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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
空の生命
304/365

299 いきていた

「ちょっと荷物を取りに行ってくるぜー。逃げる時に置いてきたからさ」

 フードの女性が動く。


 こちらの横を通り抜けていく。


『ソラ、行かせて大丈夫なのか?』

 レームは、このフードの女性に逃げられることを気にしているのかもしれない。

『大丈夫です』

 だけど、別に逃げられても問題ないのだ。逃げても問題ない。そう、僕たちはこのフードの女性を捕らえに来た訳じゃないんだ。逃げられても構わない。ただ、それはそれで悲しいが、仕方ないと割り切ることが出来る。


 そのまましばらく待つ。


「待たせた」

 フードの女性が戻って来る。その手には小さめの背負い袋があった。

「そ、それが?」

「そう、荷物。にしても、逃げるとは思わなかったのか」

 フードの女性が肩を竦めている。


「ど、どちらでも」

 だから、こちらも肩を竦めてみせる。すると、一瞬だけフードの女性がびくりと肩をふるわせていた。驚かせてしまったのかもしれない。


「ふ、ふーん。まぁいいか。そこで見てるんだぜ」

 フードの女性が持ってきた小さめの背負い袋から四角い金属の塊を二個ほど取り出す。その四角い金属の塊を地面に立てるよう並べる。

「それとこれだな」

 そして、何処に隠していたのか懐から小さな丸く輝く珠を取り出す。


「そ、それは?」

 何処か見覚えのある珠だ。

「ふふーん。これは、持ち運びできるようにした簡易魔法炉さ!」

 フードの女性が、その簡易魔法炉を空高くへと掲げる。

「え、えーっと、そ、それで?」


 フードの女性が掲げた簡易魔法炉を、先ほど地面に置いた四角い金属の塊と金属の塊の隙間に乗せる。地面から少し浮いている形だ。


 ……掲げた意味は何だったのだろうか。何か作法的な行動なのだろうか。


 にしても、だ。てっきり取り出した四角い金属の塊を加工するのかと思ったが、簡易魔法炉の台座だったようだ。


「その魔獣が使えそうか」

 フードの女性が転がっている四つ足の魔獣の死骸に近寄る。そして、マナ結晶を抜き取った際に作られた隙間から手を突っ込み、無理矢理、その中の骨を抜き取る。

「合わせるのはこれかな」

 楽しそうな様子で小さめの背負い袋から黒い金属の塊を取り出す。今度こそ、取り出した金属を加工するようだ。


「まずは魔法炉を点火っと」

 フードの女性が輝く球体に手を触れると、輝く球体が青い炎に包まれた。

「かんかん、がんがんだぜ」

 どこからか取り出したやっとこで黒い金属の塊を掴み、青い炎であぶる。それを何処からか取り出した金床の上で叩く。手にしていた小さな金槌で叩く。


 何度も繰り返す。


 いつの間にか鍛冶職人らしい道具が広げられている。こんな山の麓に広がっている森の中で、鍛冶仕事を見ることが出来るとは思わなかった。


 骨を折り曲げ、骨と骨を、溶かした黒い金属でくっつけている。何か丸いものを作っているようだが、何を作っているのだろうか。


「本当は乾かした方がいいんだけどさー」

 フードの女性が骨を加工している。


 骨と金属を組み合わせ何かを作っている。


『何を作っているのだろうな』

 レームが加工の過程を興味深く眺めている。

『何でしょうね』

『見てて飽きない!』

 真っ赤な猫も座り込み楽しそうに眺めている。


 ものを作る過程は見てて飽きない。自分で作るのも楽しいが人が作っているのを眺めるのも楽しいものだ。


 ……。


 皆で作業を眺める。


 そして、完成した。


 それは頭を全て覆う形の兜だった。

「そこの骨にぴったりじゃん」

 フードの女性は完成した黒金の兜を空高く掲げている。


『なんと! 自分のためにだったのか』

 骨のレームが両手を挙げて驚いている。驚くようなことだろうか。最初にそれっぽいことを言っていたような気がする。


「はいよ。そこの骨に渡して」

 フードの女性から兜を受け取る。

『レーム、どうぞ』

 そのままレームに手渡す。

『あ、ああ』

 受け取ったレームが黒金の兜をかぶる。そして面頬を下ろす。こうしていると中が骨だとは分からない。魔獣の骨とあり合わせの金属で作ったとは思えない兜だ。

『これはなかなか良いな』

 レームは兜を気に入ったようだ。


「あ、ありがとう。これで分からない」

 お礼を言う。確かにこれは助かった。これで人の住む場所に入れるだろう。


「はぁ? えーっと、分かってる?」

 だが、フードの女性は大きなため息を吐き出していた。

「ど、どういうこと?」

「そのさ。目立つ頭の部分は隠せたけどさ、手は骨だし、鎧の隙間から骨が見えているからさ、だめじゃん」


 ……。


 レームの方を見る。


 た、確かにその通りだ!


「それで相談」

 フードの女性が言葉を続ける。

「この先の国に向かうまで護衛を頼みたいんだよ。その代わりに篭手や鎧の補強を行うってことでどうよ?」

 フードの女性がこちらを見ている。


「あー、はい。それは、たすか……」

 フードの女性がこちらの言葉の途中で手を伸ばし、制止する。


 そして指を丸める。


「それに付加してお金が欲しいな。欲しいなぁ」

 フードの女性がこちらを見ている。


『がめついなぁ』

『ああ、そうだな。それで、ソラ、どうする?』

『お金なんて持ってないじゃない!』

 そうなのだ。お金を持っていない。


 仕方ない。


「お金、ない。だから……」

 先ほど手に入れたマナ結晶を渡す。

「こ、これ。かわり」

 仕方ない。ヒトシュの地ではマナ結晶がお金の代わりになるはずだ。


「はぁ、結晶? まぁ、仕方ない。いいぜ。契約成立ってことで」

 フードの女性がこちらへと拳を伸ばす。


 こちらも左手の拳を伸ばす。


 軽く叩く。


「いったっ! 力、込めすぎかよ!」

 フードの女性が叫んでいた。

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