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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
空の生命
310/365

305 将さる器つわ

 やっと話が分かる人が来てくれたようだ。

「は、話がある」

 初老の将軍がこちらを見る。

「ふむ。分かった。だが、まずは話が出来る場所に、な」

 将軍は話が出来る場所に案内してくれるようだ。


 さあ、行こう。


「待て!」

 しかし、その後を着いていこうとして金属鎧の兵士に呼び止められた。とりあえず首を傾げてみる。将軍が着いてこいと言っているのに、待てとはどういうことだろうか?


 ……。


「分からないのか。連れている魔獣を街の中に入れることは許されない」


 ……。


 なるほど、そういうことか。


『レーム』

『ああ、仕方ないな』

 レームが暴れ馬へと近寄る。そして、その首筋を撫でる。

『しばらく外で待っていてくれ』

 暴れ馬がゆっくりと門の外へ歩いて行く。言うことをしっかりと聞いてくれる賢い魔獣だ。


 これで問題無いはずだ。


 さて、行こう。


 将軍の後を追いかけようとすると、またも呼び止められる。

「いやいやいや、待て待て待て」

「ど、どうしました?」

 もう問題は無いはずだが。


「どう? ど、どうだと!」

 何故か怒り出しそうとしていた金属鎧の兵士の肩を隣の兵士が軽く叩いて慰めている。

「ま、まぁ、落ち着けよ。それで、その悪いんだが……」

 隣の兵士が話しかけてくる。

「は、はい?」

 話を聞こう。


「そちらの魔獣もお願いできないだろうか」

 兵士は真っ赤な猫を指差している。


『え? 私?』

 真っ赤な猫が前足を持ち上げ、器用に自身を指差している。


 なるほど、確かに見た目だけで言えば、この真っ赤な猫は魔獣のようにも見える。

『はぁ、仕方ないから。別にいい。ここで待ってる』

 真っ赤な猫は大きなため息を吐き出している。

『いえ、大丈夫ですよ』

 間違いは正すべきだ。譲歩してしまえば認めたことになってしまう。


「か、彼女は魔獣では、ない。そ、そういう、種族だ」

「い、いや、しかし、どう見ても……」

「それで、な、何の問題が?」

 兵士を見る。威圧したつもりはなかったが、それだけで兵士は黙ってしまった。


 それに気付いた将軍がこちらへと戻って来る。

「むむ。すまない、すまない。私の騎士が失礼なことを言ったようだ」

 口では謝っているようだが、目が笑っていない。

「皆、すまないが、私を信じてくれ。この……」

 将軍が真っ赤な猫の方を見ている。

「ろ、ローラです」

「そう、このローラさんも受け入れようじゃないか」

 将軍が周囲へと笑いかけている。


『食えない爺さんだ』

 レームが将軍を見ている。

『ですね』

 僕も同じ意見だ。


 止めようと思えば、もっと早い段階で止めることも出来たはずだ。しかし、この将軍はこちらが揉めそうになってから止めに入った。どう反応するか、こちらの様子を見ているのだろう。


 将軍の案内で誰もいない街を歩く。

「ひ、人の姿が、み、見えない」

「ふむ。ああ、それは……いや、それはもう少し落ち着ける場所に着いてから話そう」

 将軍が何かを言いかけて止める。

「そう言えば、先ほどの、そちらの騎士の剣の流れ、癖は、領国のものに見えたが、もしかすると領国の生き残りかね?」

 そして、全然別のことを聞いてきた。


『レーム、どう答える?』

『もう無くなってしまった国のことだ。適当にはぐらかして欲しい』

 レームの言葉に頷きを返す。

「ち、違う」

「そ、そうかね」

 そんな話をしながら街の中を歩いて行く。そして、それなりの大きさの建物が見えてきた。木造だがかなり天井が高そうな建物だ。


 建物の中の一室に案内される。


 丸い机とそれを囲むように椅子が並んだ部屋だ。とりあえず適当な椅子に座る。椅子に座れない真っ赤な猫のローラは前足を立てて、その近くにちょこんと座っている。

「なぁ、何だか大事になっていないか?」

 フードのサザは事態について行けていないようだ。


 まぁ、それはこちらも同じだ。

「な、なんとかなります、よ」

 そう、何とかなる。何とかはなるのだ。


 そして、こちらと相対する場所に将軍が座る。

「では、聞こう。貴公らがこの国に来た理由を」

 将軍が机の上に肘をのせる。


 この国に来た理由?

「カジ、仕事、する」

 フードのサザが答える。彼女は鍛冶仕事を探してだろう。

「なるほど。鍛冶仕事を、か。あなたが優れた鍛冶士であれば、それは非常にありがたい話だ」

 将軍は頷いている。そして、こちらを見る。


 僕たちが同じ理由だとは思っていないのだろう。だから、頷き返し、口を開く。

「ま、魔王を倒す。魔王を倒す、き、協力を得たい」

「魔王を、か」

 将軍が腕を組む。


「それは私一人で判断出来ることではない」

「な、なら……」

 将軍が手を広げ、こちらの言葉に待ったをかける。


「私の権限で獣王様に話を通しても良い。だが、それには少し信頼と力が足りないと思わないかね」

 将軍はこちらを見ている。


『何かをさせたいみたいだね』

『ああ。こちらを便利に使おうという腹づもりだろうな』

『ちょっと。何、それ。少しは話が分かると思ったのに!』

『うむ。所詮、ヒトシュなぞ、この程度なのじゃ』

 まぁ、話を聞いてからだ。


「そ、それで? な、何をさせたい?」

「む。話が早いな。話は簡単だ。私たち獣王騎士団が、この街まで来ていた理由でもある。そして、先ほど、そちらが疑問に思っていた人の姿が見えない理由の答えでもある」

 将軍はもったい付けて喋るのが好きなようだ。偉い人は、そういった姿勢が大事なのだろうか。

「そ、それで?」

「簡単な話だ。魔獣だ。この獣国を昔から悩ませている地を這う竜が目覚めたらしい。危険を回避するため人々は避難しているのだよ」

 地を這う竜?

「今は、その反応が消えているが、油断は出来ぬ。見つけて討伐して欲しいのだ」

 将軍がこちらを見ている。まるでこちらを試しているかのような様子だ。


「そ、その地を這う、りゅ、竜、はどんな姿?」

「ああ。見れば分かると思う。人を丸呑みするほどの巨体。刃のようになった鱗を持った……」

 そこで僕はレームと顔を見合わせる。


 レームが自分の鎧を指差している。

「そう、そこの騎士が身につけている鎧のように鋭い鱗だ……ん? 見れば見るほどそっくりに見えるが……」


 ……。


 なるほど。

「そ、その魔獣なら、た、倒した。森、の中に死骸が、転がっているはず」

 森の中を彷徨っている時に、そんな感じの魔獣を蹴散らしたような気がする。その時は鎧の素材にぴったりの魔獣を倒したくらいにしか思っていなかったが……。


「な、なんと」

 将軍が大きく口を開けて驚いている。


「お、おい! 急いで確認してくるのだ!」

「は、はい」

 兵士……いや、騎士の一人が慌てて駆けていく。


「す、すまないが、確認が終わるまで、ここでくつろいで待っていて欲しい」

 将軍が何処か疲れた顔で、よろよろと立ち上がっている。


 さて、これでどうなるのだろうか。

今年最後になります。一年間ありがとうございました。

来年も本作品をよろしくお願いします。


正月の三が日はお休みをいただきます。

連載の再開は一月四日の予定になります。

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