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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
空の生命
306/365

301 まちぼうけ?

 盆地に作られた街へと歩いて行く。やがて巨大な壁と門が見えてくる。最近作られたものではない。至る所に増築、改築した跡が残っている。そこにあった歴史を感じさせる壁だ。この壁と門が外敵の襲撃から街を守っているのだろう。


 道を歩き、門の前に辿り着く。だが、何の反応もない。門は閉じられたままだ。


 門や壁が破壊されている様子は無い。古くなって傷んでしまっている箇所はあるが、それだけだ。この壁はしっかりと機能している。


 なのに人の気配がない。


『どう思います?』

『自分もあまり獣国に来たことがあるわけではないからな。分からないな』

『もう! 肝心なところで頼りにならないんだから!』

 真っ赤な猫が肩を竦めて大きなため息を吐いている。

『ふむ。そういう猫はどうなのじゃ?』

『私が分かるわけないじゃない』

 この猫は頼りにならないようだ。


 にしても、だ。レームでも分からないなら、どうしようもない。


 扉を破壊して無理矢理この中に入ることは出来そうだ。だが、それをやってしまうと、この町に住む人たちと敵対することになってしまうだろう。それは得策じゃない。


「反応がないぜ」

 フードのサザが扉を叩いている。最初は軽く、今は勢いよく。そして、ついには小型の金槌を手に取る。


 それはいけない。


「ま、まってください」

 慌ててフードのサザを止める。

「やるわけないじゃん」

 フードのサザが小型の金槌をしまう。冗談ぽく小型の金槌をしまっているが、止めなければ本気でやるつもりだったはずだ。


「えーっと、ですね。そ、その扉の向こうには、だ、誰もいません」

「そ? ああ。それなら叩いても無意味か。いや、それなら中に入って人を探した方が良くない?」

 どうだろう。


 確かにフードのサザの言葉には一理あるような気もする。でも、それで、もし人が戻ってきたら……言い訳が出来るだろうか?


 焦っているわけでも、時間が限られているわけでもない。少し待ってみても良いと思う。それでも駄目なら、その時になってから、無理矢理侵入すればいいのだ。


「ここで、ま、待ってみましょう」

 門の前で座る。


 レームも暴れ馬から降りて座る。真っ赤な猫を見れば、すでに丸くなり欠伸をしていた。もう完全に猫だ。心まで猫になってしまったかのようだ。大丈夫だろうか。


 日が暮れ、夜の闇に染まり、そしてまた陽が昇る。


 朝だ。しかし、それでも扉の向こうに人の気配は感じられなかった。


 扉の前で待つ。僕もレームも眠る必要がない。眠る必要があるのは真っ赤な猫のローラと暴れ馬だけだ。だから、ただ静かに座り、待つ。それだけだ。


「そういえば、おまえ、弓を扱っているようだな」

 扉の前で座って目を閉じているとフードのサザが話しかけてきた。目を開ける。

「そ、そうですね」

「しかし、その矢はなんだ」

 フードのサザが矢筒に入っている矢を指差している。

「矢、です」

「矢なのは分かってるってーの。ちょっと貸せよ」

 フードのサザに矢が没収される。


「それと、そこの骨!」

 レームが驚いた顔で――いや、骨なので表情は変わらないが、驚いた様子で、キョロキョロと周囲を見回している。

「いや、骨はお前しかいないだろ……」

 フードのサザがあぐらを掻いて座っていたレームへと近寄る。

「その剣、貸せ」

 そして手を伸ばす。


『そ、ソラ、どうするべきだ!?』

 レームが慌てている。

『えーっと、渡してあげてください』

『あ、ああ』


 レームがフードのサザに剣を渡す。

「やはり、そうか」

 剣を眺めていたサザが何かを呟きながら舌打ちしている。


「乱暴に扱いやがって……」

『い、いや、大切に扱っている。お気に入りの剣だ』

 レームが慌てている。


「そこの骨。私が手入れしてやるから」

『は、はい』

 全身鎧姿のレームが、こくこくと頷いている。


「そこのぐちゃぐちゃな大きいの! 私が矢を作ってやる」

 ぐちゃぐちゃな大きいのとは僕のことだろうか。酷い言い様だ。


「どうせ待つなら、その間、出来ることをやる!」

 フードのサザは何やら張り切っている。単純に暇なのかもしれない。


 そしてまた日が暮れる。


 夜の闇に包まれ、新しい陽が昇る。


 新しい一日だ。


 そして、にわかに門の向こう側が騒がしくなり始めた。多くの人の気配を感じる。何処かに隠れていた人々が出てきたようだ。


 何をしていたのだろう?

 何があったのだろう?


『レーム、人の気配が』

『分かった』

 レームが立ち上がり、休んでいた暴れ馬に跨がる。


『え? なに、何?』

 真っ赤な猫も目覚めたようだ。


 眠っているのはフードのサザだけだ。


 そのまま待つ。


 しばらく待っていると、門の上に人が現れた。獣の耳がくっついた獣人の戦士だ。革の鎧に長槍と弓を持っている。


 ……。


 門の上の戦士と視線が合う。門の上の戦士がこちらに気付いたようだ。

「何者だ!」

 なにものだろう?


「どうしたんだ?」

 フードのサザが目を覚ましたようだ。大きく伸びをしながら欠伸をしている。のんきなものだ。

「も、門番が、き、きました」

「門番?」

 そこでやっと門の上の戦士に気付いたようだ。慌てて立ち上がっている。


「私たちは旅のものです。ここを開けてくれませんか?」

 フードのサザが話しかける。だが、門番には通じなかったようだ。

「訳の分からない言葉を! 魔獣の類いか!」

 門の上の戦士が警戒心を強めている。


 ここの門番には古代語は通じないようだ。


 さあ、どうしよう。

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