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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
空の生命
354/365

349 女神インフィーディア

『ちょ……』

 何かを言いかけた真っ赤な猫の口を少しだけ形を取り戻した左手で塞ぐ。


 静かに。


 真っ赤な猫がこちらを見る。


 その口に指を当て、静かにするように伝える。


 真っ赤な猫がゆっくりと頷く。


 改めて、無の女神インフィーディアと青髪の女ゲーディアを見る。二人は向かい合い、二人だけの世界を作っている。

 こいつらが僕たちのことを無視するというなら、それを利用するだけだ。


 気付かれないように、倒れ気を失っているレームと銀のイフリーダを引き寄せる。


 二人とも意識がない。マナが静かに――静まりかえっている。


 たった一撃でやられてしまっている。善戦していたかのように見えたのに、無の女神が本気を出せば一撃だ。


 ……。


 あの無の女神は、それだけの底力を持っていたのか――いや、あの男がやられたことによる怒りによって溜めていたマナを後先考えずに放出したのか? そういった可能性も考えられる。


 無の女神を注視する。よくよく見れば、無の女神のマナが大きく減っている。どうやら、僕の考えは正しかったようだ。


 少しだけほっとする。そこまでの化け物では無かった。いや、それでも充分過ぎるくらいに強敵だ。


 そして、青髪の女ゲーディアだ。この青髪の女も無の女神と同じくらいの危険度なのだろう。

 いくら無の女神がマナを減らして弱っていると言っても、この二人を同時に相手するのは危険だ。

 敵の敵だから味方だ、なんてことはない。両方とも敵だ。


 協力は出来ない。


 この青髪の女が次の国に行ったこと。その時の目――僕はそれを見ている。


 協力なんて出来る訳がない。


 青髪の女が暗闇の雲を見ている。放った矢は暗闇の雲に飲まれた。マナを吸い込み、それこそ黒いマナも何も関係ない。全てのマナを喰らい、渦巻き収束している。


 何が始まる。


 何が起こる?


「せめて倒すのです」

 青髪の女が無の女神へと向き直る。そして、弓を構え、引き絞る。

「弓のような半端を扱うおぬしごときが我にかなうと!」

 無の女神が動く。


 手には何も持っていない。


 持っていた禍々しい槍は次の国の体があった辺りに転がっている。


 手に何も持たず近寄る。


 青髪の女が放つ。


 矢の変わりに青く輝くマナが飛ぶ。


 無防備にゆっくりと歩いていた無の女神へと青い矢が迫る。


 次の瞬間、無の女神が、その青い矢を掴んでいた。そのまま握りつぶし消滅させる。

「我を誰だと思っているのじゃ。我こそが無。我の前では何も無いのじゃ」

「弱っている今なら何とかなるはずなのです」

 青髪の女が次々と青い矢を放つ。


「無駄なのじゃ。我の前では全て無に消えるのじゃ」

 あらゆる方向から包み込むように飛んでくる青い矢が全て消える。まるで最初から何も無かったかのように消える。


「マナの無駄遣いなのじゃ。マナを消費し飛ばさなければ何も出来ぬ弓なぞ、半端な武器でしかないのじゃ」

 そのまま青髪の女へと歩いて行く。


「何なのです!」

 青髪の女が叫ぶ。


「我が――我だけで同胞全てを相手にしていたことを忘れて貰っては困るのじゃ」

 無の女神が青髪の女の目の前まで歩く。


 青髪の女が気圧されたように後退る。

「あり得ないのです!」

「そこが使いっ走りの限界なのじゃ」

 無の女神が、その手をゆらりと持ち上げる。


 空にある暗闇の雲は収束し、四角い黒の塊へと姿を変えようとしている。


 何が起こる?


 何が起こっている?


 無の女神の手が青髪の女の顔、その目の前まで持ち上がる。

「消えるのじゃ」

 無の女神の手が青髪の女の顔に触れる。


「くっ、だが、無駄なのです」


 その時だった。


 空に浮かんでいた四角い黒の塊から何か光の線が放たれた。


 光の線が飛ぶ。


 何処か北の方へと飛んでいる。


 何処へ?


 ……。


 あの場所は?


 それは迷宮があった場所だ。


 迷宮のあった場所へと光の線が飛び、そこへ突き刺さる。


 大きな爆発が起こる。


 大地が震える。


 この宮殿が崩れそうなほどの勢いで揺れている。


 な、何が?


「無駄ではないのじゃ。おぬしたちはこれで終わりなのじゃ」

 無の女神が笑う。


 その表情は銀のイフリーダを思わせる。よく……似ている。


「な、な、まさか、まさか開かれたのです」

「これでおぬしたちも終わりなのじゃ」

 次の瞬間には青髪の女の存在が消えていた。


 無の女神によって一瞬にして消滅させられていた。


 強い。


 確かに強い。


 その無の女神がこちらを見る。


 改めてこちらの存在を思い出したかのような顔だ。

「ここから先は神の戦いなのじゃ。人はそこで見ているのじゃ」

 そして、無の女神の表情が変わる。


 全ての興味を失ったかのような、それでいて怒りに震えているかのような、そんな表情だ。


「お前は……」

 無の女神へと呼びかける。


 だが、無の女神はこちらを無視して動く。この階層の縁へと歩いて行く。そこには何も無い。


 無の女神が、そのまま飛び降りる。


 この宮殿から飛び降りる。


 飛び降りて何処かに向かった?


 ……。


 あの光が消えたのは迷宮だ。


 無の女神が向かったのは迷宮だろう。


 そう、迷宮だ。


 神の眠る場所。


 ……迷宮。


 結局、そうなるのか。

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