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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
空の生命

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316 ふレームわーく

 瓦礫を、早く瓦礫を何とかしないと……。


 このままではセツにやられてしまう。


 瓦礫……。


 なぜ、気付けなかったんだ。


 もし銀の剣を、銀のイフリーダを矢として放っていなければ、手元にあれば気付けたはずだ。

 もし、この額にある角に――この感覚に頼り切っていなければ気付けたはずだ。

 もし、この感覚にもっと慣れていれば、

 もし、情報の海に飲み込まれず、周囲の全てを把握できていれば、

 もし、もっと使いこなすことが出来ていれば……。


 全て仮定だ。仮定で過程は覆らない。


 全てはセツがそれだけ強かったというだけのこと。セツの動きを把握するだけで手一杯になってしまっていた。


 負けたことへの言い訳でしかない。


 僕の負けだ。


 セツは動かない。


 だが、セツは動かない。


 勝利し、とどめを刺そうとこちらに近寄ってきていたセツの動きが止まっている。


 セツも動けないほど負傷している?


 もし、そうなら、体の再生が間に合えば――まだ好機は残っている。


 だけど、それとも……?


「そ、そういうことかよ……」

 セツの声。


 声がするということは、まだセツは元気なはずだ。


 それなら、何故、こちらに?


「せ、セツ……」

 セツへと呼びかける。呼びかけながら、瓦礫を何とかしようと力を入れる。体が潰れて力が入らない。


 早く何とかしないと……。


 体内のマナを吐き出し、体を再生させる。そのまま瓦礫を持ち上げていく。


「王様よぉ……」

 セツの声が続く。

「あんたの勝ちだぜ……」

 勝ち?


 どういうことだ?


「里の連中はよぉ……、許してやってくれよ、うちの命一つで……勘弁して欲しいぜ……」

「セツ、ど、どういう……」

「王様よぉ、あんたは……王様だったぜ」

 その言葉とともにセツの体を覆っていた黒い炎が強く燃え上がる。


「セツ、ま、待って。ど、どういう」

「王様よぉ、魔王様について、知りたいことがあるなら! もう一つの国に行ってみるんだなっ!」

 セツが叫ぶ。


 強く叫ぶ。


 そして、その叫び声とともに黒い炎に飲まれ……消えた。


 セツのマナの輝きが消えた。


 黒いマナの炎も消えている。


 セツの存在が消えた。


 ……。


 体を再生させて何とか瓦礫の下から這い出る。その間も瓦礫は降り注いでいる。ここが土の中に埋まるのも時間の問題だろう。


 瓦礫の気配に注意しながら歩き、地面に刺さっていた銀の剣を握る。

『まったく何をするのじゃ』

 銀のイフリーダの不満そうな声を聞き流し、周囲を、気配を感じとる。


 残された時間は少ない。

『セツはどうなったんだろう?』

 セツの気配はない。マナが完全に消えている。

『うむ。あのマナに飲まれたのじゃ』

『マナに?』

『うむ。力を使いこなせなかったのじゃな。自身の存在すら書き換え、力を得ていたのじゃ。そうもなろうというものなのじゃ』

 よく分からない。


『それでセツは?』

『無くなったのじゃ。飲まれ、消え、そしてその力を供給していたものが消えたが故に、黒いマナも消える、それだけのことなのじゃ』


 無くなった?


 存在が?


 ……。


 セツが消えた。セツは僕に勝っていたが、力を扱いきれずに消えた。僕が生き残った。


 もし、セツが完全に力を使いこなせていたら……?


 首を横に振る。


 先ほどと同じ意味の無い仮定だ。


 僕は生き延びることが出来た。それだけだ。


 でも……。

「セツ、勝負はセツの勝ちだったよ」

 僕は負けていた。


『それよりもなのじゃ。どうするのじゃ。我はこのような場所で朽ちるのは嫌なのじゃ』

 銀のイフリーダの言葉に思い出す。


 そうだ。


 今も瓦礫は降り注いでいる。


 ここから急いで離れないと、逃げないと……。


 感傷に浸っている場合じゃない。


 背中の翼を広げようとして、それが動かないことに気付く。体の再生が追いついていない。


 ……


 仕方ない。


 走る。


 足の部分も再生したばかりだからか、上手く走ることが出来ない。だけど、それでも必死に走り、逃げる。


 逃げる。


 降ってくる瓦礫を銀の剣で打ち砕き、進む。


 今の自分は振ってくる瓦礫の気配もしっかりと感じている。見逃さない。セツとの戦いで成長している。

『乱暴に扱いすぎなのじゃ』

 銀の剣を振り払い、進む。


 崩壊が酷いのは城の部分だ。この城を中心として地下都市の崩壊が始まっている。城を抜ければ、城から離れれば離れるほど安全になるはずだ。


 進む。


 歩く。


 走る。


 進む。


 瓦礫を押しのけ、砕き、進む。


 そして城を抜ける。


『ソラ!』

 そこではレームたちが待っていた。真っ赤な猫、片耳のサザの姿も見える。


 待っていてくれた。

『ここも危ないよ』

『分かっているさ。だから、ギリギリまで待ったんだよ』

 レームが肩を貸してくれる。


「お、おい、セツは?」

 サザの言葉。

「倒した」

 ……結果だけを伝える。

「そうか。分かった」

 サザはそれだけ言うとフードを深くかぶり直していた。


「は、早く、逃げましょう」

 逃げる。


 崩壊する地下都市から逃げる。

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