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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
空の生命
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338 戦いの結末その意味

「良かった、本当に良かった」

 青髪の少女が笑う。


 赤髪の少女が腰に手を当て胸を張り、笑う。


 そして、世界が戻る。


 そこに居るのは青髪の少女ではなく、ゆりかごのような椅子に揺られる青髪の老婆だ。眠るように目を閉じていた老婆が動く。


 ゆっくりと立ち上がり、目を開ける。


 そのままよろよろと真っ赤な猫まで歩き、その顔に縋る。


「姉……さま……」

 真っ赤な猫は頷き笑っている。


 青髪の老婆が真っ赤な猫にすがりついたまま、ゆっくりとこちらへ振り向く。

「私の……負けです」


 ……。


 どうやら勝ったようだ。


 だが、勝ち負けとは何なのだろうか。


 そもそも何故、戦っていたのだろうか。


「教えてください。あの黒いマナは何なのか。創る力とは何でしょう? それと魔王を呼び寄せるのに力を貸してください」


 青髪の老婆が沈黙する。


 ……。


 ……。


 青髪の老婆はこちらを見ている。


 ……。


 沈黙。


 静寂。


 ……。


 青髪の老婆はこちらを見ている。


 ……。


 ……。


「あなたはとても欲張りなのですね」

 青髪の老婆は呆れたような顔でこちらを見ている――いや、見ている気がする。


「それで、どうでしょう?」


 青髪の老婆が頷く。

「お答えできる範囲でなら」


 真っ赤な猫が得意気な様子で顔だけをこちらに向けている。なんと憎らしい顔だ。


 お答えできる範囲と言われても実際に聞きたいことは少ない。


 優先的に確認が必要なこととなると……。

「あなたは魔王の住む王宮にある透明な壁を知っていますか?」

 青髪の老婆が頷く。

「言われていることが結界のことなら、分かります」

「それを教えてください。どうやって通り抜けるかを」

 そうだ。


 それが一番重要だ。


 それが分かれば、魔王をおびき寄せるために協力を仰ぐ必要がなくなる。


「あの結界は、創造の力によって創られた何者をも阻む壁です。そういったものとして創られたものです」

 あの壁は黒いマナで創られたもの?


 阻むという結果を生み出す壁、か。だから、壊すことが出来なかったのだろう。


「抜けることは、壊すことは?」

 青髪の老婆は首を横に振る。

「そうであると創られたものをどうにかすることは出来ません。出来るとすれば、もっと強い創る力で作り替える、上書きすることだけだと思います」

 上書き?


「もしくは、あなたが使った破壊の力を使えば良いのでは?」

 破壊の力?


 銀のイフリーダの力を借りた白銀のマナのことだろうか。


 宮殿を守っていた透明な壁。あれが黒いマナで創られたものだと分かった。もしかすると、これで壊すことは出来るのかもしれない。


 出来ることとしては……。


 白銀のマナで壊す。

 黒のマナを扱えるようになって他の結果を上書きして壁を無効化する、か。


 この二つだろうか。


 透明な壁に穴を開けてスコルが出入りしていたので、何か出入りする手段があると思っていたが、もしかすると、スコルは透明な壁を黒いマナで上書きして出入りしていたのかもしれない。

 そう考えた方が自然だ。


 今の自分なら壊すことが出来る。


 壊すための力を手に入れていた。


 ……。


 これで何とかなるかもしれない。


 そして、だ。


「あの力はどうやって手に入れたんですか?」

「禁域で手に入れた聖者の遺産です。その中に創造の力の秘密が眠っていました」

 聖者の遺産?


「それは……」

「迷宮の封印を解く鍵です。首飾り自体にその力があると思われていました。しかし、本当に大事だったのは、その中に眠っていた力の使い方でした。この創造の力こそが迷宮を開く本当の鍵です」

 あの首飾り、か。


 それに黒いマナの使い方が眠っていた?


 それが重要だった?


 もしかして迷宮の進めない場所――開かない門、あれを開く鍵も黒いマナなのだろうか? 迷宮の進めない場所を進むために必要な力が黒いマナ?


 となると、その力を持っていた聖者とは何者なのだろうか。


 いや、聖者が何者かは知っている。記憶に、アイロの記憶にある。


 だけど、だけど、だ。


 その記憶の中の聖者は、そのような特別な力は持っていなかったはずだ。


 何かがおかしい。


 何処で黒いマナを手に入れたのか? いや、それよりも、何故、迷宮に関わっている?


 何があったのだろう。


「その創造の力の使い方は?」

「それを教えることは出来ません」

 青髪の老婆が首を横に振る。


 そこにある意思は硬い。


 力を貸してくれるのはここまでだ、ということだろう。


『どうして!』

 真っ赤な猫が叫ぶ。

『ラーラにも譲れないものがあるということでしょう』

『もう! 何であなたがラーラのことを分かったように言うの!』

 真っ赤な猫が尻尾を地面に叩きつけている。


『ラーラさんは君の妹である前に、この国の大公だということだろうな』

『でも!』

 真っ赤な猫は納得できないようだ。

『ラーラさんは最初に言っただろう。遅すぎたと。そういうことだったんだろうな』

 レームが腕を組み頷いている。


 遅かった、か。


 確かに僕たちは遅かったのかもしれない。


 でも、だ。


『行きましょう。必要なものは手に入りました』

 ここに来た意味はあった。


 黒いマナ。


 僕はもう手に入れている。


 僕はもう、魔王に挑む手段を手に入れている。

『ローラはここに残りますか?』

 真っ赤な猫がこちらを見る。

『何言っているの! 私も行くに決まってるじゃない!』

『でも、あなたは魔王との因縁なんてないですよね』

『それでも! ここで降りる訳ないじゃない! ラーラには全てが終わったら戻るって伝えて!』

 真っ赤な猫はやる気だ。

『分かりました』


 ラーラに伝えよう。


 ローラの言葉を伝えよう。

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