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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
空の生命
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313 サザめく想いが

 獣王とセツが戦い続けている。

「ここまで! 攻め込んできたことは驚いた! が! しかし、魔王の軍も、その将も! 恐るるに足らず!」

「ちっ! 何を言っているか分からないがむかつくぜ」


 セツは獣王が振り回す巨大な両手剣を前に攻めきれず防戦一方だ。


 獣王が一方的に攻めている。セツが獣王が放つ強力な一撃を受け止める。反撃することは出来ず、ただ受け止めるだけだ。


 ……。


 だが、おかしい。


 最初は獣王の一撃で吹き飛ばされていたはずが、次には体全体を使って受け止めていた。そして、今は普通に攻撃を受け止め続けている。


 どういうことだろう?


「くっ! ここまで! 防がれるとは! だが、私の戦技は!」

 獣王が巨大な両手剣を掲げる。

「バールギアよ! この剣の真の力を!」

 その剣に冷たく輝く光が集まっていく。

「戦技――」


「やらせないぜ」

 が、そこにセツが飛び込む。


 無防備な――がら空きになった獣王の胴を目掛けてセツが棍をたたき込む。だが、その一撃を獣王が膝を持ち上げ、その足で防ぐ。

「防ぐだとぉ!」

 セツが叫ぶ。


 よく見れば獣王は背負っていた鱗付きの外套を器用に膝で巻き込み、それでセツの一撃を防いでいた。

「この鱗は! 伝説にのみ名を残す竜によるもの! あらゆる攻撃を防ぐ! そして、食らうが良い! 戦技! アイシクルクラウン!」

 冷たく輝く剣が振り下ろされる。


 光がセツに迫る。


 だが、セツは剣を見ていない。何処か見当違いの方向を見ている。よそ見をしている。


 僕もセツが見ている方を見る。


 ……?


 ……!


 ヨクシュだ。そこにあったのは空飛ぶヨクシュの姿だった。


 先ほど飛び立ったヨクシュが何かを抱えて戻ってきている。


「死ぬが良い!」

 獣王の一撃がセツの眼前に――だが、そこで獣王の剣が止まる。動かない。


 そう、動かない!


「な、何いぃ!」

 獣王が叫ぶ。


 セツが――どうやったのか、いつの間にか翼のような手で巨大な両手剣を掴んでいた。見えなかった。


 今の僕でも見えないほどの速度だ。


「もう少し楽しみたかったがよ、遊びの時間は終わりだぜ」

 巨大な両手剣を掴んだ翼のような手から黒いもやが、黒い炎のようなマナが吹き上がる。


 メリメリと嫌な音が響く。


 巨大な両手剣の、セツが掴んだ場所からヒビが入っていく。そして、剣が砕け散った。


「まぁ、そこらの雑魚よりはよぉ、少しは楽しめたぜ」

 セツが棍を振るう。くるりと回し、獣王の胴へと叩きつけた。獣王がとっさに鱗付きの外套を動かし、その一撃を防ぐ。


 セツの一撃が鱗付きの外套に阻まれる。


 ……。


 防いだはずの獣王の口から大量の血が溢れた。

「おご、おご、おごぅ」

 獣王の体がぐにゃりと折れ曲がり、そのまま崩れ落ちる。


 一撃だ。


 先ほどまでの苦戦が嘘のようだ。


 伝説とやらの、あらゆる攻撃を防ぐはずだった外套すら、ものともしない。


 ……強い。


 そのセツの前へ飛んでいたヨクシュが着地した。ヨクシュが抱えていたものが目に入る。それは時計のような姿の――中の歯車が丸見えになっている球体だった。

「それが例のか。魔王様が言っていたとおりの形だな」

 時計もどきを抱えたヨクシュが頷く。

「お前たちは速く逃げろ。話のとおりなら、ここはヤバいことになるぜ」

「ですが、セツ様は?」

 セツはそのヨクシュの言葉には答えない。ただ、サザの方を向くだけだ。それで何かを察したのか、時計もどきを抱えたヨクシュが頷きを返し、飛び立つ。その後を追うように、他のヨクシュたちも飛び立っていく。


 セツはサザの方を向いたまま嘴を歪め笑う。そして歩き出す。

「帰りは自分の翼で飛ばないと駄目なんだから、ホント、便利だけど不便だぜ」

 棍をくるくると回しながら、楽しそうにサザの方へと歩いて行く。

「にしてもよー、これなら仲間を連れてくる必要もなかったよな?」

 セツは道化のように笑っている。


「セツ、何のつもりだ」

 サザの言葉にセツは笑みを深める。

「サザの姉さんの代わりに、ここを沈めようとしただけだぜ、っと」

 サザの前でセツは足を止める。そして二人はにらみ合う。


「頼んでないな」

「で、サザの姉さんよぉ、これが最後だぜ。魔王様の元へ戻れ」


 ……。


 その時だった。


 大きく大地が揺れる。


 その揺れの中、セツが天井を見る。

「おっと、もう始まったか。もう時間がないぜ」

 大きな地震とともに天井が崩れ始めた。

「断る」

 サザの拒絶。


 それを聞いたセツが笑う。

「あー、言うと思ったぜ」

 そしてセツが棍を構える。


 ……。


 この揺れ、それに天井の崩落。このままだとこの地下都市は大地に沈んでしまう。


 周囲を見れば、伏せていた獣人たちが泣き叫び慌てて逃げ出していた。この地下はかなりの広さだ。出口まで間に合うのだろうか? それとも自分たちが入ってきた場所以外にも出入り口があるのだろうか?


 ……。


 だが、今はそれよりも重要なことがある。


 にらみ合いを続けているサザとセツの間に割って入る。


「おい! 爛れたの、邪魔するんじゃないぜ。お前から死にたいのか?」

 セツを無視してサザの方を見る。

「サザ、に、逃げて」

 サザが驚きの表情でこちらを見る。

「こ、ここは任せて」

 そして、こちらの様子を見守っていたレーム、真っ赤な猫の方へと振りかえる。

『皆も逃げて。サザを助けて逃げて欲しい』

 レームが頷く。

『分かった。任せて!』

 真っ赤な猫も頷きを返す。そして背中の翼を広げる。


「おいおい、爛れたの、何を勝手に……」

「亡霊、任せて大丈夫か?」

 サザの言葉に頷きを返す。

「だ、大丈夫」


「そうか。分かった。これを」

 そう言うとサザは何処からか十本の矢を取り出していた。

「そ、それは?」

「作り直した矢だよ。セツは強い。油断するなよ」

「し、知ってる」

 サザから矢を受け取る。


「おい! うちがお前らを逃がすと思うのかよ」

 セツが棍を構える。


 そのセツの前に立つ。


 立ち塞がる。


「こ、ここから先は通さない」

 天井だけではなく、城も崩れ始めた。広場に城の壁や残骸が落ちてくる。


 この地下都市が崩壊しようとしている。


「その意味、分かってるんだろうな?」

 セツがこちらを見る。

「ま、魔王が何をするつもりか、こ、答えて貰う」

 だから、僕は弓を構える。

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