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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
空の生命
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310 流いん玲がし

 獣王が改めてこちらを見る。その瞳に、先ほどまでのこちらを侮っていた様子は無い。


『貯めていたマナがごっそり減った気がします』

 鋭く尖った刃のような手で握った銀の剣を見る。必要以上に吸い取られた気がする。

『うむ。おぬしから少し余分に頂いたのじゃ』

 何故か銀のイフリーダは得意気だ。

『それはどうなの?』

『む。まだまだ余裕があるのに気にするとは器が小さいのじゃ』

 マナ生命体になってしまった自分としてはマナが無くなれば死んでしまうので、あまり勝手なことはして欲しくない。


 ……。


 だが、今は銀のイフリーダの力が必要な場面でもある。これは報酬だったと考えよう。

『今回だけだよ』

『う、うむ』


 さて、獣王は、と。


「……その姿、魔王に体をいじられた者か! なるほど! それで復讐か! 魔獣の力を手に入れ驕った愚か者か!」

 獣王が唇の端を下げる。あまり楽しくなさそうだ。


「そ、それで?」

 銀の剣を構える。


「口には気を付けた方が良いぞ!」

 獣王が巨大な両手剣を持ち上げる。


 この位置だとフードのサザを巻き込んでしまう。

「さ、下がって」

「分かった。あの剣、氷系の魔法金属が使われているようだ。気を付けろ」

 フードのサザが頷き、ゆっくりと後ろへ下がっていく。


 銀の剣を構え、獣王の元へと歩いて行く。


「ど、どうぞ」

 獣王の前に立つ。


「一撃で終わらねば良いが!」

 獣王が巨大な両手剣を振るう。鋭く、速く、強大な一撃。


 だが、それだけだ。


 避ける。


「良く避けたっ!」


 素早く次の一撃が振るわれる。


 避ける。


「お前たちは自分たちこそが上だと! 『人』だと! 思っているようだが!」


 獣王が叫び、巨大な両手剣を振るう。


「だが! それこそが間違いだと知れ! 私たちこそが真の支配者! 古代より続く支配者の血族だ!」


 獣王が狂ったように両手剣を振るう。


「この城を見よ! この地下遺跡を見よ! これこそが私たちが偉大な種族であった証! そして、この剣こそ、王者の証!」

 獣王が巨大な両手剣を持ち上げ、叩きつける。


 何度も、何度も叩きつける。その度に地面が抉れていく。地面がでこぼこになり、こちらは動きにくくなる。


「なかなかに素早い! が! これで足を取られ動けまいっ!」

 巨大な両手剣が薙ぎ払われる。


 確かにこうなると足元はでこぼこで動きにくい。


 ……そろそろ避けるのも面倒だ。


 巨大な両手剣が迫る。


『――神技パリィ!』

 迫る巨大な両手剣を銀の剣で受け流す。


 巨大な両手剣を受け流された獣王が、驚きの表情でこちらを見る。そして、慌てたように巨大な両手剣を見る。


「そ、それで?」

「何をした!」

 獣王が叫ぶ。


 そして、もう一度、巨大な両手剣が振るわれる。


 速い。


 空気を斬り裂き、見る者を竦ませる威圧感とともに巨大な剣が迫る。


『――神技パリィ!』

 だが――その巨大な両手剣を銀の剣で受け流す。


「そ、それで?」

「な、何をしたぁぁ!」

 獣王が叫ぶ。


 何もしていない。普通に受け流しただけだ。


「そ、その剣の、し、真の力とやらを、使ったら?」

 銀の剣を獣王に向け突きつける。


「ひ、ヒトシュのまがい物ごときがぁぁ!」

 獣王が叫ぶ。


「あ、あなたもヒトシュでは?」

「こ、この私を! 真の支配者! 古代種の生き残りである私を! お前のような者が愚弄するというのか!」

 獣王が巨大な両手剣を掲げる。


「バールギアよ! この剣の真の力を引き出せ! この愚か者に死を!」

 高く掲げられた剣に冷たく輝く光が集まっていく。


 隙だらけだ。


 だけど、狙わない。


『ねぇ、イフリーダ』

『ふむ。何なのじゃ?』

 銀の剣が応える。

『魔法金属の武器とこちら、どっちが強いのかな?』

『答えるまでもないのじゃ。我の体は神の造ったもの。神そのものなのじゃ』


 冷たく光り輝く巨大な両手剣を見る。獣王は神格化しているようだが、あれは、ただの――そう、ただの魔法金属製の武器でしかない。


「死ね! 戦技! アイシクルクラウン!」

 冷たく光り輝く剣が振り下ろされる。


 銀の剣を上段に構え、迎え撃つ。


『神技! スマッシュ!』

 強力な一撃をたたき込む。剣と剣がぶつかる。


 刃と刃がぶつかり合い、光を、冷たい輝きを、銀の光をまき散らす。


 そして――剣が抜ける。


 斬り抜ける。


 刃が――刃に、うっすらと線が入り、滑り落ちていく。


 刃が落ちる。


「ば、馬鹿な!」

 獣王が叫ぶ。


 銀の剣には傷一つない。


 落ちたのは獣王の剣だ。


 銀の剣を振り払い、下へと向ける。剣をしまうための鞘がないから仕方ない。


「ば、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿なぁぁぁ! 王者の証が! 王の力があぁぁ!」

 獣王が崩れ落ちる。


『うむ。神へと挑むには、ちと力が足りなかったのじゃ!』

 銀のイフリーダは得意気だ。


「ぼ、僕の勝ちだ」


 獣王は膝を付き、地面を叩いている。

「あ、あんまりだぁ! 酷すぎる! 何故、何故だぁぁぁ!」


 ……。


 そこには王者の風格なんて何処にもなかった。


 ……。


 そういえば、何故、戦っていたのだろう。


 成り行きで戦ったけれど、戦った理由がよく分からない。ただ、魔王を倒すために協力して貰おうと思ってきただけなのに、何故、こうなったのだろうか。


 ……ここまでやってしまって良かったのだろうか。


 まぁ、いいか。

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