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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
空の生命
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315 ふローラるな炎

 速い、速すぎる。


 ……。


 目で追うにはセツの動きが速すぎる。見えないほどの速度。どうやってその速度を維持しているのか謎だ。その速度で風の抵抗を受けずに――いや、それどころか押しのけられ生まれているはずの風の流れが発生していない。


 謎だ。


 見えない。


 分からない。


 黒いマナの炎とセツが持っている棍だけは見えているのに、何故、動きが読めないのだろう? 見えているのに、見えない。分からない。


 ……逆に考えよう。


 目で追うのが無理ならば、目で追うのは止めよう。


 カノンさんとの戦いでもそうだった。人としての形にこだわって勝てる相手じゃない。


 手と手のようなものを見る。


 片方は銀のイフリーダが、銀の剣が動き、見えないセツを相手に頑張っている。もう片方の弓と矢を持った手は動かせる。自由だ。

 その自由になっている方の手を自分の目に突っ込む。


 この目、今は必要ない。


「お、おい、何をしていやがる」

 セツの驚いたような声だけが聞こえる。


 目では見えない。


 マナの動きなら見えている。そのマナをもっと強く、もっと繊細に、もっと細かくみる器官が必要だ。

 目の代わりになるように、もっとマナを感じられるように。


 これは覚悟。


 頭に、額に、マナを感じるための器官を作る。貯めていたマナがごっそりと削れる。それでもマナを感じるための体を作る。

 額から、尖り、肉を突き破り、中から角が生まれる。


 これはマナを感じるための!


 これがマナを感じるための!


 マナを見る。


 マナを感じる。


 漂っている無数のマナ。今までは感じることが出来なかった小さな、小さな、世界を構成していたマナが、情報が一気に飛び込んでくる。

 世界は無数の小さなマナで創られている。


 ……これが世界。


 頭の中で飽和して破裂しそうなマナの情報の海の中で手を伸ばす。溺れないように、必死に、世界を理解していく。


 角でセツが纏っている黒いマナを見る。


 黒いマナの炎。


 先ほどよりも強く、マナの炎の力を感じる。


 恐ろしい力を感じる。


 そして理解する。


 黒いマナの炎が周囲のマナを喰らっている。いや、違う。食らっているわけじゃない。周囲のマナを上書きしている。


 世界を作り替えている。


 これが見えない理由なのだろうか。黒いマナの炎は見えているのに姿を追うことが出来ない理由。


 周囲の世界を作り替えているから……?


 そんなことが可能なのだろうか?


 いや、だからこそ、そうなっているとしか思えない。


 恐ろしい力だ。


 種が分かって、さらに恐ろしさを理解する。


 だけど、今の僕は見えている。


 見えている。


 銀の剣を持つ手のようなものに力を入れる。銀のイフリーダから支配権を戻す。

『何を考えているのじゃ!』

『任せて』


 世界を作り替えている流れを見る。


 そして、新しく極小のマナの粒が作り替えられた場所へと銀の剣を振るう。


 銀の剣と何かがぶつかる。

「なんだと!」

 セツの声。ぶつかった反応が硬い。セツが持っている棍で防いだのだろうか。


 作り替えられる世界を、認識出来ないはずの世界を、見えないはずのものを、感じる。


 今度はこちらから攻撃する番だ。


 銀の剣を振るう。


 硬いものと打ち合い、弾かれる。それでも攻撃を続ける。


 世界の歪みを乗り越え、相手の世界に斬り込む。

「こ、この化け物がよぉ!」

 セツが叫ぶ。


 化け物はどちらだろうか。恐ろしい力だ。


 世界を好きなように、世界の法則を作り替えられるなら――それは無敵じゃないか。


 この黒いマナは危険すぎる。


 だけど、マナがこの世界の法則だ。その黒いマナにも、マナの力なら干渉することが出来る。


 銀の剣でセツを弾き飛ばす。セツが小さく舌打ちをして、後方へと飛ぶ。


 その動きを感じ、それに合わせて翼を広げる。


 そして、一気に空へと飛び上がる。


 空へ、空へと。


 空へと飛びながら持っている世界樹の弓に矢を番える。


「うちが飛べるってこと忘れてるぜ!」

 だが、すぐにセツが動く。


 セツも飛ぶ。


 矢にマナを走らせる。


 そして、放つ。


「こんなものがよぉ! って」

 セツが動く。そこに何かが砕ける硬い音が響く。


「ちっ」

 セツの舌打ち。


 次の矢を放つ。マナを走らせた矢を放つ。


 何かが砕ける音。


 次の矢を、次々と矢を放つ。


 次々と矢が何かを砕いていく。


 砕け散っていく音。


 マナを走らせた矢がセツの棍を砕いている……はずだ。


 矢がなくなるのが先か、それともセツの棍を砕ききるのが先か。


 セツが近づいてくる気配。


 矢を放つ。


 何かが抜けた感触。


 音がしない。


 セツが迫る。


 矢を……。


 矢を探す。


 しかし、そこに矢はなかった。


 セツが迫る。


 どうする。


 どうしよう?


 ……。


『イフリーダ』

『お、おぬし、何を考えているのじゃ! や、やめるのじゃ』

 こちらの考えを理解した銀のイフリーダが叫ぶ。


 世界樹の弓に銀の剣を番える。


 そしてマナを走らせる。


 マナが燃える。


 白く輝き燃える。

『イフリーダ、頼む』

『むぅ……』

 銀のイフリーダの何処か諦めたかのような声。


 そして放つ。


 黒いマナの炎を目指し白いマナの炎を纏った銀の剣を放つ。


 黒いマナの炎が白いマナの炎を避けるように動く。だが、それを白いマナの炎が追いかける。世界を作り替え、距離を縮め、飛ぶ。


 白いマナの炎と黒いマナの炎がぶつかる。


 二つが世界を作り替え、お互いの世界を侵食していく。


 そして、黒い炎が堕ちる。


 こちらへと迫っていた黒い炎が――地上へと、落ちていく。


 勝ったのか?


 地上へと降りる。


 黒いマナの炎はまだ燃えている。


 まだセツは生きている。


 近くには白く輝く銀の剣が刺さっている。


「ま……まだ、まだぁ! 終わっていない……ぜぇっ!」

 セツの叫び声。


 銀の剣を、剣を。


 セツが動き出すよりも速く、銀の剣を。


 そちらへと走る。


 そして、自分の体に強い衝撃を受ける。セツの攻撃じゃない。


 何が?


 何かに押し潰される。


 メリメリと重い力に体が砕かれる。


 見えない。


 自分を押し潰したものを触る。


 ……瓦礫?


 落ちてきた瓦礫?


 見えなかった。分からなかった。


「運がなかったなぁっ! うちは、うちはまだ、動けるぜっ!」

 セツがゆっくりと立ち上がる。


 瓦礫は大きくて重い。簡単には押しのけることができない。こちらの動きが封じられている。


 このままでは……。


 黒い炎を纏ったセツが近づいてくる。


 ゆっくりと歩き、こちらへと近づいてくる。


 黒い炎が……。


 その黒い炎の動きが止まる。


 動きが……止まる。

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