032 採取
イフリーダ、スコルとともに東の森の奥へと進む。
「やっと、ここが探索できるね」
東の森の奥の探索を開始する。
出来るだけまっすぐに伸びた若木を探し、石の斧で切り倒す。切り倒した若木は背中の籠に入れる。長さのある若木を背負い籠で運ぶのは、バランスが悪くあまりよろしくないが、他に手段が無いので我慢する。
太さのある大きな木に巻き付いていたツタを引っ張り、強さを確かめて石の短剣で切り取る。これも背負い籠に放り込む。
「うん。これは良い紐代わりになりそうだ」
丈夫さでは木の皮を編んで作った紐の方が上だが、ちょっと結ぶくらいならこちらの方が使いやすい。
採取作業を行っていると、時々、周囲からこちらへと近寄ってくる何かの気配があったが、スコルが一声、小さく吼えると、すぐに怯えたように、その気配が消えた。大蛇を倒した今、この周辺に生息している魔獣はスコルよりも弱いものたちしか居ないのだろう。
這っていた巨大な木の根を乗り越え、進む。この木の根は何かに邪魔されて地面から盛り上がっていたようだ。固い岩盤でもあったのかもしれない。
大きな葉っぱを持った植物を発見する。自分の背丈と同じくらいの高さしかない、その植物には、50センチくらいの大きさの葉っぱが、一つの茎から複数枚くっついていた。
艶々とした葉っぱに触ってみるとそれなりの固さがあった。茎の根元に石の短剣を入れる。固いが切れる。普通に石の短剣で切り取れることが確認出来たので、次々と切り取って背負い籠に入れる。植物が一本丸裸だ。
若木、ツタ、大きな葉っぱの採取を続ける。その途中で小さな赤い実も見つけたので、こちらも採取する。
採取行動を続けていると、少しだけ足元の感触が違う場所があった。地面が固い。生えていた草を押し分け、しゃがみ込み、地面を確認する。苔が生え、緑色になって分かり難くなっていたが、それは石だった。石が地面に埋まっている。いや、まぁ、石は地面にある物だけれども。
「石? それもかなり大きい」
周辺の草を刈り取り、石を確認する。元からそうだったのか、加工されているのか、表面は平らになっている。石の途中が割れ、そこから木の根や草が覗いている。元々は綺麗な長方形だったのかもしれない。
立ち上がり、周囲を見回す。よく見れば所々に何かに邪魔されているのか緑色の薄い場所が見える。それはまるで道だ。
「もしかして、石畳があった? それが自然に飲み込まれた?」
隠された道は、この東の森のさらに奥へと続いているようだ。
「気になる」
道の先がどうなっているのかは気になる。が、そこで首を横に振る。遠出するための準備が出来ていない状況で進むのは危険だ。
「この場所を憶えておこう」
進むのは、諦め、採取を続ける。今日の予定は採取だ。目的を間違えてはいけない。
『む。ソラよ、危険なのじゃ』
採取の途中でイフリーダが警告を飛ばしてきた。
「イフリーダ、何かいるの?」
イフリーダの警告を受け、周囲を見回すが、特に何も見つからない。横に居たスコルも無警戒なくつろいだ姿で欠伸をしているくらいだ。まるで野生を感じない。
「イフリーダ、何処?」
イフリーダを見ると、小さく頷き、上を向いた。つられて上を見る。あるのは木の枝。そして、その木の枝に、両手で抱えるほどのサイズの黒い球体がぶら下がっていた。
「何、アレ?」
木の枝にぶら下がっている黒い球体を観察していると、時々、その中から何かが這い出ているようだ。這い出た何かは黒い球体の周囲を飛び回っている。
「虫? って、も、もしかして蜂?」
『ソラよ、注意するのじゃ』
イフリーダの言葉に小さく頷く。そして、音を立てないように、ゆっくりと後ずさる。
スコルは緊張感のない様子で、どうしたの? とこちらを見ている。
「スコル、静かに……逃げるよ」
ゆっくり、ゆっくりと、視線を黒い球体に合わせたまま後退し、ある程度、距離が離れたところで一気に駆け出す。
逃げる。
その場から離れる。
アレは蜂の巣だ。あのサイズだと中にはかなりの数の蜂が潜んでいるはずだ。一斉に襲われたら命はないだろう。
「上手くいけば、蜂蜜が手に入るかも……でも」
危険度を考えたら割に合わない。何かちょっかいをかけるにしても、安全に対処できる手段を手に入れてからだ。
「これも新しい発見だね」
その後も採取を続け、背中の籠がいっぱいになったところで帰ることにした。
「大量だね」
『うむ。良かったのじゃ』
東の森から拠点へと戻り、採取したものを確認する。
若木が19本。長めのツタが4つ。葉っぱ付きの茎が30。小さな赤い実が9つ。結構な数だ。
「やっぱり邪魔する存在が居ないと快適な採取が出来るね」
まだまだ東の森では色々な発見と恵みを得ることが出来そうだ。
空を見る。日が傾き始めていた。
「これらの加工は明日だね」
『ふむ。では、今日はどうするのじゃ』
「まだ休むには少し早いから、土器を作るよ」
その日は粘土を加工し土器を作って終わった。この土器は天日で干した後、窯で焼くことになる。どうしても天日に干す時間がかかるため、先に土器だけ作ったのだ。




