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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
空の生命
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292 ようするに

『それで誰かが待っているって言っていたけど、誰?』

 首根っこを掴まれふてくされたような様子の真っ赤な猫がそんなことを言っている。

『レームです』

 誰とは聞かれても誰とは答えにくい。


『そう……』

 真っ赤な猫が大きなため息を吐き出している。

『えーっと』

 どう答えたら良いのか分からない。


『聞き間違いかと思っていた』

 そして、ゆっくりとこちらへ振り向こうとして、首を捻り、悲鳴を上げていた。

『痛い! 変な風に持ちすぎ!』

 真っ赤な猫はよく分からないことで怒っている。


『えーっと、それで何だったでしょうか』

『あなたね、その時々、妙に丁寧な喋り方で喋るの、何? 私を馬鹿にしているの?』

 真っ赤な猫はさらによく分からないことで怒っている。本当によく分からない。


『はぁ、それで?』

『まぁ、いいわ。あなたが言っていた名前! そう名前! レームって、あのレーム?』

 真っ赤な猫耳は姦しい。魔獣の姿に生まれ変わって少しは落ち着いたかと思っていたが、駄目だったようだ。

 性格というのは、その『もの』自体の本質なのだろう。魂に刻まれたものなのだろう。


『あのが何か分かりませんが、レームはレームですよ』

『だから、それを聞いているの!』

 だから、それがよく分からない。


『こやつ、本当に鬱陶しいのじゃ』

 銀のイフリーダが肩を竦めている。

『さっきから、このちっこいのは何なの!? 頭の中にちっこいのの姿が浮かんできて凄く気持ち悪い!』

『気持ち悪いとは何じゃ。我のようなのは可愛らしいと言うのじゃ』

『それ自分で言う!? ……私の方が愛される姿をしていると思う!』

 何だろう。とても騒々しい。マナの伝達で会話しているはずなのに、そこで行われているのは意思の伝達だけで音を発していないはずなのに、とても騒々しい!


 そういえば、この真っ赤な猫耳が銀のイフリーダと直接会話するのは、これが初めてなのか。まぁ、以前の銀のイフリーダは、僕としか会話していなかったのだから、それも仕方ないけれど……。


『それで、レームって、あの王子様のレーム? って、あなたが分かるわけないか』

 なるほど。それが聞きたかったのか。


 この真っ赤な猫耳……いや、真っ赤な猫か。彼女の言葉は難しい。何を聞こうとしているのか、よく考えないと理解が出来ない。

『それであっていると思います』

『え!? 本当に? 王子様が待っているの? ちょっと、もう少し綺麗な格好をした方が……』

『いや、猫じゃないですか』

 猫だよね。

『そこは、気持ちの問題だから!』

 真っ赤な猫の気持ちはよく分からない。


 にしても……そうか、この真っ赤な猫はレームを知っているのか。何処かで接点があったのだろうか。この禁忌の地では出会っていないはずだ。となると、ここに来る前のことだろうか。


 そんな会話を続けながら、蜘蛛の糸の上を伝って歩く。


 その途中、メロウの里の近くを通るが、何も起きなかった。誰とも出くわすことはない。静かなものだ。


 もう何処か諦めた様子で大人しく運ばれている、真っ赤な猫を見る。


 もし、ここにカノンさんが居たら「それは私への贈り物の食材と見たのだ」くらいのことは言いそうだ。

 本当に言いそうだ。


 真っ赤な猫を見る。

『ちょっと何? 何か失礼なことを考えていない?』

 本当に騒々しい。

『うむうむ。丸々と太って美味しそうだと思っているのじゃ』

 いや、思っていない。

『ちょっと! 誰が太っているって! 綺麗なほっそりとした体でしょ!』

 真っ赤な猫の体は首根っこを掴まれてだらーんとだらしなく伸びている。どう見ても猫だ。


『あー、そろそろ沼地を抜けますよ』


 ……。


 真っ赤な猫と銀のイフリーダは仲良くやれているようだ。仲が良いのは良いことだ。


 ……。


 沼地の終わりが見えてくる。


 そこには暴れ馬とともに立っている鎧を着込んだ骨が居た。そう、レームだ。


 レームは気難しそうに腕を組み、目を閉じている。いや、骨なのでまぶたはなく、眼球も存在しないのだが、何故か、目を閉じている姿が重なって見えた。


『ねぇ、骨が見えるんだけど』

『うむ。骨じゃ』

 真っ赤な猫と銀のイフリーダがひそひそと話している。いや、意思を直接やりとりしているので、ひそひそしている風を装っていると言うべきだろうか。


『えーっと、あの骨がレームです』

 それを聞いた真っ赤な猫が驚きの声を上げ、慌ててこちらへと顔を向けようとして、思いっきり首を捻っていた。

『痛い! もう、ちょっと!』

 この間もやったと思うのだが、この真っ赤な猫は学習しないようだ。


『それで、あの骨が王子様? でも骨、骨、骨!』

 真っ赤な猫はよく分からないことを呟いている。


 生前もこんなに騒がしかっただろうか。


 ……あー、騒がしかった。もう、これは仕方ないのだろう。


 諦めるしかないのだろう。


『レーム!』

 レームに呼びかける。


『ああ、ソラ。帰ってきたのだな』

 金色のレームがこちらを見る。そして、ちょっと驚いたような様子を見せる。


『それで、その持っている魔獣は……』

 猫です。


『骨が喋った!』

 猫が驚いている。

『猫が喋った!』

 骨も驚いていた。

『骨も猫も喋るのじゃ』

 銀のイフリーダはよく分からない絡み方をしている。


 何だろう、これ。

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