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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
禁忌の森

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029 四王

 目が覚める。


 寝起きの眠気覚まし代わりに体を動かしてみる。

「うん、悪くない」

 睡眠時間は短かったが体の異常は感じない。昨日の打ち身や擦り傷も治っている感じがする。

 シェルターの外に出て腕を回す。

「うん、大丈夫だ」


『さて、今日はどうするのじゃ』

 足元にはいつの間にかイフリーダの姿があった。

「さあ、どうしようかな」


 湖から汲んだ水で顔を洗いながら考える。


 とりあえず大蛇の皮に包まれた三角錐の中の肉を確認する。中の肉は水分が飛び固くなっている。もう後数日で完成しそうだ。とりあえず中に木の枝を足しておく。

 簡易物干し台に吊した肉も確認してみる。まだ特に変化は無い。腐り始めているような様子もない。

「昨日干したところだからね。こっちはこれからかな」


 大きな焚き火の中から真っ黒になった蛇肉の塊を取り出す。夜の間中、火の中に入れていたからか真っ黒になっている。とりあえず、この黒くなった塊たちはざるの上に積み上げておく。


「これは、とりあえずこのままかな。と、まずはご飯だね」

 昨日の肉の塊を石の短剣で薄く切り分け、木の枝で作った串を通す。そのまま焚き火で炙って食べる。

「うん。この方が、まだ美味しいよね……」

 こちらが炙っただけの蛇肉を食べている横でスコルも小さい方の大蛇を食べていた。まだ腐り始めてはいないようだ。ガツガツとかなり固かったはずの皮ごと齧り付いて食事をしている。皮を食べても、あまり美味しくないと思うのだが、スコルには関係ないようだ。


 こちらが見ていることも気にせずに食事を続けているスコル。その様子に今日やるべき事を決める。


 食事の後は、いつもの研ぎと文字の勉強を行う。

「ガル」

 スコルはそれを不思議そうな顔で眺めていた。

「うん、今日は西の森に行こう」

『ふむ。了解なのじゃ』

「スコルも一緒だからね」

「ガル」

 スコルは了解したという感じで小さく頷く。


 手には武器代わりの折れた剣といつも水くみに使っている兜を持つ。

『ふむ。今日はそれだけなのじゃな。拾った石はどうするのじゃ』

 そこでスコルの方を見る。

『ふむ。そやつに持って貰うのじゃな』

 スコルは何のことだ、という感じでこちらを見る。とりあえず首を横に振っておく。


 西側の森に入って、しばらく歩くとすぐにその雰囲気が変わった。巨大な木が並び、ぐちゃぐちゃと足元にまとわりつくような湿った地面に変わる。

「ガルル」

 スコルは警戒するように、周囲を見回しながらゆっくりとこちらの後を着いてくる。こちら側の森には姿を見せない危険な生物が居るというのは本当のようだ。


 さらに西側の森を奥へ向かって歩いているとチロチロと何かが流れる音が聞こえてきた。いつもの小川だ。何度も往復しているので迷うことはない。


 目的地の小川に到着する。

「さて、と」

『石を拾うのじゃな』

 改めてスコルの方を見る。スコルは小川に辿り着いても、周辺の警戒を行うようにキョロキョロと周囲を見回していた。

「スコル、小川に入って貰ってもいいかな」

「ガル?」

 スコルは、何で? という感じで首を傾げているが、それでもゆっくりと小川の中に入る。

 スコルが小川に入ったのを確認して、自分もその中に入る。足元を流れる水が少し冷たい。

「さあ、体を洗おう」

 自分の言葉を聞いたスコルは一瞬不思議そうに首を傾げ、そして驚きの表情を作る。


「だって、これ」

 スコルの体の青い体毛に触れる。ゴワゴワとして脂っこい。それに獣くさい。

「ガルル」

 スコルが諦めたようにしょんぼりと頭を下げる。


 兜に小川の水を汲み、スコルの背中からかける。

「ガル!」

 スコルが驚いたような声を上げる。それを無視して水をかける。水をかけ続ける。

「本当は石けんも欲しいし、ブラシも欲しいんだけどね」

 無い物は仕方ない。手でスコルの体を揉みほぐし、洗ってあげる。スコルは諦めたように頭を下げて小川の水を飲んでいた。

『ふむ。ソラよ、そやつの体を洗いに来たのじゃな。しかし、帰り道で汚れてしまうと思うのじゃ』

 帰り道には、腐った落ち葉でぐちゃぐちゃになった地面を通る必要がある。回り道は出来ない。スコルは四つ足だ。せっかく体を洗ってあげても足元は汚れてしまうだろう。

「うん。それは仕方ないね。それでも今よりは綺麗になるはずだから」

 スコルの体は非常に汚い。本来はもっとサラサラとした毛質だったと思われるが、今はゴワゴワだ。体を洗うような余裕がなかったのだと思う。まるで逃亡兵のようだ。

「これは時間がかかりそうだ」


『ふむ』

 スコルの体を洗っているとイフリーダが小さく頷いていた。

『ソラよ、聞くのじゃ』

 こちらに呼びかける猫姿のイフリーダを見ると、その姿が一瞬だけぶれた。何かノイズが走ったようにざざっとぶれる。

『我が頼みたいことの二つ、マナの奉納と迷宮の攻略についてなのじゃ』

 スコルの体を洗いながら、頷く。

「マナの奉納……魔獣を倒して、その体の中にあるマナ結晶をイフリーダに食べて貰うことだよね」

『ふむ。正確には倒した魔獣が持っていたマナを奉納するのじゃが、今は神殿がないので仕方ないのじゃ』

「後は迷宮だけど、そこへ挑むには、まだ力が足りないんだよね」

『うむ。そうなのじゃ。そして、その力を得るために、ソラにやって貰うことがあるのじゃ』

「うん」


 また猫姿のイフリーダの体にノイズが走る。まるで何処か遠くから何かを受信しているかのようだ。

『強大なマナを持った四つの王の討伐なのじゃ』

「四つの王?」

 イフリーダは頷く。


『この地に眠る四つの王なのじゃ。一つは古き礎に縛られた王、一つは獣たちの女王、一つは毒と腐敗に蠢く王、一つは邪なる竜の王なのじゃ』

「な、なんだか壮大だね」

『そのどれもが、マナを集め成り上がった者達なのじゃ』

「分かったよ。ここで生活出来ればそれでいいって訳じゃないもんね。助けてくれたイフリーダには出来るだけのことを返さないとね」

 猫姿のイフリーダが頷き、ニシシと笑う。

「でも、その王って何処に居るの?」

『この地なのじゃ。ソラが行動範囲を広げれば、自ずと出会うのじゃ』


 イフリーダが話してくれたことを考える。もしかすると大蛇を倒したことで、少しだけ、こちらの力を認めてくれたのかもしれない。


 考え、頷く。


 大蛇にも勝てたんだ。力をつければ、きっと、その王たちにだって勝てるはず。

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