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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
空の生命
303/365

298 がんばった

 フードをかぶった大柄な女性が小さな金槌で四つ足の魔獣を吹き飛ばす。なかなかの力だ。一匹、二匹程度なら余裕で対処できるだけの実力を持っているようだ。


 だけど今回は相手が悪い。数が多すぎる。


 対処しきれなかった四つ足の魔獣が飛びかかる。その瞬間を狙い、矢を放ち、撃ち落とす。こちらからはあくまでフードの女性を補佐するだけにとどめる。矢の残りは少なくなっている。それに、だ。こうやって助け続けていれば、あのフードの女性も、こちらに敵意が無いことを分かってくれるはずだ。


 そして、すぐに暴れ馬に乗ったレームがやってくる。レームは両手に持った剣で黒毛の四つ足魔獣をなで切りにしていく。レームの暴れ馬が走る度に四つ足の魔獣が綺麗に斬り裂かれていく。

 沢山の木々が生えたこの場所では暴れ馬での移動はやりづらかったはずだ。レームが遅れてくるのは分かる。仕方ないことだ。


 そして、少し遅れて真っ赤な猫がやって来た。ふしゅーふしゅーと荒い息を吐き出しながら歩いている。先行したはずの真っ赤な猫が一番最後になっているのはどういうことだろう。戦いに夢中になりすぎてバテたのだろうか。


 だが、これで皆が揃った。後は殲滅するだけだ。


 ある程度の数を減らしたところで四つ足の魔獣は怯えた姿で逃げ出した。

『殲滅する!』

 真っ赤な猫はやる気だ。

『うむ。殲滅するのじゃ』

 銀のイフリーダが逃げていく四つ足の魔獣を指差している。銀のイフリーダもやる気だ。


『追わなくて良いから』

 やる気があふれ出ている二人を止める。

『ああ、そうだな』

 レームは、すでに剣を鞘に収め動きを止めている。さすがはレームだ。分かっている。


 魔獣を倒すことよりも優先することがある。

『まずは倒した魔獣のマナ結晶を取りましょう』


 と、そこでレームが暴れ馬の上からずり落ちそうになっていた。

『いや、そこは助けたものに話しかけるのが先じゃないのか?』

『それは後でも出来るから。僕たちにはマナ結晶が重要だから』

 レームは、あー、とかうーとかよく分からない意思をこちらへと飛ばしながらも暴れ馬から飛び降りる。


『もう、こんな手足だから難しいのに!』

 真っ赤な猫はひっかくような動きをしながら、嫌そうに顔をしかめている。

『斬り裂くのじゃ』

 それを見て銀のイフリーダが笑っている。なんだかんだで、この二人は仲が良い。


 レームと二人で協力してマナ結晶をあさっていると、呆然とした様子でこちらを見ていたフードの女性が近寄ってきた。


 そして、転がっている魔獣に刺さっていた矢を引き抜く。その矢を見て、何かの確認をしている。

「こんな矢で、あの命中?」

 フードの女性が確認を終えた矢を投げ捨てる。

「そこの骨の魔獣が持っている剣には見え覚えがあるし……」


 ある程度、近寄ったきたところでフードの女性が足を止める。剣の間合いにはまだ遠い。それ以上、近寄って良いのか迷っているのだろう。


 そしてフードの女性が口を開く。

「えーっと、コトバ、ワカル?」

 ヒトシュの地で使われている言葉だ。微妙にカタコトなのは使い慣れていないからかもしれない。


「わかる、分かります」

 だから、試しに拠点の方で使っていた古代語の方で話しかけてみる。自分としてはこちらの方が使い慣れている。こちらで会話出来るなら、こちらで会話したい。


「おんやー。そこのちょっと大変なのは、私たちの言葉が分かるんだ」

「え、ええ。す、少しなら」

 フードの女性は少しだけ胡散臭いものを見るような、そんな様子でこちらを見ている。


「そこの二匹の魔獣は、あなたの飼っている魔獣?」

「ち、違う。な、仲間」

 二人は仲間だからね。


『ね、ねぇ、ちょっと!』

 真っ赤な猫が何かに気付いた様子でこちらの背中を前足で叩いている。

『分かってるから。分かってるから、ちょっと待って』

 真っ赤な猫の頭を押さえ、静かにさせる。

『だから、ちょっと! 何で、こんな扱いなの!』

 真っ赤な猫の抗議の言葉は無視する。


「こちらを助けた理由は?」

 フードの女性が腕を組む。

「ま、魔獣を倒して、マナ、マナを得る、ため?」

 ちょっと首を傾げてみる。するとフードの女性は驚いたように一歩後退っていた。もしかすると威嚇行動だと思われたのだろうか。


「て、敵対する、つもりはない、です」

 両手を広げて戦う意思がないことを告げる。

「あ、ああ。分かっているさ。ただ、その姿だと威嚇しているようにしか見えないぜ」

 フードの女性が肩を竦める。


「そ、それで、あなたは、な、何? 何処へ?」

 このフードの女性の事情を聞いてみる。まぁ、教えてくれたら、程度の気持ちだ。


「私はね、こー見えても、鍛冶職人をやっているのさ」

 フードの女性が手に持っていた小さな金槌を、その手の上でくるくると回している。

『なるほどなー』

 骸骨姿のレームは暴れ馬の横に、真っ赤な猫は前足を立ててちょこんと座って話を聞いている。

「その目は疑っているだろ?」

 首を横に振る。

「まぁいいさ。ちょっと訳あって旅をしていたんだぜ。ヒトシュのいる国に行ってみたら、あまり良い扱いを受けなかったからさ。この先にあるという国に向かってみるつもりだったんだよ」

 なるほど。


「そ、そうですね。しょ、職人には見えません」

 鍛冶は出来ても職人の領域に入っているとは思えないんですよね。


『何言っているの! どーみても優れた職人じゃない』

 真っ赤な猫は何故かフードの女性を擁護している。

『ああ。自分も悪い腕には見えないな』

 レームは腰に差した剣の柄を叩いている。


「言うねぇ」

 フードの女性がこちらを見ていた。

「いいます」

 だから頷く。


「おまえたちもこの先の国に行くつもりなんだろう?」

 頷く。会話の繋がりが分からない。こちらの事情も聞いておこうという感じなのだろうか。

「そこの猫の魔獣はまだしも、そこの骨は厳しいだろう?」

 フードの女性がレームを見ている。確かに骨だ。人の住む地に行けば、驚かれ、狩られてしまいそうな姿をしている。


『確かにその通りだ!』

 レームが、今、気付いたかのような驚き方をしている。分かっていなかったようだ。


「そ、それで?」

「鍛冶の腕を見せてやるって言ってるのさ」

 フードの女性が小さな金槌を肩に乗せる。


 そうしていると熟練の鍛冶士みたいだ。

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