表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
空の生命
314/365

309 獣たち王たち

「剣を!」

 獣王が背負った鱗のような外套をはためかせ叫ぶ。


 獣王が手を伸ばす。


 それに合わせたかのように複数の騎士が巨大な剣を運んでくる。三人、いや、四人か。四人で運んでいるのに――体を鍛えている騎士たちのはずなのに、その足取りはふらふらと揺れていた。重そうだ。


 獣王が運ばれてきた剣を握る。重そうだった剣を獣王が持ち上げる。そう、持ち上げた。だが、さすがに片手では持てないのか両手で剣を握っている。


「行くぞ」

 獣王が高台から跳躍する。


 大きく、空を飛ぶように――まさしく跳躍だ。


 そして、広場に降り立った。


 獣王が巨大な両手剣を地面に突き刺す。


 獣王。近くで見ると若い。青年のようにしか見えない。だが、纏っている雰囲気は老獪な、それだ。狼のような獣の耳に尻尾。そしてかなり背が高い。他の獣人よりも頭一個か二つは背が高い。


 ……一番、気になるのは剣だ。普通では重くて持てないだろう大きさの剣を、両手とはいえ、この獣王は普通に持ち上げていた。それだけの膂力があるということだろうか。


「つ、剣……」

 獣王がこちらを見る。

「そこの従者。この剣が気になるか! この剣こそ、王者の証! 資格無き者は持ち上げることも出来ぬであろうよ!」

 獣王が笑う。


『やれやれ。自分では力が足りないかもしれないが、胸を借りるつもりで頑張るよ』

 真っ赤に濡れたレームがもう一つの剣も引き抜き、構える。


「ん、んんー。返り血を拭う刻くらいは待つぞ?」

 レームは獣王の言葉に首を横に振って返す。


 獣王が唇の端を大きく持ち上げる。

「よい!」

 そして巨大な両手剣を引き抜く。刃の部分だけで獣王の背丈と同じくらいはある。


 獣王が両手剣を振るう。


 ――ただ振るう。


 レームがとっさに二つの剣を交差させ両手剣を受け止める。だが、それでも受け止めきれず吹き飛ばされる――いや、レームは自分で跳んでいる。後方へと飛び、獣王の持つ両手剣の勢いを殺している。


「受け止めるか! 私の! この王者の一撃を受け止めた者は久方ぶりだ! やるではないか!」

 獣王が飛び――後方へと飛んだレームの元へ。そして、そのまま両手剣を振るう。


 レームが体を反らし、その一撃をギリギリで躱す。大ぶりの一撃。


 レームが着地し、踏ん張り、剣を振るう。だが、その時には振り抜かれたはずの巨大な一撃が戻ってきていた。


 ――速いっ!


 レームが慌てて剣を立て、巨大な一撃を受け止めるように逸らしていく。

「んん。なかなかに力強い。まるで魔獣を相手しているかのようだ! だが、それよりも気になるのは、その剣だ! この王者の剣の一撃で砕けぬとは! そこにいる鍛冶士によるものか!」

 獣王の言葉。


 レームは少しだけ思案し、ゆっくりと頷く。

『本当は炎の手さんの作品だけどね』

『あ、ああ。だが、同じ工房による剣だろう?』

 同じ工房という意味は分からないが、レームの剣が、炎の手さん、フードのサザ、二人の手によるものなのは間違いない。


 獣王が巨大な両手剣を振るう。レームが避け、受け流し、避ける。ただ、乱雑に振り回しているようにしか見えないのに隙が無い。


 獣王……驕るだけの強さはあるようだ。


「んんー。この私の攻撃に! ここまで耐えるものがいるとは! だが! わかる、分かるぞ!」

 獣王の唇の端がつり上がっていく。楽しくてしょうがないという表情だ。


 それに合わせて巨大な両手剣の速度が上がる。速い。空気が斬り裂かれ、獣王の周囲には歪んだ風による球体が生まれている。

 レームはその圧に耐えながら戦っている。


「魔王によって魔法も! 戦技も! 封じられ! それでもこれほどの技術力、膂力! 力によって私の前に立つ者がいるとは! 嬉しいぞ! 楽しいぞ! だがっ!」

 そこで獣王の剣が止まる。


 生まれていた風が止む。


「この一撃、耐えてみよ!」

 獣王が剣を高く掲げる。


 大きな隙だ。だが、レームは攻め込めない。獣王に飲まれ、攻め込むことが出来ない。


「バールギアよ! この剣の真の力を引き出せ!」

 古代語だ。獣王が古代語を喋っている。


 何故、急に?


