表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
空の生命

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

287/365

282 冬虫夏草

 西の森を進む。


 こちらは開拓が進んでいないのか、道はなく、腐った落ち葉が積もり山になっている。

『なかなか大変な場所のようだな』

 ぐちゃぐちゃと音を立て、レームの操る暴れ馬が森の中を歩いて行く。とても歩きにくそうだ。


『そうだね』

 僕には歩きにくいが歩けないほどではない。


 西の森を歩く。


 そして、その途中で足を止める。

『ソラ、どうした?』

 レームが暴れ馬を止め、こちらへと振り向く。


 音が聞こえる。


 ちょろちょろと何かが流れるような音。小川が近いようだ。


 スコルの体を洗ってあげたこともあった小川だろう。なんだか懐かしい。


 だが、それよりも、だ。


 空を見る。この辺りには大きな木が沢山生えている。その大木はいくつもの細く長い手を伸ばし、緑の葉によって陽の光を遮っている。


『ふむ。確かに何か居るのじゃ』

 そう。木の上にマナの輝きが見える。そんなに強い輝きではないが、確かにマナの反応だ。


 魔獣だろうか。


『ちょっと見てくるよ』

 背中の翼を広げ、飛び上がる。網のように伸びた木の枝を、その迷路をくぐり抜け――飛ぶ。


 そして、木の枝の上に何かの黒い影が見えた。


 飛び、近づく――それは黒い翼を持った鳥のような魔獣だった。


 この辺りはヨクシュの住んでいる領域だったはずだ。もしかすると、と思ったが、違っていたようだ。


 黒い翼の魔獣はこちらに気付いていない。飛び続け、そのまま黒い翼の魔獣を突き抜け――喰らう。取り込むように捕食し、木の枝を抜ける。


 マナの保有量はそれほどでもない。迷宮で喰らった魔獣の方が多い。その半分以下だろうか。


 見かけたマナの反応はただの魔獣だったようだ。残念なような、ほっとしたような気分だ。


 そして、木の上へと抜ける。


 何処までも広がる青空。そして、足元には緑の絨毯が広がっている。見惚れてしまいそうな光景だ。


『凄いね。何処までも世界が広がっているよ』

『ふむ。世界は広いのじゃな』

 銀のイフリーダも目を大きく見開き、見入っている。


 世界は広い。


 この禁域の地ですら、こんなにも広いんだ。何処までも世界が広がっている。


 ……。


 広い。


 広いなぁ。


 眺め続ける。


『ん?』

 

 その緑の絨毯の上に何かあるのが見えた。


 気になり、そちらへと飛び、向かう。


 そこにあったのは木の枝を組んで作られた建物だった。丸い屋根の、まるで鳥の巣のような建物だ。それがいくつも並んでいる。


 建物に近寄り、中を覗く。中心部には横に伸びたまっすぐな木の枝が刺さっていた。いや、木の棒と呼ぶべきだろうか。


 何に使う木の棒だろうか?


 そして、木の棒の近くには細い木の枝を編んで作った壺が置かれている。人工物だ。誰かが作ったのは間違いない。


 ……。


 もしかすると、ここはヨクシュの里だったのだろうか?


 だけど、その肝心のヨクシュの人たちの姿が見えない。何処に行ったのだろうか?


 どの建物にも人の姿がない。無人だ。


 どういうことだろう?


 ……。


 いや、考えても仕方ない。あまりレームを待たせるわけにもいかない。戻ろう。


 緑の絨毯に突っ込み、そのまま落ちる。


 落下する。


 そして、下で待っていたレームの前に着地する。こちらに気付いていなかったのか、暴れ馬が驚き暴れる。

『ソラ、あまり驚かせるな。こいつが飛んで逃げそうになっている』

 レームが骨の頭をカタカタと鳴らしながら、暴れ馬の首筋を優しく撫で落ち着かせている。


『ごめん、ごめん。そんなに驚くとは思わなかったよ』

『ああ。それで何があった?』

『魔獣が。でも、それくらいだね』

 正直、何も無かったのと同じだ。


『そうか。それが食べられそうな魔獣だったなら、こいつのために取ってきて欲しかった』

 レームは暴れ馬を撫でている。


 あー、すっかり忘れていた。僕やレームは食事の必要は無いけれど、暴れ馬は食事をする必要があるんだった。


『分かったよ。次に見つけたら、持って帰るよ』


 西の森を進む。


 途中、何度か空飛ぶ魔獣を見つけては狩り、喰らう。自分は、その魔獣の体内にある魔石を、外側の肉は暴れ馬が食べる。生でも関係なく、がっつりと食べる暴れ馬は、なかなかに強く恐ろしい魔獣だ。


『そういえば、レーム、拠点に戻る途中、捕まっていた時に戦士の二人と何か会話していたようだけど、何を会話していたの?』

『うん? ああ、何、たいしたことじゃない』

 何故かレームが誤魔化す。


『ふむ。こやつ、あやつらに「ヒトシュの勇者レーム、戦士の王を守る盾となることを頼むのです」とか言われていたのじゃ』

 銀のイフリーダが唇の端を持ち上げ楽しそうに笑い、教えてくれる。

『み、見ていたのか』

 馬上のレームが骸骨頭をコツコツと叩いている。

『レーム、あの二人と仲が良いよね』

『う、うーむ』

 レームは腕を組み唸っている。


 そして、毒の沼が見えてくる。


 やっと、ここまで来ることが出来た。目的地はもうすぐだ。


『ソラ、ここは?』

『毒の沼地だよ。目的の場所はこの先にある』

 沼地の先を見る。


『うーむ』

 その毒の沼地を見たレームが腕を組み唸っている。先ほどよりも深刻そうな様子だ。

『どうしたの?』

『いや、毒か、と思ったのだよ』

 毒?


『僕もレームも問題無いと思うけど?』

 そう、今の僕には毒なんてたいした問題じゃない。死んでいる――骨の体のレームも問題無いだろう。


『そうだな。だが、こいつは……』

 レームが暴れ馬を見ている。暴れ馬はよく分からないという様子で、レームと僕を見比べている。

『なるほど。確かに、だね』

 暴れ馬はここを渡ることが出来ない。


 いや、レームもどうだろう。


 毒が問題無いというだけで、沼は……。


 レームが歩いている途中で、そのまま沼に沈んでいって、大変なことになるかもしれない。


 さあ、どうしようか。


 ……。


『レームはここで待っていて。すぐに終わるよ』

『いや、しかしだな』

『僕は大丈夫だよ』

 レームが僕を見る。だから、僕はレームを見返す。


 そしてレームが頷く。


 レームが暴れ馬を動かし、来た方へと向き直る。

『分かった。では、ここで待つとしよう。ここで、ソラを追うものがいないように、守る盾となろう』

『ありがとう。任せたよ』


 殿はレームに任せた。


 さあ、進もう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