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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
空の生命

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285 乱離拡散

「して、何用で。この先には里がある故、事と次第によっては続きになるので」

 里長がこちらを見ている。その目は、こちらの思惑を探っているようにも見える。


 ……。


 戦いの続き、か。


 メロウの四人たちは里長の言葉を受け、戦意をみなぎらせ始めていた。


 だから、首を横に振る。思惑なんて無い。メロウの里に用があるわけでも無い。

「その、その先に。にしの、にしのたに、谷に行く」

 まだ上手く喋ることが出来ない。誤解無く伝えることが出来ただろうか。


 里長はじっとこちらを見ている。そして、小さくため息を吐き出した。

「分かったので。そのまま進むのがよろしいので」

 里長が西側を指差す。そちらにも蜘蛛の糸が伸びていた。


 この蜘蛛の糸の道をたどっていけば西の谷に辿り着くのだろう。


 頭を下げる。

「あり、ありがとう」

「よろしいので。争いは好まぬので」

 里長は何処か寂しそうな、何かに思いをはせているかのような顔をする。僕はメロウの里がどうなったかを知らない。今の状況を知らない。


 ……。


 首を横に振る。考えるのは後だ。進もう。


 すね当てのような蜘蛛の足を深く沈め、飛び上がる。西の谷へと向かう蜘蛛糸に着地する。


 行こう。


『ふむ。里の方には行ってみないのじゃな』

『行く必要が無いからね。もし向かうとなったら争いになっていただろうしね。さっきも少し思ったんだけど、そこまでして行く意味が無いからね』

 銀のイフリーダが腕を組む。

『ふむ。何か身につけるものや旅が便利になるものがあるやもしれぬのじゃ』

 銀のイフリーダが言っていることは分かる。今の自分はリュウシュに貰った布を纏っただけの情けない姿だ。でも、それで充分だ。


『必要ないよ』

 そう、必要ない。


 蜘蛛糸を伝い歩いて行く。


 また銀のイフリーダと二人っきりだ。


 毒の沼地の上を歩いて行く。ただ、ただ歩く。


 その途中、途中で、毒の沼地から巨大な口を持った蜥蜴のような魔獣や、無数の触手を持つ樹木のような魔獣、様々な魔獣が襲いかかってくる。

 前回通った時には出会わなかった魔獣たちだ。


 何処に隠れていたのだろうかというくらいの勢いで現れる。襲いかかってくる。


 だが、どれもがたいした魔獣じゃない。


 毒の沼地を波立たせ、飛び上がってきた巨大な口の蜥蜴がこちらを飲み込む。喰われる。『喰われたね』

『何をのんきにしているのじゃ』


 巨大な口が閉ざされる。このままでは、その中にびっしりとくっついていた鋭い棘のような歯ですりつぶされるだろう。


 だが、その口の中から、そのまま中から体を広げ、逆に喰らう。吸収する。大きく膨らみ覆い尽くす。そして一気に吸収する。


『あまりマナを蓄えていないね』

『おぬし何でもありじゃな』

 銀のイフリーダの何度目かの言葉。大きなため息を吐き出している。


 その言葉を聞いている最中にも毒の沼地から現れた魔獣がこちらに襲いかかってくる。休む間もない。


『ここは魔獣が豊富だね。少しは力の足しに出来そうだよ』

 強敵との戦いによる、マナの消費が激しかった。ここで補充できるのは幸運かもしれない。この辺りの魔獣の保有しているマナの量は少ないが、数が多い。食べながら進もう。


 幸いにも魔獣は好戦的だ。


 次々と襲いかかってくる。


 さあ、食事の時間だ。


 喰らいながら進む。力を蓄えながら進む。


 この体には毒も効かない。沼地も関係ない。魔獣も問題無い。


『おぬし、何でもありじゃな!』

 銀のイフリーダが大きなため息を吐き出している。


 そして、谷が見えてくる。もうここまで辿り着いた。


 毒の沼地の先は崖になっている。毒の液体が崖下へとドロドロと流れ落ちていた。


 異様な光景だ。


 蜘蛛の糸はここで途切れている。さあ、どうやって進もう。


『ふむ。どうするのじゃ』

 ここで蜘蛛の糸は途切れている。


 ならば出来ることはある。


 簡単なことだ。


 背中の翼を広げ、飛ぶ――飛び降りる。


 毒の滝を眺めながら落ちていく。

『我ながら何でもありだと思うよ』

『そうなのじゃ』

 銀のイフリーダは肩を竦めている。


 黄色と緑色が混じった異様な液体がボコボコと気泡を生みながら流れ落ちている。気泡が弾けて毒の空気を生み出している。


『おぬしなら、この毒の空気も問題ない……のじゃろうのぅ』

 銀のイフリーダはそんなことを言っている。そう、確かに問題無い。

『問題ないだろうね……って、うん? 普通の人では問題があるってこと?』

『それはそうなのじゃ。このような毒気を浴び続ければ体が爛れてしまうのじゃ』

 どうだろう? 思い出す。そういえば、カノンさんは、この毒は獣の体を持つものを近寄らせないためのものだと言っていた。でも、問題があるのは獣人だけではなかったということ?


 落ちる。


 そして、崖下が――地表が見えてくる。


 無数の海草のような植物が生えている陸地に着地する。


 ここは空気が綺麗だ。


 この体でも空気が綺麗だと感じることが出来る。


『ふむ。ここのマナは浄化され、綺麗になっているのじゃ。このような場所があるとは思わなかったのじゃ』

 銀のイフリーダが感心したように周囲を見回している。


 浄化されたマナ、か。マナが濁れば魔獣を生み出す。なら、浄化されていればどうなるのだろう。


 ……。


 目的の場所までは後少しだ。

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