280 終わり
戦士の二人は驚いた顔のままこちらを見ている。
「ぼ、僕が、せんしの王だ」
語りかける。
そして、手に持っていた世界樹の弓を、世界樹の木剣を戦士の二人が見えるように掲げる。
戦士の二人は、こちらを見つめている。その二人が顔を見合わせる。
そして、ゆっくりと膝を付いた。
「戦士の王の帰還なのです」
「戦士の王の帰還なのです」
戦士の二人に通じた。
言葉が通った。
分かって貰えた。
二人に近寄ろうと足を動かす。その瞬間、二人は立ち上がり、槍を構えた。
「え?」
驚きで足が止まる。二人が膝を付いたのは一瞬だった。
「分かったのです」
「何が起こっていたか分からないが、そこにいる理由はなんとなく理解したのです」
戦士の二人がこちらを見ている。
「だけど、それとこれは別なのです」
「別なのです」
戦士の二人は槍を構えたままだ。
『ソラ……』
レームがこちらを見る。
『ふむ。どうやら、おぬし、嫌われているようじゃ』
銀のイフリーダは笑っている。
『イフリーダ、そういうのはいいよ』
銀のイフリーダに声をかける。
『僕も分かっているよ。結局、遅すぎたということなんだろうね』
しがらみだ。
捨てられないものがあるのだろう。
だが、分かって貰えた。それで充分なのかもしれない。
ここは戦うしかない。
しかない!
世界樹の弓を構える。
それを見た戦士の二人が槍を構え、こちらを取り囲むように動く。二人でこちらを取り囲む、か。
そして、その戦士の二人は片目をパチパチと瞬かせた。
うん?
『ソラ、見えたか?』
レームが馬上から体を傾け、聞いてくる。
『見えた』
『ふむ。何の合図なのじゃ?』
戦士の二人が、槍を構えたまま、じりじりとこちらへと近寄ってくる。
「必殺の一撃を食らうのです!」
「これでお前たちは終わりなのです!」
戦士の二人が周囲に聞こえるほどの大声で叫びながら迫る。
『酷いものなのじゃ』
銀のイフリーダは呆れたような声だ。
『ぐぅ、やられたぁぁ』
レームが首元を掻き毟り、がっくりとうなだれる。
『こちらも酷い演技なのじゃ』
銀のイフリーダが肩を竦めている。
レームを見て、戦士の二人を見る。
……。
とりあえずレームを真似て、自分も喉をかきむしって倒れる。
『これもまた酷い演技なのじゃ』
銀のイフリーダが大きなため息を吐き出している。
「勝利なのです!」
「皆の勝利なのです。このものたちを拠点へと連れ帰るのです」
戦士の二人が槍を持ち上げ、かちどきを上げる。
周囲のリュウシュがそれに答えるように槍を持ち上げる。
そう、戦士の二人に注目して忘れていたが、ここには他のリュウシュたちも居る。居るのは彼らだけじゃない。戦士の二人は僕を知っていても、彼らは僕を知らない。知っているのは魔王の方だけだろう。
これは仕方ないことだ。
戦士の二人に連れられて歩く。
捕縛されてしまった。捕まってしまった。
あー、これは大変だ。
「捕まえたのです」
「強敵を捕まえて拠点まで運ぶのです。その後、そこで一度、牢に入れるのです。その際、ちょっと皆が離れるかもしれないが、大人しくしているのです」
戦士の二人は歩きながら、そんなことを呟いている。
『何という茶番なのじゃ』
銀のイフリーダは大きな欠伸をしている。
リュウシュの一団が森を歩いていく。拠点までは、まだ結構な距離があるはずだ。
歩く。
連れられて歩く。
「そういえばなのです」
「誰か、余っている布を持ってくるのです」
戦士の二人が他のリュウシュに呼びかける。
「分かったのです」
戦士の呼びかけに応じて一人が布を持ってくる。
「その布を、そのものにかぶせるのです」
「いくら爛れ人でも何も身につけていないのは問題なのです」
布を持ってきたリュウシュがこちらと戦士の二人を見比べている。
「あ、あの、それよりも武器を取り上げた方が良いと思うのです」
当然の言葉だった。僕たちは武装解除されていない。
「大丈夫なのです」
「勝った相手なのです。心配する必要は無いのです」
戦士の二人はとても自信に溢れる調子で、そんなことを言っている。
「そうだったのです!」
布を持ってきたリュウシュは感心したような様子で何度も頷いている。
なるほどなー。
リュウシュの一団に引き連れられ、森を進む。
陽が落ちれば野宿を行い森を進む。魔獣が現れれば、リュウシュの一団は手に持った槍を振り回し、追い払う。現れるのはとても弱そうな魔獣ばかりだ。
森を進む。
リュウシュの一団が森を進む。大人しく連れられ、森を進む。
『捕虜になるとは情けないのじゃ』
銀のイフリーダは暇そうに足をぶらぶらと動かしている。多分、本当に暇なのだろう。
そして、森を抜ける。
今度こそ、本当に森を抜ける。
そこにあるのは巨大で強大な防壁に囲まれた城だった。
そう城だ。
ここは拠点だ。
そう、かつて僕が目覚めた場所。
拠点に帰ってきた。
ああ、帰ってきたんだ。




