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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
空の生命
302/365

297 ねこでした

 奥の森を駆け抜け、かつて禁忌の地と呼ばれていた禁域を抜ける。


 そのまま右手の道を進んでいく。


 やがて小さな丘が見えてくる。以前にも通った道だ。


 皆で丘の上に。


 その先は平原――かつての戦場跡。


 だが、そこには何も無かった。何も無くなっていた。

『何も無い……』

『ああ。ここに縛られていた想いが消えたのだろう』

 レームが遠い目で――そこに何も存在しない眼孔で平原を見る。

『ちょっと、ここに何があったっていうの?』

 真っ赤な猫には何も見えていない。何も無いただの平原だ。レームの目に見えているであろう光景は見えていない。


 ……。


『ただの戦場跡だ』

 レームの言葉。ここで戦ったレームだからこそ、『ただの』と言うことが出来る。そこに秘められたものは重い。


 ……。


『行きましょう』

 平原を見ているレームに呼びかける。


『そうだな』

 二人で丘を降りていく。


『もう、なんなの!』

 その後ろを真っ赤な猫が着いてくる。


 何も無くなった平原を駆ける。


 ここでレームと再会してからどれくらいの日数が経ったのだろうか。二十日か、それよりもう少しくらいか。それだけの日数で、散らばっていたものが、無数にあったものが消えるのだろうか。


 ……。


 平原を駆け抜ける。


『それでこの後はどう進む予定?』

 レームに話しかける。

『この平原を抜けた後、そのまま進めば公国だ』

『となると、獣国は?』

 馬上のレームが平原の先にある山を指差す。


『あの山だ』

 公国へと進む道の途中で山に入れば良いのだろうか。

『獣国は山を越えた先にある?』

 レームが首を横に振る。

『あの山の中だよ』

 山の中にある国?


『ふふん。何故、山の中にあるのか気になるんでしょ? 分かるわ!』

 真っ赤な猫が得意気な様子で近寄ってくる。

『ああ。それなら、獣国に住んでいる獣人たちは人に迫害されていたからだ。逃げるように山の中で暮らしていたという訳さ。そして、天然の要塞に守られ、大きく発展したということだな』

 すべて、過去形……ということは、今はあまり迫害されていないのだろうか。


『ちょっと! 何で答えを! ねぇ、わざとやってない? わざとね!』

 真っ赤な猫が馬上のレームに詰め寄る。

『い、いや。そういうつもりは無かったのだが……』

 レームが頬を掻いている。


『えーっと、分かったので、とりあえず行きましょう』

 向かってみるのが早そうだ。


 それにしても思っていたより近い。公国と獣国、それにレームの国は隣り合った国だったようだ。それらの国を隔てているのが、この平原だったのだろう。


 山を目指して平原を駆ける。


 と、その前方に黒い毛並みを持った四つ足の魔獣の姿が見えた。猫系の魔獣だが、真っ赤な猫のような翼は生えていない。大きさも一回り小さいくらいだ。


 あまり強そうでは無い。


『任せて!』

 こちらがどうしようか迷っている間に真っ赤な猫が動く。


 四つ足の魔獣の目の前まで駆け、そのまま飛びかかる。鋭い前足で四つ足の魔獣を叩きつけ、動きを封じる。そして、口から、一気に真っ赤な炎を吐きかける。

 それだけで四つ足の魔獣は燃え――燃え尽き、真っ黒な塊となった。恐ろしい火力の炎だ。


 だが……。


『どう?』

 得意気な様子の真っ赤な猫の元まで歩く。


 左手を持ち上げる。


 そして、その得意気な様子でこちらを見ている真っ赤な猫の額に、その左手を落とす。

『えーっと、ですね……』

『おぬしは何をやっているのじゃ!』

 僕が喋るよりも先に銀のイフリーダが叫ぶ。


『いったーい! もう、なんなの!』

 真っ赤な猫が頭を押さえて、にゃうにゃう叫んでいる。


『えーっとですね。こんな真っ黒になるほど燃やしてしまったらマナの結晶が採れないですよね。少し考えたら分かるはずですよね。考える力までなくなったのでしょうか』

『もう! 倒したんだからいいじゃない! また、その妙に丁寧な言葉で喋って! それ、気になるから、本当、気になるから!』

『次は気を付けるのじゃ』

 銀のイフリーダが肩を竦めて大きなため息を吐き出している。


 もう一度、左手を持ち上げる。

『もう! 分かった。分かったから!』

 真っ赤な猫は少しだけしゅんとして小さくなっている。反省しているようだ。


 自分たちのようなマナ生命体や魔獣もどきにはマナ結晶が重要だ。それが無くなれば本当の死が待っている。


 マナ結晶は重要だ。


 ……。


 気を取り直して進もう。山はもうすぐだ。


 それに、魔獣の姿が見え始めたということは、それだけマナ結晶を手に入れる機会がふえるということだ。今回は残念なことになったけれど、次は大丈夫なはずだ。


 さらに進む。


 山を目指す。


 そして、山の麓にさしかかったところで、無数の魔獣の気配を感じた。

『魔獣です』

 皆に呼びかける。かなり数が多い。


 しかも集まって何かを追い立てているような感じだ。その魔獣の集団の先にもマナの気配を感じる。


 ……。


 誰かが襲われている?


『誰かが魔獣に追われているようです』

 急いだ方が良いかもしれない。

『分かった。急ごう』

『ええ。そうね』


 山の中へと踏み入る。


 駆ける。


 山の麓に生えている木々の隙間を抜け、魔獣の元へと急ぐ。


 そして、魔獣の姿が見えてくる。追いついた。


 その魔獣は、真っ赤な猫が燃やし尽くした四つ足の魔獣と同じ姿をしていた。本来は集団で狩りをする魔獣なのだろう。あの時の一匹は群からはぐれた個体だったのかもしれない。


『潰す!』

 一番乗りは真っ赤な猫だ。真っ赤な猫が四つ足の魔獣の集団に飛び込み、その爪で切り裂いていく。


『僕も行きます』

 走りながら弓に矢を番え、放つ。


 放たれた矢が四つ足の魔獣を貫通する。


 矢を放つ。


 真っ赤な猫に飛びかかろうとしていた四つ足の魔獣を撃ち落とす。

『さすがね!』

 真っ赤な猫が四つ足の魔獣の集団を相手取る。


 僕は駆ける。


 そして、翼を広げ、飛ぶ。


 真っ赤な猫と戦っている手前の一団を飛び越え、奥へ。


 追われている人の元へ飛ぶ。


 追われているのはフードをかぶった女性のようだ。小さな金槌のようなものを振り回し、魔獣を追い払い、逃げている。


 そのフードの女性に四つ足の魔獣が飛びかかる。


 矢を放ち、その魔獣を撃ち落とす。そこで、フードの女性はこちらの存在に気付いたようだ。

 こちらを見て舌打ちをしている。魔獣の追加が現れたと思ったのだろうか。


 早めに誤解を解いた方が良いかもしれない。

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