 掲げた巨大な両手剣が冷たく輝く光に包まれていく。


「やはり……」

 それを聞いたフードのサザが何か呟いている。良く聞き取れない。


「戦技――アイシクルクラウン!」

 冷たく輝く巨大な剣が振り下ろされる。


 ただの振り降ろしだ。単純な一撃だ。


『まさか、戦技が……』

 だが、その圧に飲まれているレームは動けない。逃げ出せない。


 それでもレームは、とっさに二本の剣で、その一撃を受け止めた。


 獣王の必殺の一撃を受け止める。


 だが、そのまま冷たく輝く巨大な両手剣は地面に叩きつけられた。そう、叩きつけられた。


 剣の破片が舞う。


 受け止めていたはずのレームの二本の剣が粉々に砕け散る。


「んんー。殺さないように手加減したぞ?」

 獣王が振り下ろした両手剣を持ち上げる。力を込め、引き抜くように持ち上げ、自分の肩にのせる。


 レームは粉々になった剣を、手にしている柄だけになった剣を呆然とみている。


「もう剣はないぞ?」

 獣王の言葉。レームがゆっくりと顔を上げる。


 そして駆ける。


 獣王の元へと駆ける。

「自棄になるか! その程度か!」


 レームが駆ける。


 そして手を伸ばす。


『リヒトの剣。虚を衝き相手を翻弄する技を得意としていた』

 新しい剣が生まれる。


 そのまま獣王の懐に入り――込もうとして蹴り飛ばされた。


 レームの手にあった剣が光となって消える。


「驚いたぞ! 私に蹴り技を使わせるとは! しかも、だ! どうやったか知らぬが戦技を使うとは! 奥の手を隠していたとは! 良いぞ! 良い! さぁ、次はどうする!」

 獣王が笑っている。


 蹴り飛ばされたレームがゆっくりと立ち上がる。


 だが、武器はもうない。奥の手も見破られた。


「ね、ねぇ?」

 と、そこで声がかけられる。見れば、いつの間にかフードのサザが隣に来ていた。

「ど、どうしました?」

「おまえなら、あいつに勝てる?」

 フードのサザが獣王を指差す。


「……た、多分。で、ですが、まだレームが、戦っています」

「そう。そこを曲げてなんとか出来ないか? あいつだけは、あいつだけは……」

 フードのサザは獣王を見ている。その目は憎い者を見るかのように歪んでいた。


『レーム、そういうことらしいです。どうでしょう?』

 レームがこちらを見る。


 そして、立ち上がった姿のまま、肩を竦めた。

『後はソラに任せるよ。さすがは獣王だ』

「で、どうよ?」

 フードのサザはこちらを見ている。


「そ、そういうことらしいです」

「え、それは?」

 フードのサザの言葉を無視して獣王の元へと歩く。


「ん? 従者が何の用だ? 戦いを邪魔すれば斬るぞ?」

「す、少し待ってください」

 お腹の中にあった『もの』を吐き出す。


 カランとそれが吐き出される。それは燃やし固めたことで綺麗な四角い物体になっていた。

「お、おい! それは何だ?」

 こんなものがお腹の中にあっては戦うことも出来ない。


「で、では、やりましょう」

「従者が何を言っている! 私が! この王が! それは何だと聞いているのだ!」


 武器はどうしようか。


 弓と矢は……微妙か。


 仕方ない。あまり使いたくなかったけれど……。


 フードのサザの方を見る。恩がある。


 今回は特別だ。


『イフリーダ、剣がいいな』

『ふむ。なんじゃ。何故、槍にせぬのじゃ』

 それでも槍は使いたくない。


 銀のイフリーダが姿を変える。右手を覆っていた銀の手が剣に姿を変える。


「お前! 何だ! その手は! まるで魔獣のような……」

 銀の剣を手のような鋭い刃で握る。


「ぼ、僕はレームのように甘くありません、よ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