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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
空の生命
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347 未来も見えないままの

「な、何をしたのじゃあぁぁぁっ!」

 一瞬にして爆発が起こる。


 レームと銀のイフリーダが吹き飛ばされ、転がる。


 そして、無の女神は手に持った禍々しい槍を投げ放つ。


 気付いた時には次の国の体に大穴が開き、そのまま体が吹き飛び、転がっていた。


 目の前が真っ白になる。


 思考が遅れてやってくる。


 何が起こった?


 何が?


 鎧が砕け散り、骨が見えているレーム、右肩から上が消し飛んでいる銀のイフリーダ。そして、大穴を開けて転がっている次の国。


 何が起こった?


 僕たちの目の前にいた魔王は体に無数の穴を開け、口から血をこぼしながら、音が出る機械の方へと動いている。動いているのか、倒れ込もうとしているのか分からないような状況だ。

 もう助からないだろう。


 僕だった体が命を無くそうとしている。


 マナが消える。


 無だ。


 何が起こった?


 魔王を倒すことは――そう、僕は魔王を倒すためにここまでやって来た。自分だけの獲物だというつもりはない。そこでボロボロになって転がっているレームにだって、銀のイフリーダにだって、そして次の国にだって因縁はあったはずだ。


 因縁もないのにここまで付き合ってくれているのは真っ赤な猫くらいだ。


 そう、だ。


 僕だけの因縁じゃない。


 皆の因縁だ。


 だけど、これは――何だ?


 次の国が弓と矢で攻撃した?


 どうやって魔王の黒いマナを突破した?


 どうやって?


 そして、なんで、こんな……。


 魔王がよろよろと動く。まだ息がある。

「ま……さ、か、こんな、こんな……」

 魔王が口から血を吐き出しながら、体から血を流しながら、音を流す機械に縋るように倒れかかる。


「だが……、最後の、最後の……っ!」

 魔王が音の流れる機械に手をのせる。


 音が流れる。


 ……。


 だが、それだけだ。


 何も起こらない。


 魔王の顔が苦痛に歪む。それは死に至る痛みではない。


 魔王は何かをやろうとした?


 しかし、何も起こらなかった。


 何故?


 魔王の命が尽きようとしている。マナの火が消えようとしている。


 こんなあっさりと終わる?


 終わる?


 僕は何だったんだ?


 僕は何でここに居る?


「どういうことなのじゃ!」

 無の女神が叫ぶ。周囲に怒気を振りまきながら叫んでいる。


 その顔に宿っているのは怒りと絶望。周囲が見えなくなっている。


 その証拠に僕や真っ赤な猫の存在を無視している。いや、それは僕も同じか。


 僕も頭が回らなくなっている。思考が追いつかない。


 ぐちゃぐちゃだ。


 その時だった。


 禍々しい槍に貫かれ、体に大穴を開けた次の国が動く。上半身だけを持ち上げ、口を開く。

「それは発動しないのです。繋がらないように消去したのです」

 次の国が笑う。


 笑っている。


 見知らぬ顔だ。まるで次の国じゃないかのような顔だ。


「まさか!」

 無の女神が叫び、目を閉じる。

「何故じゃ! マナラインが消えているのじゃ! これではマナプールからの吸い上げが出来ぬ!」

「くくく、くひひひひひ」

 次の国が狂ったように笑う。


 いつ死んでもおかしくないような大穴を開けて狂ったように笑っている。笑う。


 笑う。笑う。笑う。


 そして――笑い声が止まる。


 次の国は動かなくなる。


 そう動かなくなった。


 動かなくなった。


 何なんだ。


 これは何なんだ。


 次の国?


 マナプール? 吸い上げ? マナライン?


 何なんだ!


 ……。


 マナ……プール?


 もしかして、あの黒いマナの池のことだろうか?


 マナ……ライン?


 それに配管?


 でも、二階には配管はなかった。無かった。


 そう無かった。


 僕が黒いマナの池に落ちた時、次の国は何処に居た? 僕はどれくらいの間、黒いマナの池に落ちていた? 僕が池から出た時に駆け寄ってきたのはレームと真っ赤な猫のローラだけだ。


 次の国は何処に居た?


 何処に居た?


 どういうことだ?


 そもそも次の国は何者だ?


 僕の記憶にある。


 あの偉そうなリュウシュだ。間違いないはずだ。


 だけど、誰だ?


 何だ、これ?


 何が起こっている?


「い、インフィ……ーディア」

 魔王が動く。


 まだ死んでいない。


 だが、もういつ死んでもおかしくない。


 ああ、頭が混乱する。


 おかしくなりそうだ。


 ここまで来るのに!


 僕がどれだけ苦労して、ここまで!


 それが、こんな、こんな、あっさりとっ!


「俺の……体……で、つな……げ……」

 音の出る機械によりかかった魔王が手を伸ばす。空へと、天へと手を伸ばす。


 伸ばした手がゆっくりと沈んでいく。力なく落ちていく。


 その手を無の女神が握る。

「このような! このような!」

 無の女神が叫んでいる。


 魔王が動かなくなる。


 終わる。


 終わった。


 マナの火が消える。


 魔王が……死んだ。


 終わった。


「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 無の女神が叫ぶ。


 無の女神と魔王の関係は良く分からない。深くは分からない。


 協力者。


 反逆者。


 だが、それもここで終わった。


 魔王がやろうとしていたことも分からない。分からないまま終わってしまった。


 もう何も分からない。


 これからどうすれば良いのかも分からない。


 分からない。


 分からない。


 分からない。


 そして、次の国の体が跳ねた。

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