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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
禁忌の森

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030 赤い実

 水浸しになったスコルが体を大きく震わせ水しぶきを飛ばす。周囲を気にしない、気にしていない行動だ。こちらに思いっきり水しぶきがかかる。

「うわ、冷たっ」

 スコルの方を見る。

「ガル」

 スコルはそれがどうした、という表情でこちらを見ている。

「自分の方がもっと冷たかったって言いたいの?」

 スコルはこちらの言葉を無視して上を向き大きな欠伸をしていた。


「むぅ」

 スコルの自由さに、ちょっと呆れてしまうが、野生の動物らしい、と考え直す。

「仕方ないか」

「ガル」

 まだ水気の残る青い毛皮に指を入れて匂いを嗅いでみる。ゴワゴワした感じや獣臭さは薄れている。

「今度からこまめに体を洗おう。それと次は歯も磨こう」

「ガル」

 スコルは諦めたように小さなため息を吐いていた。

「さあ、帰ろうか」

『ふむ。ソラよ、もう帰るのじゃな』

「うん」

『今日は何も持って帰らないのじゃな』

「そうだね。効率は悪いのかもしれないけど、今は、一度に色々とやろうとせずに一個一個を積み重ねたいんだ」


 スコル、イフリーダとともに拠点へと戻る。予想していた通り、帰り道の腐葉土でスコルの足元はドロドロだ。だが、それをスコルが気にした様子はない。

「少しは気にして欲しいんだけどね」

 湖から水を汲んで足にかけてあげる。

「ガルル」

 スコルは前足をちょこんと持ち上げる。気にしすぎだとこちらに伝えているようだ。スコルはこちらに意図が伝わったことが分かったのか、そのまま座り込み丸くなる。体を洗ってあげたのが台無しだ。


『ところでこれからどうするのじゃ?』

 空を見て太陽の傾きを確認する。まだ日が落ちるには余裕がありそうだ。

「せっかくだから東の森の奥を探索しようかな」

『ふむ。分かったのじゃ』

「ガル」

 話は終わったのかという感じで丸まっていたスコルが立ち上がる。


 スコルに頷きかけ準備をする。石の斧と石の短剣、背負い籠を持ち東の森へと歩いて行く。薄暗く、こちらの様子を伺うような蠢く気配があちらこちらから感じられる森。もう何度も踏み入れ、今更迷うこともない慣れた場所だ。


『しかし、ソラはすぐにでも四つの王の討伐に向かうと思ったのじゃ』

「出来ればそうしたかったんだけどね」

 森の中を歩きながらイフリーダと会話を続ける。

「まだ生活が安定したとは言えないし、遠出するための道具が足りないかな」

『ふむ。その身一つが道具ではないのじゃな』

 足元のイフリーダは首を傾げている。

「そうだね。人には食料も、水も、安心して眠るための場所も必要なんだ。それが準備できない限りは遠出出来ないよ」

『ふむ。なるほどなのじゃ』

 イフリーダが少しだけ何か考えているような、そんな複雑な表情で頷いていた。


 森の雰囲気が変わる。周りの木よりも背が低く細い若木、木々に絡みつくツタ、背が低く赤い丸々とした果実を実らせた植物、様々なものが見える。この辺りの方が自分がよく知っている森という感じがする。


「まずは赤い実を採取しよう」

 背の低い植物から、まん丸の小さな赤い果実を一つだけちぎり取る。

「これ食べられるよね」

『うむ。問題ないと思うのじゃ』

 イフリーダの言葉を信じて、指でつまめるほどの小さな赤い実を少しだけ囓ってみる。

「あっ!」


 赤い実を囓った瞬間、口の中に火が走る。

「ぺっ、ぺっ、ぺっ」

 すぐに口の中の赤い実を吐き出す。

「あつひ、いたひ、からひ!」

 口の中に辛さが広がり、ヒリヒリと痛みが走る。

「な、なひ、ほれ」

 赤い実を噛んだ時の汁が口の中に残っている。

「みず、みず」

 水を求めて周囲を見回すが何も見つからない。湖まで戻れば、いくらでも水が手に入る。しかし、ここには水がない。


 口の中が辛さでいっぱいで耐えられそうにない。しかし、ここには水がない。


 水がない。


 もう一度、周囲を見回す。


 一本の若木が目に入る。青々としたまだ成長していない緑色の植物。


 石の短剣を使って緑の植物の皮を剥ぐ。そして剥いた中に口をつけ、そのまま吸う。植物の中に蓄えられていた水分が口の中の痛みを和らげてくれる。


 ……。


 口の中の痛みがなくなるまで植物に口をつけ続ける。


「ひ、酷い目に遭った」

 口の中の辛さを逃がすように大きく息を吐く。まだ口の中がヒリヒリしている。

「確かに食べられるけど、これは酷い」

 ちょっとだけ恨みがましい目でイフリーダを見る。

『ふむ。身体に害はないと思うのじゃ』

 イフリーダはおかしいなぁという感じで首を傾げていた。その姿を見て、小さくため息を吐く。そして、頭を振る。


「うん。そうだね。害は、ないんだね」

 改めて赤い実を見る。


 実った小さな赤い実をちぎり取る。手に取ってよく見てみる。少しだけ固い艶々とした皮と囓ってみて初めて分かった種しか詰まってないスカスカの中身。甘そうな見た目に騙された。


 赤い実を背負い籠に入れる。

『ふむ。先ほどの様子から必要ないように見えたが、集めるのじゃな』

 目についた赤い実を背負い籠に入れていく。

「そうだね。最初はびっくりしたけど、これはこれで利用価値があると思うんだ」


 スコルは先ほどの騒動の間も自分には関係ないと言わんばかりに暇そうな顔で地面に寝転がって丸くなっていた。体を洗ってあげたのが台無しだ。


 ……。


 スコルがこれだけ油断しているということは、この周辺には、もう危険な生き物がいないのだろう。

 今なら、いくらでも、好きなだけ採取が出来そうだ。


 ……。


 大きくため息を吐く。


「今日はもう帰ろうか。さっきので疲れたよ……」

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