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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
空の生命
355/365

350 終わりが始まったのだ

 宮殿の頂上にてレームと銀のイフリーダの回復を待っていると、魔王の体から流れ落ちた血がこびりついている機械の辺りが揺らめいた。


 それはマナの残滓。


 それは薄くぼんやりとしているが――魔王の形をしていた。


 魔王。


 かつての僕の姿とよく似ているが、何処か違っている。記憶の中にあったアイロの姿とそっくりだ。


 血から生まれた魔王の亡霊。


 もしかすると流れ出た血の中に残っていたマナが残滓となって現れているのかもしれない。


 魔王の亡霊が、自身が音を奏でていた機械を指差す。いや、正確には、その機械の中にある何かを、だろうか。


 そして、次に魔王は外を指差す。


 そちらにあるのは迷宮だろうか。


 ……そう、迷宮だ。


 そのまま魔王の亡霊がゆっくりと消えていく。いや、違う。


 魔王のマナが僕の方へと流れてくる。


 まるで元々が同じものだから、元に戻ろうとしているかのように流れてくる。魔王の意思がなくなり、とどめていたものがなくなったのだろうか。


 血の中に眠っていたマナの残滓だ。それは微々たる力にしかならない。だが、その力を手に入れたおかげで取り戻したものがある。


 スコルとの繋がりだ。


 だが、それはまだ遠い。


 魔王の血に眠っていたマナの残滓の力は弱く、スコルまで届かせるのは時間がかかりそうだ。だけど、確かにスコルを感じる。


 かつて、僕が手に入れていたもの。


 持っていたもの。


 スコルの信頼。


 それを感じる。


 取り戻した。


 取り返した。


 スコル、だ。


 長かった。


 本当に長かった。


 こんな結末になってしまったけれど、それでも少しだけ取り返すことが出来た。


 ……。


 ……魔王。


 魔王アイロ。かつては戦士だった。だが、生き延びるために、新しい体をつくり、移し替える度に、新しい意識と混ざり、やがて違うものへと生まれ変わる。戦士が技術者に、研究者に――混ざり、変わった。


