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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
空の生命
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337 青髪の少女との記憶

『この人がラーラ本人なんですよね』

『私がラーラを見間違えるはずがない!』

 真っ赤な猫が叫ぶ。


 二回も偽物に騙された人の言葉とは思えない。


 でも、老婆だ。


 青い髪の老婆だ。


 青い髪だけはそのままなのに、顔や手などの皮膚だけが弱々しくまるで何かに栄養を吸い取られたかのような異質な姿だ。

 いや、そう見えているだけなのだろうか?


 実際は違う?


 マナが衰えてそう見えている? いや、でも真っ赤な猫が姿を見て驚いているということは実際もそうなのだろうか。

 分からない。


『ローラには彼女がどう見えていますか?』

『年老いた姿のラーラが見える……』

 同じ、か。


「あなたがラーラですか」

 本人に聞いてみる。


 ゆらゆらと椅子に揺られていた青髪の老婆が頷く。

「ええ。私がラーラです」


 ……間違いないのだろう。


「何故、そのような姿に?」

「あなたは私を知っているのですか? いえ、そうですね。あなたは姉のことを知っていました。私のことも何処かで知ったのでしょう」


 ……。


 僕たちのことはあまり信用していないようだ。それは当然だろう。


 でも、だ。


「その姿になったのは、あの力が原因ですか?」

 考えられるのは黒いマナの代償――だが、ラーラは首を横に振る。


「違いますよ。もっと……いえ、それは良いでしょう」

「あの黒いマナで造られた偽物は……」

 僕の言葉を待たず、ラーラは再び首を横に振る。

「この姿では示しがつかない、だから、仮初めの命を創っただけです」

 どういうことだ?


 分からないことばかりだ。


「会話をする必要なんてないのです。敵は倒すだけなのです」

 次の国は単純だ。


 だが、時には、その単純さが正解を導くことだってあるのかもしれない。


 だけど、今回は違う。


 戦っては駄目だ。


 どんな姿になっても、どんな立場になっても、ラーラは真っ赤な猫ローラの妹なのだから。


「私と戦うのですか」

 首を横に振る。

「戦いません」

 散々、黒いマナの偽物と戦っておきながら言えることではないかもしれない。


 でも、だ。


 戦っては駄目だ。


「あなたの姉のローラは生きています」

 青髪の老婆がゆっくりと目を閉じる。


 ぎぃぎぃとゆりかごのような椅子が揺れている。


 ……。


 椅子が揺れている音だけが聞こえる。


 ……。


 そして、青髪の老婆が目を閉じた時と同じように、ゆっくりと、今度は目を開ける。

「私はこの国の大公なのです。大公なのですよ」

 青髪の老婆はこちらを見ている。その瞳は重く、力強い。だが、何処か脆さも感じさせる。


 真っ赤な猫を見る。


 真っ赤な猫が頷く。


 僕も頷きを返す。


「彼女がローラです」

 真っ赤な猫を、ローラを、ラーラに紹介する。


「何を言っているのですか。そのような魔獣が……」

 青髪の老婆は信じない。


 信じて貰えない。


 だけど、大丈夫だ。


 手段は――信じて貰うための方法はすでに分かっている。


 同じだ。


 同じことをやれば良い。


『イフリーダ』

 銀のイフリーダに頼む。

『ふむ。都合の良い時ばかり頼まれている気がするのじゃ』

『それだけ頼りにしているってことだよ』

 今のラーラに黒いマナは見えない。だけど、このラーラが黒いマナの使い手であることは間違いない。油断は出来ない。


 白銀に輝く銀の手で青髪の老婆に触れる。そして、もう片方の手で真っ赤な猫に触れる。


 繋ぐ。


 マナの道を創り、ローラとラーラを繋ぐ。


 同じだ。


 僕というマナを、マナ生命体である、自分の体を触媒として、繋ぐ。


『ローラ、言葉を!』

 真っ赤な猫に呼びかける。


 真っ赤な猫が、ローラが頷く。


『ラーラ、ラーラ、ラーラ、私の妹!』

 赤髪の少女が呼びかける。


 その先には膝を抱え、うつむいて座っている青髪の少女の姿があった。


『姉さまが死んでしまった。姉さまのためだったのに。私は姉さまのために、姉さまが生きやすいようにしたかっただけなのに』

 青髪の少女は膝を抱え呟いている。


 呪詛の言葉。


『持ち帰ったのに! 持ち帰ったのに! 裏切られた。約束は守られなかった。せめて、姉さまの尊厳だけでも――それすらかなわなかった』


 呪詛の言葉は続く。


『気付いていない。外側だけで満足している。本当に必要だったことを理解していない。この国と同じ……』


 呪詛、それは何に対しての呪詛だったのだろうか。


『力を手に入れた。いらない、要らない、いらない、要らない、いらない、もう、要らない……』


 ラーラの世界には呪詛が渦巻いている。


 ここは魂の世界。


 その人の本質――眠る場所。


 ここは――歪んでいる。


 その呪詛が渦巻く世界に赤髪の少女が立っている。


 笑うように立っている。


 そして、その世界の中心で膝を抱えている青髪の少女の元へ――歩く。


「ラーラ、あなたの姉はここに居る!」

 赤髪の少女が青髪の少女の頭に優しく手を乗せる。


「姉さま……?」

 青髪の少女がゆっくりと顔を上げる。

「あなたの姉は弱くない! なんたって天才なんだから!」

 赤髪の少女は笑っている。


 その笑顔につられるように青髪の少女が笑う。


 繋がった。


 届いた。


 届いたんだ。

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