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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
空の生命
333/365

328 閉じ込め封じ込め

 まずは黒い壁の近くに移動だ。

「い、行きます」

「お、おい。行くって何処にだよ」

 先ほどのマナによる会話が聞こえないサザには意味が分からなかったようだ。黒いマナの壁を指差す。

「あそこへ」

「おいおいおい」

 フードのサザが慌てる。

「ちっ、まぁ、ついていくさ」

 それでもサザは着いて来てくれるようだ。何処か諦めたような顔で肩を竦めている。


 暴れ馬に乗ったレーム、真っ赤な猫のローラ、フードのサザ、銀の手と化したイフリーダ、皆で黒いマナの壁を目指し、木々の垣根が迷路のようになっている庭園を駆ける。

『迷いそうだな』

『その時は僕が空から確認するよ』

 僕と真っ赤な猫だけなら空を飛んで迷路を抜けることも出来る。だが、レームとサザはそれが出来ない。だから、こうやって地道に迷路を抜けることになる。

 どうしても進めないとなったら垣根になっている木を切って突っ切ることも出来る。


 ……ここは気楽に進める場所だ。


 少し迷い、少しだけ時間をかけ、黒いマナの壁に到着する。そう、少しだけ、迷路の途中で休憩を挟むくらいには迷ってしまった。だが、それでも黒いマナの壁は健在だ。消える様子は無い。

 ラーラは僕たちをここに閉じ込めるつもりだった。一日二日で消えるとは思えない。数日は閉じられたままのはずだ。


 ……。


 あれ?


 でも、閉じ込めてどうするのだろう?


 僕たちを足止めする必要があった?


 何故?


 それに、だ。


 外の魔獣の死骸の山。この黒いマナの壁を作るために狩ったものだろう。沢山の数を狩ることが出来たのは魔獣が増えているから、だ。


 増えている?


 ……魔王と繋がっているはずの公国で、何故?


 獣国でも魔獣は増えていた。魔獣が増えている原因は魔王ではない?


 分からないことが多すぎる。


 ラーラに確認することが増えてしまった。


「はぁ、おい、それで、ここでどうするんだよ」

 黒いマナの壁を前にして、フードのサザは、諦めに近い大きなため息を吐き出していた。

「この黒いマナの壁の下を……穴を掘って抜けます」

 それを聞いたフードのサザはもう一度、ため息を吐き出す。

「はぁ? 掘る? 道具もないのに?」


 ……。


 言われてみればその通りだ。何とかなるだろうの気持ちでここまで来たが、確かに穴を掘る道具なんて持っていない。


『ああ。ソラ、どうする? 確かに、これでは穴を掘るだけでも大変だ。この黒い壁を抜けるのに数日かかるかもしれないぞ』

 レームが黒いマナの壁を見ている。


 確かに、だ。


 穴を掘っている間に、黒いマナの壁の方が、その状態を維持出来なくなって消える――なんてことも起こりそうだ。


 フードのサザが肩を竦め、フードの上から頭を掻いていた。そして、そのまま木で作られた垣根の方へと戻っていく。


 ……?


 何をするつもりなのだろう――と思ったら、フードのサザは垣根の木を、手に持った小さなハンマーで打ち砕き、折っていた。

「おい、そこの骨。あんたの剣の方が早いからさ、手頃な大きさに切ってくれ」


 ……。


 レームを見る。


 骨と呼ばれたレームはキョロキョロと周囲を見回し、そして、骨というのが自分のことだと気付き、大きくため息を吐き出す。

『骨とは酷いな』

『ふむ。じゃが、骨で間違っていないのだ』

 レームが肩を竦める。


「おい、骨。言葉は分かるんだろう? 早くしてくれ」

 レームが大きなため息を吐き出し――もちろん実際には骨がカタカタと鳴っているだけだけれど、フードのサザの元へと向かう。


「そ、それでどうするんです?」

「それをあんたが聞くのかよ。穴を掘る道具を作るのさ。それに穴が崩れないように支える坑木も必要だろう? ちょうどここに材料があるんだからさ、使わせて貰うのさ」


 ……。


 まったく考えていなかった。確かにその通りだ。穴を掘り進むなら、その穴が崩れないように支える必要がある。


 しばらくして道具(スコップ)は完成した。


 その道具を使い、穴を掘る。


 穴を掘り、掘って、進んでいく。レームと僕、二人で穴を掘る。フードのサザは穴が崩れるのを防ぐための坑木を作っている。真っ赤な猫は未だに、心、ここにあらずという様子だ。真っ赤な猫の体の大きさでは穴を掘る邪魔にしかならないので、無駄に張り切られるより、これで――この方が逆に良かったのかもしれない。


『それで、ソラ。この黒い壁を抜けた後はどうする?』

『まずはこの公国の城を目指します。そこにラーラが待っているでしょうから』

 真っ赤な猫のローラのため、という訳ではないが、そこに向かう必要がある。

『あの様子では、協力は難しいだろうな』

『はい。でも、それでも向かいます』

『分かった』

 レームが頷く。


 穴を掘り続ける。


 人外の力を持つレームと僕だ。穴は順調に大きくなっていく。時々、上を向き、小さな小さなマナを見通して、黒いマナの壁が無いかを確認する。


 穴を掘り続ける。


 朝も夜も関係なく、疲労を感じない体の利点を活かして休むこと無く掘り続ける。


 ただ掘る。


 そして、ついに抜ける。


『この上には黒いマナの壁がありません』

『分かった』


 少し登り坂になるような形で穴を掘り進め、地上への道を作る。地上、そこには何も無い――邪魔するような建物が無いのは確認済みだ。


 カツンという、何か硬いものに当たった音とともに天井が抜ける。穴の中に眩しいほどの太陽の陽射しが注ぎ込まれる。

 地上だ。


 やっと地上だ。


 穴を掘るだけで二日もかかってしまった。


 だけど、これで黒いマナの壁を抜けることが出来た。


 地上だ。


 皆を呼び、地上に出る。


 ……。


 そして、そこで待っていたのは――空を飛ぶ、真っ赤な竜の姿だった。


『竜だ!』


 竜が、何故?

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