033 屋根
目が覚めた後、残っていた蛇肉を焼いて食べる。火を通せばまだまだ食べれそうだ。
そして、いつもの日課になった研ぎを行う。
『ソラよ、今日はどうするのじゃ』
イフリーダの定番となった本日の作業の確認。
「今日は建物作りと蛇皮の確認かな」
まずは燻していた蛇肉の状態を確認する。水分が飛び、カチカチになっている。適当な枯れ枝で燻していたからか、匂いは酷いが、カビがついたり、腐ったりはしていないので一応の成功だろう。完成した燻製蛇肉は食べ物保管用に、と考えていた土器の中に入れた。
次に蛇皮だ。燻製肉をぶら下げていた骨に貼り付けていた蛇皮の状態を見るため、骨から蛇皮を剥がしていく。触ってみると、カチカチになっているものもあれば、ぐにゃぐにゃになっているものもあった。
まずはカチカチになっている蛇皮だ。元々がかなり固かったので、水分が飛んで、さらに固くなったのかもしれない。
皮の裏に付着している無駄な肉を石の短剣で削り落とそうとすると、その蛇皮が砕けた。
「へ?」
蛇皮が砕けてぽろぽろと粉をこぼしている。
まさかと思い、石の短剣でカチカチの蛇皮を叩いてみると簡単に粉々になった。他のカチカチになっている蛇皮も確認してみる。やはり、同じように粉々になる。
「何で? 作りたかったのは革で粉じゃないよ……」
何か思い違いをしていたのだろうか。適当に干していれば乾いて完成するものだと思っていた。
「思い違いをしていた?」
確かに自分は革の作り方を知らない。
「何か、薬液につけないと駄目だとかになってくると……」
こうなってくると完全にお手上げである。
ぐにゃぐにゃになっている蛇皮を確認する。こちらは叩いても粉になることも無く、元々の大蛇の皮の固さも残し、ぐにゃぐにゃと加工できそうな柔らかさになっている。
「こっちは成功? 何が違ったんだろうか」
ぐにゃぐにゃの蛇皮の裏側に残っていた肉を削り落とす。作業を繰り返し、最終的に使えそうな蛇皮は六枚ほどになった。一枚のサイズが、結構、大きいので六枚でも色々なことに使えそうだ。
「これは後で加工しよう」
小物入れを作ったり、鎧代わりに加工したりしても良いかもしれない。
昨日作った土器は、今日は一日中、天日干しだ。
「さて、と。ここからが今日のやることの本番だね」
まずは昨日拾ってきた若木の加工を行う。石の短剣で枝を切り落とし、出来るだけまっすぐな木の棒へと加工していく。
『ふむ。無くなった木の槍の補充なのじゃ』
興味深そうにこちらを見ていたイフリーダへと首を横に振って返し否定する。ちなみにスコルは丸くなって眠っていた。イフリーダと違い、こういった作業には興味が無いのだろう。
『む?』
19本の若木を全て処理する。これだけでも結構な労力だ。枝がなくなり綺麗になった若木のうち、四本だけ先を尖らせる。
『やはり槍に見えるのじゃ』
「うーん、槍は、別のものから作る……予定かな」
次に木の棒の上端と下端部分を削り、くぼみをつける。作ったくぼみとくぼみを組み合わせ、外れないようにツタで結ぶ。これを四カ所で行い、大きな四角い枠を作る。
『ふむ。何やら大きなものを作っているのじゃ』
「そうだね」
地面の状態を確認し、先を尖らせ加工した木の棒を、簡単には抜けないように深く突き刺す。
突き刺した木の棒の上端に、先ほど作った四角い枠の角を結びつける。結構な高さがあるので背伸びをして、頑張って結ぶ。
四角い枠の長さを確認し、もう一カ所、地面へと先を尖らせた木の棒を突き刺す。こちらも同じように四角い枠の角を上端に結びつける。
同じ作業を、後、二回繰り返す。
これで外枠は完成だ。
『ふむ。家の骨格に見えるのじゃ』
「そうだね。家が作れたら良かったんだけどね。それにはもう少し太くて丈夫な木が必要かな」
天井部分になる木枠の上に木の棒をのせる。これも端と端を結びつけ、転がり落ちないようにする。残った木の棒は全て結びつける。
『ふむ。穴だらけの天井なのじゃ』
「自分の背だと背伸びしないと届かないから、何か台が欲しいところだよ」
横では丸くなったスコルが大きな欠伸をしていた。
「スコルを踏み台にするのは……うーん、無しかな」
ちょうど良い台になりそうだが、スコルの野生としてのプライドが、それを許してくれそうに無い気がする。まぁ、今は野性味を感じさせないくらい、のんきに丸くなっているけど。
作業を続ける。
隙間だらけの天井を埋めるように、これも同じように昨日拾った、茎がついた葉っぱを乗せていく。これを結びつけることは出来ないので、ただ、乗せるだけだ。強い風でも吹いたら飛んで行ってしまうかもしれない。
出来るだけそうならないように、一部を、木の棒の下に通すなど工夫をしながら、天井の穴を埋めていく。
「これで完成!」
作ったのは雨よけだ。これがあれば、雨が降っても、防ぐことが出来る。
「本当は、窯の上にかぶせるように作りたかったんだけどね。でも、窯は煙が出るから……難しいよね」
そして、足元を見る。
「後は地面か。上からの雨は防げても、地面がぬかるんだら意味が無いよね」
これも問題だ。この問題が解決して、本当の完成になるだろう。
ここまでの作業を終えたところで、すでに日が落ち始めていた。一瞬、今日はこれくらいにしようかな、と考えてしまうが、首を横に振って考え直す。
「もう少し頑張ろう」
なるべくまっすぐな木の枝と木の枝を組み合わせ、ツタで結んで四角い枠を作る。大きさは30センチ四方くらいだ。加工の過程で木の枝を二段に重ねているので4、5センチほどの厚さがある。
これに粘土を練り込む。練り込んだ粘土の表面を削り、出来るだけ平らにする。平らにした後は木枠を振って粘土を落とす。
これで四角粘土の完成だ。
この四角い粘土を何個も作成し、先ほど完成した雨よけの下に並べていく。何個かは木枠から外す途中でぐちゃっと崩れたり、木枠にこびりついて上手く落ちなかったりしたが、それでも諦めず作業を続ける。
日が落ちた後も、焚き火の明かりを頼りに作業を続ける。




