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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
空の生命
334/365

329 赤い竜王次の国王

 真っ赤な竜が空を飛んでいる。


 かなり大きい。その顔――頭の部分だけでも人と同じくらいの大きさがある。そんな竜が長い首を伸ばし、翼を広げ、空を飛んでいる。


 赤い。


 真っ赤な竜だ。


 飛竜では無い。


 竜、だ。


 赤い――だが、それは本当に赤いのかどうか分からない。僕が見えているのは、その竜が放つ真っ赤なマナの色だけだからだ。

 赤い魂の色を持った竜。


 その姿は何処かで見た覚えがある。何処か懐かしさすら覚える姿だ。


 力強く、破壊の象徴。


 それが空を飛んでいる。


 そしてよく見れば、その竜の首の辺りに人の姿が見えた。


 ――ヒトシュではない、リュウシュだ。蜥蜴のような顔、鱗の生えた腕、間違いなくリュウシュだ。弓を持ったリュウシュが赤竜の首に跨がっている。


 ラーラはこの公国で暴れている竜が居ると言っていた。この赤い竜が、その暴れている竜で間違いないだろう。

 でも、何故、その竜と一緒にリュウシュが?


 リュウシュは魔王の配下になっているはずだ。


 魔王が公国で竜を暴れさせている?


 何のために?


 同盟国じゃなかったのか?


『む。こちらに来るのじゃ』

 赤竜が空中で旋回し、方向を変える。銀のイフリーダの言葉通り、明らかにこちらへと向かってきている。


 周囲に僕たち以外の人の姿は――無い。


 竜が暴れているからか、何処かに避難しているようだ。


 ここには穴から出てきた僕たちしかいない。


 この赤竜を迎え撃つべきかどうか。


 赤竜に乗っているのはリュウシュ。そうリュウシュだ。それが判断を鈍らせる。


 赤竜が迫る。


 そして赤竜が僕たちの前に降り立った。


 その姿は大きい。赤竜は這うような姿勢なのに、それだけで自分たちの三倍近い高さがある。

 その赤竜の首筋に座っていたリュウシュがこちらを見る――そして口を開いた。


「我は――いや、言葉の分からぬものに名乗っても無駄だったのです」

 随分と偉そうなリュウシュだ。

「言葉なら分かるぜ」

 そして、そんなリュウシュに答えたのはフードのサザだった。

「お、お前は魔王の鍛冶……どうして、ここに居るのです!」

 偉そうなリュウシュはサザに気付き、驚きの声を上げている。


「サザ、し、知り合いですか?」

 フードのサザは首を横に振る。

「直接の知り合いじゃないさ。持っている弓に見覚えがある。確か、『次の国』って名前の戦士の王だったはずだ」

 次の国? また随分と変わった名前のリュウシュのようだ。


 にしても、戦士の王、か。


 ……いや、もしかして。

「次の国さん、あなたが四魔将の一人、で、ですか?」

 話しかけたリュウシュの反応は劇的だった。

「あれが付けた名前で呼ばれるのは気にくわないのです」

 『次の国』と呼ばれたことに関しては、言葉ほど嫌そうにしていない。むしろ、何処か嬉しそうだ。

「我が魔王の仲間扱いされるなんて許せないのです!」

 だが、四魔将の一人と呼ばれたこと、魔王の仲間扱いしたこと、こちらは本気で怒っているようだった。


 え?


 四魔将じゃない? 魔王の仲間じゃない?


「えーっと、魔王の仲間じゃない?」

「当然なのです」

 次の国の反応は早い。


 そしてさらに言葉を続ける。

「我は最初から、あれを怪しいと思っていたのです。一時でもあれを認めて信じてしまいそうになっていたのが恥ずかしいのです」


 ……。


 ……まさか?


 次の国が持っている弓。形は随分と変わっているけれど、何処か見覚えがある。


「そ、その赤竜は竜の王ファア・アズナバールの生まれ変わり?」

 次の国は表情の見分けがつきにくいリュウシュなのに、それでも分かり易いほどの――分かり易すぎる驚きの顔を作る。

「ファア・アズナバール様のことを知っているとは驚きなのです」

 そして首を横に振る。

「しかし、違うのです」


 ……。


 違う、か。あの時、僕は、僕たちは、銀のイフリーダは、邪なる竜の王を倒し、その強大なマナの結晶を食らった。マナの残滓が残っていないものが生まれ変われるはずが無い。甦ったとしても中身の無い人形にしかならないはずだ。


 では、この赤竜は?


「この子はファア・アズナバール様の御子なのです」

 次の国が赤竜の首筋を撫でると、赤竜は嬉しそうにグァグァと鳴いていた。


 御子って……子ども?


