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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
空の生命
329/365

324 黒いマナ白いマナ

 ラーラ。


 魔王アイロの妹と同じ名前を持った青髪の少女。

 真っ赤な猫ローラの妹。


 この目の前の女性が、そのラーラだというのだろうか。青髪の少女と一緒にいたのは短い間だった。でも、しっかりと覚えている。姉のために禁域に飛び込んできた少女。


 青い髪が特徴的な少女。


 この目の前の女性が、あの時の青髪の少女?


「こちらへどうぞ」

 椅子に腰掛けた女性がこちらを誘う。その瞳は冷たく、鋭い。


『あの女性が君の妹のラーラなの?』

 とてもでは無いが同じ人物だとは思えない。

『ええ。あの特徴的な青髪、ううん、私が間違えるはずがない!』

 姉である真っ赤な猫ローラの言葉。髪が青いのかどうかは分からないが、姉である真っ赤な猫がそう言うのならば間違いないのだろう。


 青髪の少女と別れてから、どれだけの月日が経ったのだろうか。どれだけのことがあったのだろうか。


 彼女の髪を見る。そして、色を感じるために感覚を広げる。


 ……。


 と、そこで気付く。


 彼女のマナの色は――黒く変色している。黒すぎて、彼女の髪の色が青かどうか分からない。そして、彼女が居る場所、東屋の下に蠢く黒いマナが見える。


 ……これは?


「あ、あなたが女大公?」

「ええ」

 目の前の女性がさらに強く微笑む。笑っているが笑っていない。


『皆、油断しないように』

『何言ってるの! 妹のラーラよ! 私の妹のラーラが……』

『それでも、です』

 真っ赤な猫のローラを見る。

『彼女はあなたの妹のラーラかもしれません。でも、今は、この公国の大公です』


 公国。


 公国の良い噂は聞かない。


 大公は公国で一番偉いと聞いた。彼女が大公になってからどれくらいなのだろうか? 大公になったばかり? そんなはずがない。


 そして、だ。


 彼女が大公に――頂点に立った後も公国の噂は変わっていない。


 そう、変わっていない。


「こちらでゆっくりとお茶でもどうです?」

 女性は微笑み続けている。何処か異様だ。


 首を横に振る。ここにはお茶を飲みに来た訳じゃない。


 ……一応、聞くだけ聞いてみよう。


「ま、魔王を倒すのに協力、し、して貰えませんか?」

「何故?」

 女性が首を傾げる。


 分かっていた反応だ。


『何故って! もう! 魔王が悪い奴だからじゃない!』

 真っ赤な猫はそんなことを言っている。だが、彼女には、真っ赤な猫のマナを使った言葉は届かない。


「魔王は、く、国を滅ぼすような輩ですよ」

「それは領国のことかしら?」

 女性が微笑む。先ほどから、この女性は薄く、冷たく笑ってばかりだ。


「はい」

 魔王はレームの国を滅ぼしている。あの国は――かつて国だった、あの場所は、魔獣や死人が蠢く、闇の……本当に酷いことになっている。


「それは領国が約束を違えたからだと聞いています。あの戦争は領国が仕掛けたものでしょう。戦に敗れ、国が滅びるのは世の常ではないでしょうか」

 女性はこちらを見て微笑んでいる。


『もう! この子は何を言っているの!』

 真っ赤な猫が女性を見て叫んでいる。二人を見ていると、真っ赤な猫だけが子どものままで、妹のラーラは大人になってしまったかのような、そんな錯覚を受ける。いや、錯覚ではないのだろう。真っ赤な猫の時だけが止まってしまっていたのだ。


『耳が痛いな』

『ふむ。こやつには耳なんてないのじゃ』

 銀のイフリーダはそんなことを言って笑っている。それを聞き、レームは肩を竦めていた。


 ……。


 フードのサザはフードを深くかぶり何も言わない。今は口を出すべきではないとでも思っているのだろうか。


 にしても、予想通り、か。


 異形の姿の僕たちを、魔獣としか思えない真っ赤な猫を、そのまま、ここまで案内した時点で分かっていたことだ。

 そして、黒いマナ。


 確定だ。


「こ、これは魔王の命令ですか?」

 女性が首を傾げる。

「これとは?」

 魔王のことは否定しない。


 つまり、そういうことだ。


「こ、ここに広がっている黒いマナのことです」

「その黒いマナというものは初めて聞きます。ですが、何について言っているのか分かります。ええ、分かります」

 女性は微笑んでいる。


「その力は、魔王がもたらしたものですか?」

「それを教える必要がありますか?」

「教えても特に損はないでしょう?」

 この程度の情報で何かが変わる訳じゃない。

「ですが、私に得もないでしょう?」

 女性がこちらを見る。見ている。だが、その目は僕を見ていない。


 どうでも良いのだろう。魔王に言われたから、待っていただけなのだろう。


 だから、首を横に振る。

「あ、あなたの姉の情報があります」

『ちょ、ちょっと!』

 それを聞いた真っ赤な猫が大きな叫び声を上げている。少しだけ静かにして欲しい。


「……それは、どういう意味ですか?」

 女性がこちらを見ている――いや、初めて、こちらを見た。その目は僕を見ている。


「こ、言葉通りの意味です」


 ……。


 女性が大きく息を、何処か疲れたような、今までため込んでいたものを吐き出すかのように――大きく息を吐き出す。


「この力は私が見つけ、魔王陛下に伝えたものです」

2019年1月23日修正

『レーム、レームには耳なんて無いじゃないですか』レームが肩を竦める → 『ふむ。こやつには耳なんてないのじゃ』銀のイフリーダはそんなことを言って笑っている。それを聞き、レームは肩を竦めていた。

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