 僕の目の前に居た魔王は、もうアイロと呼べないものだったのかもしれない。


 体の記憶の中にあったアイロとは違うものだった。


 だけど、その中にあったのは人の神からの解放。それだけは同じだった。混ざり異なる人格になってでも、為そうとしていた事。


 魔王の残滓は迷宮を指差していた。


 神の眠る場所。


 ……。


 魔王アイロは敵だった。僕から全てを奪った相手だった。


 だけど、だからこそ、その思いは継ごう。


 魔王が持っていたマナの剣を拾う。かつての僕が持っていた剣。


 僕が目覚めた場所で転がっていた折れた剣を鍛え直した姿。戻ってきた。


 そして、次の国の亡骸の近くに落ちている禍々しい槍も拾う。


 無の女神が扱っていた槍。その中に恐ろしいほどの力を感じる。


 剣と槍。


 僕が銀のイフリーダから学んだ戦う方法。


 魔王アイロは倒れた。それは僕にとって望ましい倒れ方ではなかった。だが、決着はついた。そう、ついたんだ。

 だから、剣と槍を持つ。


 これで神を倒す。


 そして、無の女神も倒す。


 そこで僕の旅は終わる。


 ……。


 その場で銀のイフリーダとレームの復活を待つ。


『むむむ、一瞬にして意識を、マナを奪われたのじゃ』

 最初にマナ生命体である銀のイフリーダが目覚める。

『か、体が軋む』

 次にレームが目覚める。


『もう! だらしない!』

 たまたま無事だった真っ赤な猫がそんなことを言っている。

『むぅ』

 銀のイフリーダは失った体を抱え、不機嫌そうだ。

『面目ない』

 鎧が砕け散り中の骨が見えた状態のレームは落ち込んでいる。


 二人ともボロボロだ。


 でも、二人はまだ戦える。


 だから、確認する。


『魔王は倒れました。僕はこのまま迷宮へと向かい神を倒すつもりです。二人はどうしますか?』

 二人の意思を確認する。


 銀のイフリーダはまだしも、レームには魔王までしか因縁はない。ここで別れることになっても仕方ないことだ。だから確認する。


 骸骨姿のレームが骨をカタカタと鳴らして笑う。

『自分はこのように、すでに終わっている身だ。残り少ない時間、友人であるソラのために使わせてくれ』

 レームがこちらに拳を伸ばす。


 だから、僕は拳を返す。


 拳と拳がぶつかる。そのまま手を握る。

『ええ、頼みます』


『うむ。我も、あの場所、あそこでおぬしに負けた時から、力を貸すと決めたのじゃ。最後まで付き合うのじゃ』

 銀のイフリーダが腰に残った方の手を当て、胸を張り、笑う。


 そして、そのまま銀の右手へと姿を変える。だが、その形は以前よりも細く短くなっていた。それだけ、マナを消費しているということだろう。


『もちろん、私も行くから! このまま帰ったらラーラに怒られそうだもの』

 真っ赤な猫が立ち上がり、器用に肩を竦めている。


 皆、着いてきてくれる。


 だから、今度こそ終わらせよう。


『うむ。それでどうするのじゃ』


 まずは、だ。


 魔王の残滓が指差していた音の出る機械に近寄る。


 ……良く分からない機械だ。改めて見ても良く分からない。先ほどは分からなかったが、沢山の四角い小さな板が均等に並んでいるようだ。これを叩いて音を出す機械みたいだ。


 魔王が指差していたのは、この機械。いや、この機械の中身だろうか。


 マナの剣で機械をたたき切る。


 ……。


 その機械の中から出てきたのは時計のような――中の歯車が丸見えになっている球体だった。


 ……見覚えがある。


 獣国の地下にあった王城でセツたちヨクシュが回収していたものだ。


 これは何だろう?


 だが、もしかすると何か重要なものかもしれない。外で待っているサザに聞けば、何か分かるかもしれない。

『これを持っていきます』

『ああ。ならば、自分が持とう』

 レームが歯車の球体を抱え持ってくれる。


『迷宮に行きましょう』

 後は迷宮に向かうだけだ。


 皆が頷く。


 かなり大きな地震が起きていたが、外で待っているサザや赤竜は無事だろうか。二人がどうにかなるとは思えないが、それでも少し心配だ。


 階段を降りる。


 そこには穴だらけになったゴーレムが転がっていた。


 ……。


 やったのは次の国だろう。


 実力を隠していたのか――いや、神による力で倒したのだろう。確かに優れた力だ。凄い力だ。

 だが、神を信じ、信仰した結果がアレだ。


 神からすれば、人はマナを集めるための奴隷でしかない。マナを集めることにしか価値を認めていない。


 ……行こう。


 宮殿を降りていく。


 そして一階層。


 そこにあった黒いマナの池はなくなっていた。ここにあったマナは全て消えている。あの、迷宮の方へと放たれた光の燃料にされてしまったのだろう。


 ……。


 だが、これで安全に向こう岸へと渡ることが出来る。


 そのまま宮殿の外に出る。外は晴れている。暗闇の雲が消え、青空が出ている。


 そこで待っていたのは何処か呆れたような様子のフードのサザと赤竜。


 そして、ヨクシュとリュウシュ、それにメロウたちだった。


 月日は経ってしまっているが、そこには見覚えのある顔も……。


 皆が並んでいる。


『これは……?』

 皆を見る。


 ヨクシュ、リュウシュ、メロウ。


 その中から見覚えのないヨクシュが一歩、こちらに進む。随分と若い。

「神を倒す準備が出来たとの報を受け、魔王様の力になるため、当初の予定通り皆を集めました。ここに居るものたちは、皆、神の恩恵を受けていないか、捨てたものたちです」

 魔王?


 彼らは僕を魔王だと思っている?


 これは魔王が準備していたこと?


 だから、集まった?


 ああ、そうか。魔王の残滓は、今、僕の中にある。


 ヨクシュも、リュウシュも、メロウも、マナで人を見ている。


 だから、僕を魔王だと思っているのか。


 ああ、今更だ。


 今更になって僕の元に集うのか。なんて都合の良い考えで動くのだろう。


 ……。


 いや、駄目だ。


 セツとの約束もある。僕だと分かって味方してくれたリュウシュも居る。メロウだって……。


 そうだ、彼らは知らなかったんだ。


 だから、駄目だ。


「ここから先は僕の戦いです」

「自分たちの戦いでもあります。私たちの力が必要ないと言われるのならば、自分たちは自分たちで戦うだけです」


 ……。


 そうか、これは人の戦い。


 人と神の戦い。


 彼らは彼らの意思でここにいる。戦うつもりだ。


 ここまで来れば、僕も彼らも神と戦うしかない。


 ……。


 ならば戦おう!


「分かりました。では、一緒に戦いましょう」

 僕は僕たちで戦う。


 彼らは彼らで戦う。


 それだけだ。

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