 あの竜の王に子どもが居たのか。


「ファア・アズナバール様のブレスを浴びたことがあったのが良かったのか、御子は我に良く懐いてくれているのです。だから、ともに魔王を倒すと誓ったのです」


 ……。


 あー、はい。


 僕は、このリュウシュに会ったことがある。


 僕は知っている。僕は、このリュウシュを知っている。


 この今でも何処か偉そうにしているリュウシュ――次の国は、あの時のソラのことを、僕のことを、一時は認めてくれていると言っていた。それは嬉しいことだ。

 でも、今は魔王を倒すために動いている。


 それは、とても複雑な気持ちになる。


「お前たち、言葉が分かるのなら早いのです。我とともに魔王を倒すのです」

 一緒に魔王と戦ってくれる。


 それは心強い。


 だが、とても複雑な気分だ。


 僕のことを語るべきだろうか。伝えるべきだろうか。


 フードのサザには、その方が良いからと自分のことを教えていない。もちろん、何処か面白がって伝えなかったというのもある。だけど、一番は……信じて貰えなかった時が怖かったのだ。

 だけど、この何処か偉そうにしている次の国には……。


「ぼ、僕は、僕が……」

 と、そこで僕の肩が掴まれる。見れば、レームが僕の肩を掴み、首を横に振っている。


『レーム……』

『ソラと因縁がある人なのだろう?』

 因縁。


 次の国とは因縁と言えるほどの因縁がある訳じゃ無い。だけど、この赤竜とは……。


 この赤竜の親、ファア・アズナバールを倒したのは僕だ。魔王じゃない。分かっていて利用するのは――自分の心が許せない。


 目的のためなら何でもして良いと思っているのなら、それは魔王と変わらない。


 僕は魔王と同じにはなりたくない。


 だから、レームの手を振り払う。


「ぼ、僕がソラです」

 伝える。


 フードのサザは首を傾げながら、次の国はよく分からないという顔でこちらを見ている。


「あの魔王はソラではありません。僕が、僕がソラです」

 二人の表情は変わらない。

「僕は迷宮に挑み、そこで魔王に敗れ、体を奪われました。僕がソラです」

「お、おい。ちょっと待て、ちょっと待てよ。亡霊、お前は何を言って……」

 フードのサザは驚きの表情でこちらを見ている。


「その赤竜の親、邪なる竜の王ファア・アズナバールを倒したのは僕です」

「突然、何を言っているのです」

 次の国はよく分からないという表情のまま変わらない。


「学ぶ赤さんとともにリュウシュの地に渡り、あなたの弓を使って飛竜を倒して戦士の王になり、湿地帯を抜けて洞窟に眠る竜の王を倒しました。そして、氷の城で亡霊と出会い、その城を開放しました」

 すらすらと言葉が出てくる。


 言葉が――途切れることなく、喋ることが出来る。まるで胸のつかえが下りたとでも言うかのように言葉が喋れる。喋ることが出来る。


「僕がソラです」


 ……。


「知ってた!」

 サザがそのフードを深くかぶり、横を向く。どう見ても知っていなかった反応だ。


「分かったのです。それでともに魔王を倒すのか、どうするのです?」

 リュウシュの次の国は分かっていない様子でこちらに話しかけてくる。


「えーっと、信じて貰えないかもしれないけれど、僕が……」

「分かったのです。納得がいったのです。だから、魔王を倒すのです」

 リュウシュの次の国は読み取れない表情でこちらを見ている。


「えーっと、ですから、僕が、その子の仇になりませんか?」

 赤竜を指差す。だが、次の国は首を傾げるだけだ。


「それはもう良いのです」


 赤竜もどうも良いとばかりに楽しそうな声でグァグァと鳴いていた。


 ……。


 何だろう、この反応。


 信じて貰えなかった訳じゃないようだけれど、でも、これは……。


 批難して欲しかった訳じゃないけれど、でも、こうもあっさりだと、何というか……。


「えーっと」

「魔王を倒すのです。それで全て終わるのです」

 それで全て終わるとは思えないが、協力してくれるのなら、協力して貰おう。


 うん、そうしよう。


「わ、分かりました。一緒に頑張りましょう」

「我とともに頑張るのです」


 ……。


 えーっと、だ。


 どうにも釈然としない。でも、次だ。聞くべきことがある。


「そ、それで、次の国さんは何のために、この公国に?」

 僕たちの勧誘に来た訳じゃないはずだ。


 次の国は僕たちが来るよりも先に、この国に来ていたのだから。

「それは――なのです」

 リュウシュの次の国が語る。

2019年1月29日修正

『次の国』に関して分かり難かった部分を補足。


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