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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
空の生命
346/365

341 魔王の宮殿、その中に

 赤竜の背から降りようとしたところで、その赤竜が動く。


 飛ぶ。


 降り立った宮殿の前から、赤竜が、もう一度、飛び上がる。そのまま赤竜は宮殿の周囲を旋回する。


 せっかく宮殿の前にあった透明な壁を越えたというのに何のつもりだろう。

「どうしたんです?」

 赤竜の首筋に跨がっている次の国に問いかける。

「他に入り口が無いか探すのです。敵の用意した入り口から乗り込む必要は無いのです」


 ……。


 次の国はしっかりと物事を考えていたようだ。


 赤竜が入り口を求め、高く伸びた宮殿の周囲を旋回しながら飛び上がっていく。


 だが、見えるのは壁だけだ。窓が無い。


 ――そう、入り口が無い。


 光を取り込む必要が無い建物? 確かにこの周囲は暗闇の雲に覆われている。取り込む陽は存在しない。


 だけど、だ。


 魔王によって手を加えられていると言っても、元々はここにあった宮殿を使っているはずだ。窓が無いというのはどういうことだろうか?


 わざわざ塞いだ?


 追いかけてきていたヨクシュたちは、すでに引き返している。彼らは透明な壁を越えることが出来ないのだろう。


 ゆっくりと入り口を探すことが出来る。


 王宮に繋がった天を貫く剣のような建物の周りを登る。上に行けば行くほど細く鋭くなっていく。

 その先端、そこから暗闇の雲が生まれているようだ。


 暗闇の雲。


 マナの力を感じる。


 これは何なのだろうか?


 何故、何のために、魔王はこれを生み出している?


 地上から陽の光を奪うため?


 分からない。


 だけど、とても危険なもののような気がする。


 この暗闇の雲を生み出している建物の先端部分を破壊すべきだろうか?


 ……。


 いや、下手なことはしない方が良いだろう。とても嫌な予感がする。


 それに、だ。


 そもそも、だ。


 この暗闇の雲を生み出している部分を壊してしまえば、そこに貯められていたマナが暴走してしまう。どのような被害が出るか予想できない。場合によってはマナの暴走に巻き込まれて全滅なんて可能性も考えられる。


 ……。


 同じ理由で建物の壁を壊すことが出来ない。窓が無くても壁を壊して侵入を、という手段をとることが出来ない。


 仕方ない。


「他に道はないようです。入り口から進みましょう」

「分かったのです」

 赤竜が動く。


 結局、王宮の入り口から攻め込むことになってしまった。だけど、無駄足では無い。外から建物の構造を見ることが出来た。それにマナの流れを把握できたのは大きい。


 これで魔王が待っている場所の、おおよその見当はついた。


 宮殿の入り口まで戻り、飛竜の背から降りる。


 まずは僕が、次に真っ赤な猫、レームが、そして飛竜の首に跨がっていた次の国が降りる。


 ……。


 フードのサザだけが赤竜の背から降りない。

「どうしました?」

 呼びかける。

「私が行っても足手まといだろうから、ここで待つ。それに、ここには会いたくないヤツも居るだろうからさ」

 飛竜の背から体を覗かせたフードのサザがそんなことを言っている。

「えーっと……」

 会いたくないというのは魔王のことだろうか。それともスコルのことだろうか。

「ここでこいつと待つさ。武器に何かあったら戻ってきな」

 フードのサザはここに残るようだ。


 赤竜もここに残る。赤竜の体の大きさでは宮殿の中に入ることが出来ない。


「分かりました」


「さあ、行くのです」

 次の国が先頭に立ち、弓を手に宮殿へと進む。やる気は充分だ。


『この中なら自分が案内できると思う』

 だが、レームが、そんなやる気充分の次の国を追い抜き、先に宮殿へと入る。


 この宮殿はレームが住んでいた場所だ。任せた方が良いだろう。


 レームの後を追い、自分と真っ赤な猫も宮殿に入る。


 そこには足を止め、立ち尽くしているレームの姿があった。

『どうしまし……た』

 言葉が止まる。


 呆然と立ち尽くしたレーム、その先には異様な光景が広がっていた。


 宮殿の中がくり抜かれ、そこにマナが、黒いマナが、まるで池の水のようにたまっている。

 そして、その黒いマナの池の、遠く中央に高く上へと伸びた螺旋階段が存在していた。


 異様な光景だ。


 そこにはかつての宮殿の面影はない。

『レーム?』

『すまない、自分は役に立たないようだ』

 レームの言葉は重い。その言葉に、衝撃が、抑えきれない怒りが含まれているのが分かる。

 レームの知っている王宮はすでに無くなっていた。ここには、もう、レームの思い出が存在しない。


 ……。


 感傷に浸っている場合じゃ無い。


『道を探しましょう』

 螺旋階段はこの階の天井よりも上へと続いている。

 中央。それは、この宮殿の上へ、魔王が待っている場所へと続く階段だ。だが、その周囲には黒いマナの池が出来ている。


 僕と真っ赤な猫なら空を飛んで、この黒いマナの池を渡ることが出来る。しかし、レームと次の国はそれが出来ない。


 スコルはこの王宮から現れた。


 何処かに道はあるはずだ。それを探そう。


 にしても……これだけのマナを貯めて何をするつもりなのだろうか?


 何のために?


 これが、あの暗闇の雲を生み出しているマナ?


 黒いマナに変換されているからか、吸収――喰らうことは出来そうにない。これだけの量のマナを力に出来れば、この後の戦いはかなり楽になるはずだ――が、仕方ない。


 道を探そう。


 この宮殿は広い。


 何処かに道はあるはずだ。

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