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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
空の生命
330/365

325 良い過去良い未来

 ラーラが見つけた?


 黒いマナを?


「ど、何処で、どうやって?」

 黒く変色したマナを持つ女性が首を横に振り、そして手を振る。それに合わせ、控えていた二人の騎士が深く頭を下げ、この場から去って行く。

 騎士たちには聞かせられない話なのだろう。


「そ、その、それで……」

「その前に先ほどの話の続きを」

 黒く変色したマナを持つラーラらしき女性がこちらを見ている。


『ねぇ、どうするつもりなの?』

 真っ赤な猫は不安そうな顔をしている。


 姉と妹。


 ローラとラーラ。


『情報を引き出します。協力してください』

『もう! そんなことをしなくても普通に話せば分かってくれるから!』

 真っ赤な猫のローラは妹であるラーラを信じている。信頼している。


 だけど、僕は、この黒いマナに覆われた女性を信じることが、信じ切ることが出来ない。


 だから、動く。用意する。


「あ、あなたの姉が生きているとしたら?」

 ラーラは大きく息を吐き出し首を横に振る。

「つまらないこと。私に姉などいません。時間の無駄だったようですね」

『ちょっと!』

 真っ赤な猫が驚きの声を上げている。

『うむ。もう死んでいるから居ないも同然なのじゃ』

『あー、ああ。確かにそうとも言えるな』

 銀のイフリーダの言葉に感銘を受けたのか、レームがぽんと軽く手を叩いていた。

『なんなのよ、もう!』

 真っ赤な猫はご機嫌斜めだ。


 真っ赤な猫のこともある。この女大公――ラーラとはあまり敵対したくない。


 そのために出来ることをする。

『イフリーダ、お願い』

 僕に言われ、まだ何かを言おうとしていた銀のイフリーダが口を閉じる。


 そんな僕たちのやりとりが分からないラーラは言葉を続ける。

「あなた方をここに呼び寄せた理由が分かりますか?」

 僕たちを素直にここまで通したこと。僕たちを知っていたこと。魔王から僕たちの話を聞いていたのだろう。そして、ここで待ち伏せするように頼まれたのだろう。


 でも、だ。

「せめて、魔王に協力しないように、で、出来ませんか?」


 ラーラは首を横に振る。

「何故、そのようなことを。あなたは魔王陛下がやろうとしていることを知っていますか? 知っていて言っているのですか」

 やろうとしていること? 目的?


 魔王の目的?


「人の解放です。あの方は人を軛から解放するために動かれているのです。それを助けるのは人として当然のことでしょう」


 人の解放、か。


 確かにそうだったのだろう。


 迷宮の奥に眠る神を倒すことが魔王の目的なのだろう。知っている。よく知っている。誰よりも知っている。分かっている。


 だけど、そのためなら何をしても良いのだろうか。目的を達するために、色々なことが見えなくなっていないだろうか。


 いや、そんなことはどうでも良い。


 ただ、僕は、自分のために、戦う。それだけだ。


「わ、分かりました。だからこそ、お願いです。せめて、僕たちと敵対、だけはしないように出来ませんか?」

 ここまで来ると協力して貰うのは難しいかもしれない。


「見ず知らずのあなた方と魔王陛下、どちらが信頼に足るか答えるまでもないでしょう」

 ラーラからすれば、こちらは見ず知らずの相手、か。


 と、そこでラーラが微笑んだ。

「いえ、そうですね。最近、この公国に現れ、暴れている竜の魔獣がいます。それを倒してくれるのならば考えましょう」

 魔獣退治、か。


 獣国と同じだ。


 でも。


 今更だ。


 それで信用してくれる?


 そんなはずがない。


『アーヴィよ』

 真っ赤な猫の声。

『ぬいぐるみの……猫のアーヴィ。ラーラに伝えて』


 ……。


 どういうことだろう?


 二人の間だけで――姉妹の間だけで通じる合い言葉なのだろうか?


「あ、アーヴィ。ぬいぐるみのアーヴィ」

『アーヴィは元気?』

「アーヴィは、げ、元気?」

 真っ赤な猫の言葉を伝える。


 変化は劇的だった。


 ラーラの顔が驚きに染まっていく。


「そ、そんなはずは……、そんなはずは……」

 ラーラが頭を抱え、座っていた椅子を蹴り、よろよろと後退る。

「駄目、違う。いえ、そんな……でも、うふふふ」

 ラーラが笑う。その顔は歪んでいる。

「本当に、姉さんが? 会えない、会えない。私が、この国で、力を得るためにどれだけ手を汚したか、会えない。合わせる顔がない」

 ラーラの顔が苦痛に歪んでいる。


「協力、協力してくれませんか?」

 ラーラは顔に手を当て、頭を沈め、その首を横に振る。

「遅い……い、いえ、違う。今更、引き返すことは出来ない」

 ラーラの中の黒いマナが蠢く。


『ラーラ!』

 真っ赤な猫が叫ぶ。だが、その言葉は届かない。マナの声はラーラには聞こえない。


「良いお話でした。少しだけ昔を思い出すことが、懐かしむことが出来ました」

 ラーラが顔を上げる。


 その顔は……笑っている。

「そのお礼にあなた方を殺すのは止めましょう」

 結局、か。


 ラーラは僕たちを殺すつもりだったのだろう。竜の魔獣を退治したとしても、その後に殺すつもりだったのだろう。


「ですが、魔王陛下の邪魔となるあなた方にはここで!」

 ラーラの黒いマナが動く。


 ……。


 しかし、何も起こらない。


 いや、何も起こさせない。

「そ、それで?」

 ラーラが驚きの顔でこちらを見ている。


 東屋の下に蠢いていた黒いマナ――その存在に気付きながら放置なんて出来る訳がない。だから、対処させて貰った。


 セツ、この公国に入った時、そして、ここ。これで三度目だ。もう三度目だ。


 銀のイフリーダに頼み、下で蠢いていた黒いマナを抑えこんで貰っている。ラーラがやろうとしていたことは、この下で蠢いている黒いマナを使った何かなのだろう。


 だが、それは出来ない。させない。


「そ、それで?」

 ラーラの驚きの顔が消える。表情の消えた顔でこちらを見ている。


「なるほど、ですね。四魔将の一人を倒しただけはあるようですね。魔王陛下が気にされるはずです」

 ラーラはこちらを見ている。

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