅が楽になると思った。


 そう――思った。


 だが、違っていた。


 違っていた。


 学ぶ赤さんは呪文を唱え、こちらへと水の神法を放つ。その神法を受けたメロウが負傷する。


 ……攻撃は無差別に行われている。


 いや、違う。


 こちらを狙った余波に魔獣が巻き込まれていると言った方が正しいだろう。


 神法……。


 ああ、そういうこと、か。


 分かっていたことなのに。

 分かっていたことだったのに。


 次の国がどうなったかで分かっていたのに!


 学ぶ赤さんも語る黒さんも……敵だ。


 神の使徒だ。


 何で……。


 いや、今は動くべきだ。


 戦わなければ戦線が崩れる。そうなってしまえば、大穴で抑えこんでいる魔獣が外に広がり、対処できなくなってしまう。


 終わってしまう。


 こんな時に!


 こんな場所で!


 何でだ!


 何で戦わないと……!


「リュウシュのような弱き種族が!」

 そう叫び突っ込んだヨクシュが語る黒さんが放った水の神法によって撃ち落とされる。


 神の使徒になったからか、神法の威力が上がっている。


 油断できない力だ。


『ソラ、どうする!』

 いつの間にか暴れ馬に跨がり戦場を駆けていたレームが叫ぶ。何処で合流したのだろう。


『僕が何とかします。これは僕の戦いです。僕が抜けた穴をお願いします』

『分かった。だが、長く持たせるのは難しい』


 僕がやるしかない。


 僕がっ!

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